SSブログ

潜在性甲状腺機能低下症と心血管疾患リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプト作業をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
TSHと心血管疾患.jpg
先月のJAMA Intern Med誌にウェブ掲載された、
軽度の甲状腺機能低下が、
心臓病や脳卒中の発症や予後に与える影響についての論文です。

甲状腺の機能低下症が、
心臓の働きに影響を与え、
心疾患の予後にも影響を与えることは、
ほぼ実証された事実です。

ただ、このような現象が、
軽度の機能低下症においても起こり得るものか、
という点については議論が残っています。

甲状腺自体に原因のある、
大多数の甲状腺機能低下症においては、
脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値が、
甲状腺機能低下症の指標となります。

この数値が高ければ、
それだけ甲状腺は刺激されているということになり、
それは甲状腺機能低下症が、
それだけ重症であることを示しているのです。

さて、概ねこのTSHの数値が0.5から5mIU/Lくらいが正常で、
10を超えるのが病的な状態と判断されます。

ただ、高齢者では少しTSHが高い方が、
臓器には保護的に働く、という意見もあります。

問題は疫学データでは10を超えない程度の、
軽度なTSHの上昇であっても、
心血管疾患のリスクが増加することを示唆するデータがある、
ということです。

最もラディカルなものでは、
2005年のJ Clin Endocrinol Metab誌の論文において、
TSHの正常上限を2.5くらいに引き下げることが妥当ではないか、
という論考があります。

実際に妊娠中のTSHの基準値は、
2.5以下にコントロールすることが望ましい、
という見解がありますが、
これは敢くまで妊娠中に限ったものです。

それから、以前ご紹介した、
2012年のJ Clin Endocrinol Metab誌の論文では、
70歳以下の年齢層においては、
TSHが5から10程度であっても、
甲状腺ホルモン製剤を使用することにより、
心血管疾患のリスクが低下した、
という結果が報告されています。

しかし、その一方で大規模な疫学データを解析した論文では、
むしろ甲状腺機能低下があった方が、
生命予後には良い、という結果も報告されています。

つまり、
一般の人においてのTSHの数値を、
どのレベルにするのが本当の意味で良いのか、
TSHの基準値がどのように設定するのが望ましいのか、
という点においては、
まだ明確な結論が得られていないのです。

今回の研究では、
これまでの14の大規模な疫学データをまとめて解析することで、
現行のTSHの基準値の、
心血管疾患の予防の面から見た妥当性を検証しています。

TSHが0.45から4.49である、
トータルで55412名の成人の経過を、
3.3から20.0年観察を行なっています。

この数値はほぼ現行の正常値を示しています。

その結果、
この範囲のTSHの増減は、
その後の心血管疾患の発症リスクや、
その生命予後に有意な影響を与えないことが確認されました。

このように、
大雑把に見た場合には、
概ね現行の基準値内のTSHは、
正常と考えて問題はないのですが、
妊娠中のケースでも分かるように、
個別の事例においては、
そう言い切れない部分もあり、
その辺りは誤解のないように、
データの慎重な解釈が必要のように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(24)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 24

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0