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原発性アルドステロン症における抗利尿ホルモンの影響 [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

10月1日の北品川藤クリニックの開院に向け、
今日もバタバタと準備が予定されています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
原発性アルドステロン症とバゾプレッシン.jpg
今月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
原発性アルドステロン症における、
抗利尿ホルモン(バゾプレッシン)の関与について検証した論文です。

ホルモン関連の、
ちょっとマニアックな検証です。

原発性アルドステロン症と言うのは、
副腎の過形成や良性の腫瘍(腺腫)から、
アルドステロンという血圧を維持するためのホルモンが、
過剰に分泌されることにより、
高血圧と低カリウム血症とを呈する病気です。

このようにホルモンなどの原因があって、
高血圧が生じる場合を、
二次性高血圧と言って、
通常の高血圧と分けているのですが、
その二次性高血圧症の中で、
最も多いのがこの原発性アルドステロン症です。

この病気は典型的なものは、
血液のアルドステロンと、
レニン活性という数値を同時に測定すれば、
ほぼそれだけで診断の絞込みが可能なので、
僕も可能であれば、
高血圧の患者さんで一度は測定をするようにしています。

さて、原発性アルドステロン症では、
アルドステロンの過剰分泌が生じます。

このアルドステロンは、
ナトリウムと水を身体に溜め込む働きがあり、
それがナトリウムとカリウムとを交換する、
腎尿細管の一種のポンプを介した作用なので、
カリウムは過剰に排泄されて、
低カリウム血症が生じます。

身体の水分量を調節するホルモンには、
もう1つバゾプレッシン(AVP)があって、
これは脳下垂体の後葉と呼ばれる場所から分泌されます。

このバゾプレッシンは、
尿を濃縮させて尿量を減少させる働きがあり、
このため抗利尿ホルモンと呼ばれています。

通常脱水になり、
血圧が低下し、
血液の浸透圧が上昇することにより分泌されます。

身体に水分が足りないことを感知して、
尿量を減少させ、
それ以上脱水が進行しないように調節するのです。

それでは、
原発性アルドステロン症の時には、
バゾプレッシンはどのように分泌が調節されるのでしょうか?

これが意外に分かっていません。

アルドステロンの過剰分泌があると、
血液量は増加し、血液のナトリウムはやや増加します。
血圧も上昇します。
このうち血圧の上昇も血液量の増加も、
共にバゾプレッシンを抑制する因子です。
しかし、その一方でナトリウムの増加は、
脱水の兆候の1つなので、
バゾプレッシンの分泌を刺激する要素の1つとなります。

実際にアルドステロンの過剰分泌が継続すると、
循環血液量は増加せず、
むくみなども生じない、
とするデータがあり、
ホルモンの作用が長期的には減弱する、
一種のエスケイプ現象が起こっている、
とする報告もあります。

こうした知見も考えると、
アルドステロンが増加しているからと言って、
バゾプレッシンが抑制されるとも言い切れないのです。

これまでの報告においても、
原発性アルドステロン症でバゾプレッシンが低下した、
という報告のある一方で、
上昇したという報告もあり、
その結果は一定していません。

この曖昧さの原因の1つとして、
バゾプレッシンの測定が、
不安定で誤差が生じ易いということがあります。

近年バゾプレッシンの前駆物質から生成されるペプチドである、
コペプチン(Copeptin)を、
バゾプレッシンの代わりに測定することが試みられ、
バゾプレッシンの測定より安定していることから、
そちらが主流になりつつあります。

今回の研究では、
フランスの単独施設において、
115名の原発性アルドステロン症の患者さんを、
48名の本態性高血圧(通常の高血圧)の患者さんと、
108名の正常血圧のコントロールの被験者と比較して、
コペプチン濃度と尿中浸透圧などとの関係を検証しています。

その結果…

原発性アルドステロン症の患者さんのコペプチン濃度は、
コントロールの1.61倍(1.26から2.06)、
本態性高血圧の1.40倍(1.08から1.82)、
それぞれ有意に増加が認められました。

血液のナトリウム濃度は、
原発性アルドステロン症の患者さんで軽度上昇していて、
ナトリウム濃度とコペプチン濃度は相関が認められました。

しかし、尿の浸透圧は、
コントロールよりも原発性アルドステロン症の方が低く、
尿量自体も原発性アルドステロン症の方が多くなっていました。

まとめるとこうなります。

原発性アルドステロン症では、
血液のナトリウム濃度に敏感の反応して、
バゾプレッシンの分泌は通常の1.5倍程度に亢進しています。
しかし、その作用はむしろ減弱していて、
尿の濃縮や尿量の低下は起こっていません。

つまり、
腎臓においてバゾプレッシンの効きが悪くなる、
バゾプレッシン抵抗性が生じているのです。

これが何を意味しているのかは、
必ずしも明確ではありません。
原発性アルドステロン症に伴う低カリウム血症は、
尿の浸透圧を低下させる作用があるので、
それで相殺されている、
という考え方は可能ですが、
実証されているものではありません。

ただ、近年糖尿病や心不全など多くの病態において、
コペプチンの上昇が認められる、
という報告があり、
何らかの病的なサインなのか、
それとも一種の代償機転なのかは、
今後の検証を待たなければいけませんが、
最近注目の興味深い知見であることは、
間違いがないと思います。

今日はちょっとマニアックなホルモンの話題でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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yurima

原発性アルドステロン症(両側性)の患者です。
毎朝アルダクトン50ミリを一錠飲んで一年経ちます。

さて、最近夜間トイレに起きることが増えました。(3~4回)。気になって検索していたら、このブログにたどり着きました。

腎臓になんらかの異変が起こっているのかもしれませんが、一ヶ月前に血液検査しましたが、腎機能には特に異常なしでした。11月ごろ定期検診予定です。

ところで、原発性アルドステロン症について、最近多い病気なのか、前から多かったけれど見つけられなかったのか、よくは分かりませんが、私は素人考えで、こんなことを思っています。

花粉症やアトピーや食物アレルギーと似ているのではないかと。

何らかの原因で、何かが飽和状態になったとき、体を防御する物質が沢山出てしまい、それが結局体を攻撃する。

原発性アルドステロン症は、それがアルドステロンなんだろうと。

コペプチンのお話は、無学な私にはなかなか理解するのが難しいのですが、コペプチンから発展したパソブレシンが沢山出ているのに、腎臓で濃縮されず、夜にトイレに何回も行っているのかな、私。と思っている次第です。

ブログ、今後も楽しみにしています。
by yurima (2015-09-21 20:47) 

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