TRASHMASTERS「そぞろの民」 [演劇]
こんにちは。
石原藤樹です。
今日も北品川藤クリニック開業に向け、
慌ただしく1日を過ごす予定です。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
社会派で硬派の芝居が信条のTRASHMASTERSが、
今安保法制を取り込んだ新作を、
下北沢の駅前劇場で上演中です。
リアルな茶の間のセットが舞台に組まれ、
衆議院の安全保障関連法案の採決直後から始まるという、
真っ向勝負のような力作で、
娯楽性はある種捨てた感じがあり、
ともかく全編力の入りまくったディスカッションが連続します。
ノンストップの2時間半で、
こちらにも体力がないと観続けられませんし、
観客をかなり選ぶ感じがあります。
テーマは単一ではなく、
後半は家族の話が俎上に載せられ、
政治と家族と人間の問題が、
一体の物として議論の対象になります。
単純なアジテーションがやりたいのではなく、
それを超えた何かを目指していることは分かります。
ただ、それはそう簡単な挑戦ではなく、
トータルに芝居として成功していたかと言えば、
疑問符が残るところもあります。
印象としては、
大島渚の1960年代くらいの映画に似ています。
「日本の夜と霧」の現代版と、
言っても良いような雰囲気であり仕上がりです。
僕は大島渚の映画は大好きなので、
この作品も嫌いではなく、
最近の迷いのあったTRASHMASTERSの作品の中では、
最も好きな1本です。
以下ネタバレがあります。
国際政治学者の大学教授であった父がいて、
その3人の息子がいます。
長男は商社マンで死の商人的な仕事にも関わり、
次男は新聞記者で、
三男は会社員でしたが、
自分の仕事が軍事目的に流用されたことを憤って仕事を辞め、
活動家のライターの女性と、
安保法制反対の運動をしています。
父親は病で身体が不自由になり、
老人ホームに入所していたのですが、
安保関連法案が衆院で可決されたことに憤って、
老人ホームを脱走し、
家に戻ってしまいます。
それを知っていたのは三男だけでしたが、
丁度国会前のデモで外出し、
家に父親を1人残した時に、
父は首を吊って自殺してしまいます。
通夜の日に父の教え子や家族が喪服で集まり、
そこで「誰が父を殺したのか?」
という議論がいつ果てるともなく続くのです。
如何にも大島渚映画、という設定で、
強引に政治の問題を家族の問題と結び付け、
冠婚葬祭の儀式の場で、
物語を展開させています。
登場人物が全て喪服であるのは、
これが父の弔いであると共に、
今の社会や民主主義の弔いでもある、
ということを示している訳です。
しかし、後半は3人の兄弟の、
誰に最も父の死に対する責任があるのか、
という話になり、
最も優等生に見えた次男が、
実は最も父親から理解されていなかったことが明らかとなると、
ラストには次男も首を吊って自死してしまいます。
この家族のドロドロと、
国家と政治の問題が、
必ずしも溶け合っていない、という点が、
構成上の欠点ではあるのですが、
それはかつての大島映画でも同じことで、
個人的な心情のようなものが、
最終的にはテーマとして浮上するからこそ、
ドラマは成立するのだと思います。
キャストは皆好演で、
前回公演では絶叫台詞が聞き取れず、
硬くて稚拙に感じたのですが、
今回の後半の絶叫の連続は、
しっかりと芝居になっていました。
ここまでやってくれると清々しい感じがしますし、
技術的にも進歩していると思います。
屈折した役柄を演じた星野卓誠さんがとても上手く、
直情的な三男の倉貫さんもスマートで良い感じです。
また、三男の恋人を演じた飯野遠さんが、
後半上手でじっと三人の兄弟の議論を見つめている、
冷徹な視線がグッと来ました。
これも大島映画でお馴染みの構図です。
演出は極めて抑制されたもので、
これが正解だと思うのですが、
大島渚の「儀式」みたいに、
もっと様式的に、もっと仰々しくやっても、
良かったのではないかと感じました。
今この芝居がどんな成長を遂げているのか、
芝居は現実を超えているのか、
それともただ呑み込まれているだけなのか、
ある種のレクイエムのように感じられるものなのか、
今日キャストの皆さんが、
どのような気持ちで舞台に立つのか、
目撃は出来ませんが、
応援はしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
石原藤樹です。
今日も北品川藤クリニック開業に向け、
慌ただしく1日を過ごす予定です。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
社会派で硬派の芝居が信条のTRASHMASTERSが、
今安保法制を取り込んだ新作を、
下北沢の駅前劇場で上演中です。
リアルな茶の間のセットが舞台に組まれ、
衆議院の安全保障関連法案の採決直後から始まるという、
真っ向勝負のような力作で、
