脱毛とその再生における臓器レベルのクオラムセンシング [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のCell誌に掲載された、
脱毛とその再生に、
細菌が住み分けのために、
増殖数をコントロールする、
クオラムセンシングというメカニズムが、
関与しているのではないか、
という興味深い研究論文です。
脱毛した毛の再生ということで、
何となくハゲの治療のように思いますが、
基本的にはそうしたことではありません。
体毛や髪の毛を力任せに引き千切るとします。
毛はむしり取られますが、
通常はそのままと言うことはなく、
そこにはまた時間が経てば元のように毛が生えて来ます。
これは要するに、障害を修復するためのメカニズムです。
それでは、
たった1本毛を引き抜いた時と、
100本の毛を同時に抜いた時に、
同じように修復が行われるのでしょうか?
勿論個々の毛の1本1本が、
引き抜かれた時には、
その傷に対して修復機転が働きます。
しかし、それとは別個に、
一度に大量の毛が抜かれた場合には、
それとはまた別個の修復機転が働くのでは、
という想定が可能です。
そこで、こうした実験をします。
ネズミの背中の毛を200本同時に引き抜きます。
しかし、同じ200本の抜き方を色々に変えてみます。
すると、面白いことが分かりました。
広い範囲で200本の毛を引き抜く、
つまりまばらに毛を抜いた時には、
毛は殆ど再生しません。
しかし、ごく小さな範囲の毛を200本引き抜くと、
引き抜いた部分のみならず、
その周辺部分も含めた体毛の再生が起こります。
こちらをご覧下さい。
直径6ミリや8ミリの円の範囲で、
まばらに200本の毛を引き抜いても、
全く毛は再生されません。
しかし、直径が3から5ミリの範囲の毛を200本引き抜くと、
その脱毛部位の体毛が再生するのみならず、
その周辺部位の体毛も再生して増えていることが確認されました。
ここでどのようなことが起こっているかと言うと、
まず損傷した体毛の毛包部分から、
CCL2と呼ばれるケモカインが分泌されます。
このCCL2は単球などの白血球を引き寄せる働きがあるので、
これにより毛包部位に単球主体の炎症が起こり、
そこから分泌されたTNFαというサイトカインにより、
体毛の再生が促されます。
それでは何故、
一定の小さな範囲で体毛を引き抜くと、
引き抜いていない周辺の皮膚においても、
体毛の再生が起こるのでしょうか?
ここからは著者らの仮説になるのですが、
ある範囲に一定レベル以上の体毛の障害が起こると、
それを周辺の毛包の細胞が感知するので、
周辺の障害を受けてない毛包においても、
同じような反応が起こり、
周辺を含む体毛の再生が、
同時に起こるというメカニズムが想定されます。
細菌が自分の棲み分けのために、
周辺の同種の細菌の密度を感知して、
分泌する物質を介して、
自分達の増殖をコントロールする、
クオラムセンシングというメカニズムがあることが知られていますが、
上記文献の著者らの考えでは、
そうしたメカニズムは哺乳類の身体の臓器にもあって、
一定範囲の体毛が引き抜かれると、
それを周辺の細胞群が感知して、
同じような反応を示すのでは、
という仮説が提唱されているのです。
それが、
臓器レベルのクオラムセンシングです。
著者らの計算では、
ネズミの皮膚において、
数ミリのオーダーでそうした調節が働くと仮定すると、
体毛を引き抜く範囲によって、
周辺の反応が異なることを説明可能だ、
としています。
それでは、どのようなシグナルが、
周辺の細胞に皮膚の障害を伝えているのかと言うと、
TNFα産生能のある単核球が、
周辺にも遊走することが、
そのシグナルの伝達に働いているのでは、
という仮説が提唱されています。
まだ、未知数ではあるのですが、
正常な細胞を敢えて障害することで、
その周辺を含めた組織の再生能力を高めることが、
可能となる可能性があり、
今後多くの医療において、
応用可能な知見に結び付く可能性を秘めているように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のCell誌に掲載された、
脱毛とその再生に、
細菌が住み分けのために、
増殖数をコントロールする、
クオラムセンシングというメカニズムが、
関与しているのではないか、
という興味深い研究論文です。
脱毛した毛の再生ということで、
何となくハゲの治療のように思いますが、
基本的にはそうしたことではありません。
体毛や髪の毛を力任せに引き千切るとします。
毛はむしり取られますが、
通常はそのままと言うことはなく、
そこにはまた時間が経てば元のように毛が生えて来ます。
これは要するに、障害を修復するためのメカニズムです。
それでは、
たった1本毛を引き抜いた時と、
100本の毛を同時に抜いた時に、
同じように修復が行われるのでしょうか?
