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消化管出血後の抗凝固剤の再開の是非について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

自宅のインターネットが不通になっているので、
診療所のサイトは更新が出来ない状態です。
ご了承下さい。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
消化管出血後の抗凝固療法.jpg
2014年12月のAmerican Journal of Gastroenterology誌に掲載された、
消化管出血後に抗凝固剤を再開した場合と中止した場合とで、
患者さんの予後を比較した論文です。

ワルファリンや新規抗凝固剤などの経口抗凝固剤は、
心房細動という不整脈による脳塞栓の予防や、
身体に血栓傾向のある場合の血栓症の予防などに、
その有効性は確立しています。

しかし、血液が凝固するのを妨害する薬であるため、
消化管出血や脳出血などの、
出血系の合併症が問題となります。

抗凝固剤は、
出血が起こり易くなる薬ではないのですが、
その性質上凝固は抑えられているので、
何らかの原因で身体に出血が起こった場合には、
その回復が遅く、
病状が重症化し易いのです。

問題は一旦こうした出血系の合併症が、
抗凝固剤を使用中の患者さんに起こった場合、
その後の抗凝固剤の使用は、
どうするのが適切なのか、
という点にあります。

入院治療を要するような出血が起これば、
当然一時的には抗凝固剤は中止されます。

しかし、いつまでもそのまま中止していれば、
脳塞栓や血栓症になるリスクが高まります。

特にワルファリンについては、
その中断時に普段よりも血栓塞栓症のリスクが高まる、
所謂「リバウンド」があるとあちこちに記載されています。

ただ、これはワルファリン中止直後に、
血栓症が起こった、というような症例報告は複数あっても、
実際にその頻度が、
本当に中止直後に増加するのか、
と言う点についてはそれほど明確なデータが存在する訳ではありません。

もしリバウンドがあるとすれば、
なるべく速やかに抗凝固剤は再開する必要がある、
という結論になります。
リバーロキサバンという新規抗凝固剤の臨床試験である、
ROCKET研究においては、
ワルファリンやリバーロキサバンの中止により、
その後平均で117日間の間に、
4.3から4.7%の患者さんに血栓塞栓症が発症した、
という結果になっています。
しかし、一方で2011年のJ Thromb Tronmbolysis誌の論文では、
ワルファリンによる消化管出血後に、
止血を待ってワルファリンを再開したところ、
8.3%に再出血が起こった、
というデータも報告されています。

問題はですから、
抗凝固剤を使用していて出血を起こした患者さんにおいて、
どのくらいの期間抗凝固剤を中止し、
再開するのが望ましいのか、
ということになる訳です。

しかし、
この臨床的には非常に重要な問題に対して、
今のところ明確な答えが得られていません。

今回のデータはその点を明らかにしようとしたもので、
イスラエルの単独施設において、
ワルファリンなどの抗凝固剤を使用中に、
入院を要する消化管出血を来した患者さん197名を、
退院後に抗凝固剤がすぐ再開されたケースと、
再開されなかったケースとに分けて、
両群の予後を退院後90日間観察しています。

これは研究の性質上、
くじ引きで患者さんを再開と中止とに分けているのではなく、
主治医の判断で再開もしくは中止となったケースを、
前向きに観察している、
というデータです。

197名の患者さんの中で、
121名は退院時には抗凝固剤が再開され、
残りの76名は中止のままで経過が観察されています。

使用されている抗凝固剤は、
ワルファリンが145名で全体の74%、
後はダビガトラン、ヘパリンの自己注射、リバーロキサバン、
などとなっています。
患者さんのほぼ6割が、
心房細動に対しての投薬です。

その結果…

経過観察期間中(90日間)に、
抗凝固剤再開群121名中1名、
抗凝固剤中止群の76名中6名が、
血栓塞栓症を新たに発症しました。
殆どのケースは退院後2から8週間の間の発症です。

極めてクリアな結果で、
抗凝固剤を、
概ね出血がコントロールされてから、
2週間以内に再開することにより、
血栓塞栓症のリスクは有意に87.9%低下しています。

その一方で、
同じ経過観察期間中に、
トータルで27名の患者さんが、
再び消化管出血のため入院しています。
その発症頻度は抗凝固剤継続群の方が、
2.17倍中止群より多くなっていましたが、
こちらは有意差はありませんでした。
殆どの出血は退院後2週間以内に発症していて、
退院から平均の再出血までの期間は13日です。

この結果から上記文献の著者らは、
入院を要するような消化管出血後であっても、
中止による再出血のリスクは有意には増加しておらず、
その一方で血栓塞栓症は明確に中止により増加しているので、
入院を要するような消化管出血後であっても、
抗凝固剤は出血がコントロールされてから、
2週間以内には開始することが望ましい、
という結論を導いています。

しかし、正直そこまで言うのは、
言い過ぎのように個人的には思えます。

まず、今回の事例では癌の患者さんが、
特に抗凝固剤中止群で有意に多く、
かつ癌の患者さんでの血栓塞栓症のリスクが、
そうでない患者さんの6.1倍と、
非常に高くなっています。

従って、
仮に癌の患者さんを除外して、
今回のようなデータを取れば、
全く別箇の結果が導かれる可能性があります。

また、消化管出血の中で、
AVM(動静脈奇形)などの頻度が多く、
こうした病気は当然再発がし易いものなので、
消化器病変の性質によっても、
再発のし易さにはかなりの差がある筈であり、
そうした点もバイアスとなっている可能性があります。

また、今回のデータはその4分の3がワルファリン使用で、
それであるなら全てをワルファリン使用群として、
それのみで解析した方が良かったように思います。
ワルファリンと他の抗凝固剤の、
出血リスクや中止時の血栓症のリスクに、
差があるという見解があり、
それが結果に影響している可能性も否定は出来ないからです。

従って、今回の結果のみから、
消化管出血後の抗凝固剤は、
2週間以内に再開するべきだ、
というようには言えないと思いますが、
出血の再発は2週間以内に多いけれど、
塞栓症は2週間以降に多いなど、
興味深い知見は多く、
こうしたデータの蓄積により、
より患者さんにリスクが少ない、
抗凝固剤の使用法が確立されることを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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