娯楽性はある種捨てた感じがあり、
ともかく全編力の入りまくったディスカッションが連続します。
ノンストップの2時間半で、
こちらにも体力がないと観続けられませんし、
観客をかなり選ぶ感じがあります。
テーマは単一ではなく、
後半は家族の話が俎上に載せられ、
政治と家族と人間の問題が、
一体の物として議論の対象になります。
単純なアジテーションがやりたいのではなく、
それを超えた何かを目指していることは分かります。
ただ、それはそう簡単な挑戦ではなく、
トータルに芝居として成功していたかと言えば、
疑問符が残るところもあります。
印象としては、
大島渚の1960年代くらいの映画に似ています。
「日本の夜と霧」の現代版と、
言っても良いような雰囲気であり仕上がりです。
僕は大島渚の映画は大好きなので、
この作品も嫌いではなく、
最近の迷いのあったTRASHMASTERSの作品の中では、
最も好きな1本です。
以下ネタバレがあります。
国際政治学者の大学教授であった父がいて、
その3人の息子がいます。
長男は商社マンで死の商人的な仕事にも関わり、
次男は新聞記者で、
三男は会社員でしたが、
自分の仕事が軍事目的に流用されたことを憤って仕事を辞め、
活動家のライターの女性と、
安保法制反対の運動をしています。
父親は病で身体が不自由になり、
老人ホームに入所していたのですが、
安保関連法案が衆院で可決されたことに憤って、
老人ホームを脱走し、
家に戻ってしまいます。
それを知っていたのは三男だけでしたが、
丁度国会前のデモで外出し、
家に父親を1人残した時に、
父は首を吊って自殺してしまいます。
通夜の日に父の教え子や家族が喪服で集まり、
そこで「誰が父を殺したのか?」
という議論がいつ果てるともなく続くのです。
如何にも大島渚映画、という設定で、
強引に政治の問題を家族の問題と結び付け、
冠婚葬祭の儀式の場で、
物語を展開させています。
登場人物が全て喪服であるのは、
これが父の弔いであると共に、
今の社会や民主主義の弔いでもある、
ということを示している訳です。
しかし、後半は3人の兄弟の、
誰に最も父の死に対する責任があるのか、
という話になり、
最も優等生に見えた次男が、
実は最も父親から理解されていなかったことが明らかとなると、
ラストには次男も首を吊って自死してしまいます。
この家族のドロドロと、
国家と政治の問題が、
必ずしも溶け合っていない、という点が、
構成上の欠点ではあるのですが、
それはかつての大島映画でも同じことで、
個人的な心情のようなものが、
最終的にはテーマとして浮上するからこそ、
ドラマは成立するのだと思います。
キャストは皆好演で、
前回公演では絶叫台詞が聞き取れず、
硬くて稚拙に感じたのですが、
今回の後半の絶叫の連続は、
しっかりと芝居になっていました。
ここまでやってくれると清々しい感じがしますし、
技術的にも進歩していると思います。
屈折した役柄を演じた星野卓誠さんがとても上手く、
直情的な三男の倉貫さんもスマートで良い感じです。
また、三男の恋人を演じた飯野遠さんが、
後半上手でじっと三人の兄弟の議論を見つめている、
冷徹な視線がグッと来ました。
これも大島映画でお馴染みの構図です。
演出は極めて抑制されたもので、
これが正解だと思うのですが、
大島渚の「儀式」みたいに、
もっと様式的に、もっと仰々しくやっても、
良かったのではないかと感じました。
今この芝居がどんな成長を遂げているのか、
芝居は現実を超えているのか、
それともただ呑み込まれているだけなのか、
ある種のレクイエムのように感じられるものなのか、
今日キャストの皆さんが、
どのような気持ちで舞台に立つのか、
目撃は出来ませんが、
応援はしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-09-19 08:07
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コメント(3)
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見ごたえのあるお芝居を楽しまれたようですね。
観た後は活力になったり、疲労になったりとおありでしょうが、先生の新しいスタートの活力になるような作品にまた出逢えるといいですね。
私は最近はNEWSが少し辛いです、障り過ぎてしまうようです。
by アミナカ (2015-09-19 10:49)
アミナカさんへ
コメントありがとうございます。
僕も最近は殆どテレビは見ていません。
録画したドラマを見るだけです。
妻がニュースを点けると、
別の部屋に逃げます。
by fujiki (2015-09-20 08:10)
近年稀な出色な舞台でした。「嘆きのピエタ」や「息もできない」に匹敵する力感あふれる芝居になったと総毛立ちました
by おかまち (2015-09-29 02:20)