勿論個々の毛の1本1本が、
引き抜かれた時には、
その傷に対して修復機転が働きます。
しかし、それとは別個に、
一度に大量の毛が抜かれた場合には、
それとはまた別個の修復機転が働くのでは、
という想定が可能です。
そこで、こうした実験をします。
ネズミの背中の毛を200本同時に引き抜きます。
しかし、同じ200本の抜き方を色々に変えてみます。
すると、面白いことが分かりました。
広い範囲で200本の毛を引き抜く、
つまりまばらに毛を抜いた時には、
毛は殆ど再生しません。
しかし、ごく小さな範囲の毛を200本引き抜くと、
引き抜いた部分のみならず、
その周辺部分も含めた体毛の再生が起こります。
こちらをご覧下さい。
直径6ミリや8ミリの円の範囲で、
まばらに200本の毛を引き抜いても、
全く毛は再生されません。
しかし、直径が3から5ミリの範囲の毛を200本引き抜くと、
その脱毛部位の体毛が再生するのみならず、
その周辺部位の体毛も再生して増えていることが確認されました。
ここでどのようなことが起こっているかと言うと、
まず損傷した体毛の毛包部分から、
CCL2と呼ばれるケモカインが分泌されます。
このCCL2は単球などの白血球を引き寄せる働きがあるので、
これにより毛包部位に単球主体の炎症が起こり、
そこから分泌されたTNFαというサイトカインにより、
体毛の再生が促されます。
それでは何故、
一定の小さな範囲で体毛を引き抜くと、
引き抜いていない周辺の皮膚においても、
体毛の再生が起こるのでしょうか?
ここからは著者らの仮説になるのですが、
ある範囲に一定レベル以上の体毛の障害が起こると、
それを周辺の毛包の細胞が感知するので、
周辺の障害を受けてない毛包においても、
同じような反応が起こり、
周辺を含む体毛の再生が、
同時に起こるというメカニズムが想定されます。
細菌が自分の棲み分けのために、
周辺の同種の細菌の密度を感知して、
分泌する物質を介して、
自分達の増殖をコントロールする、
クオラムセンシングというメカニズムがあることが知られていますが、
上記文献の著者らの考えでは、
そうしたメカニズムは哺乳類の身体の臓器にもあって、
一定範囲の体毛が引き抜かれると、
それを周辺の細胞群が感知して、
同じような反応を示すのでは、
という仮説が提唱されているのです。
それが、
臓器レベルのクオラムセンシングです。
著者らの計算では、
ネズミの皮膚において、
数ミリのオーダーでそうした調節が働くと仮定すると、
体毛を引き抜く範囲によって、
周辺の反応が異なることを説明可能だ、
としています。
それでは、どのようなシグナルが、
周辺の細胞に皮膚の障害を伝えているのかと言うと、
TNFα産生能のある単核球が、
周辺にも遊走することが、
そのシグナルの伝達に働いているのでは、
という仮説が提唱されています。
まだ、未知数ではあるのですが、
正常な細胞を敢えて障害することで、
その周辺を含めた組織の再生能力を高めることが、
可能となる可能性があり、
今後多くの医療において、
応用可能な知見に結び付く可能性を秘めているように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-04-22 07:59
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