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ピオグリタゾン(アクトス)の交感神経機能への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

あさからレセプト作業などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アクトスの神経障害への効果.jpg
先月のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
インスリン抵抗性治療薬の、
交感神経や心機能への効果についての文献です。

糖尿病やその前段階の1つと考えられる、
所謂メタボリックシンドロームの状態では、
ブドウ糖を利用するホルモンである、
インスリンの効きが悪くなる、
インスリン抵抗性が生じます。

メタボリックシンドロームにおいてのもう1つの顕著な身体の変化は、
交感神経の過剰な緊張状態です。
その結果として安静時の筋肉の交感神経活性は上昇し、
所謂「こむら返り」の原因となりますし、
心臓における心拍の調整機能は低下します。

交感神経の緊張状態は、
神経伝達物質であるノルエピネフリンが、
過剰であることにより起こります。

このノルエピネフリンは、
インスリンに拮抗するホルモンでもありますから、
これは同時にインスリン抵抗性も伴うことを意味しています。

その一方で、
インスリン抵抗性によるインスリンの過剰は、
交感神経の緊張を増し、
ノルエピネフリンの蓄積も促すというデータもあります。

つまり、インスリン抵抗性と交感神経機能の異常は、
相互に影響し合っていて、
どちらが原因でどちらが結果であると、
簡単に決め付けることは出来ません。

ここに、
ピオグリタゾン(商品名アクトスなど)という薬があります。

現行使用されている糖尿病治療薬の中では、
インスリン抵抗性の改善作用が証明されている、
数少ない薬の1つです。

ただ、浮腫み易くなって心不全を悪化させたり、
膀胱癌のリスクを若干上昇させる、というデータがあり、
そのために使用については慎重な判断が求められる薬でもあります。

このピオグリタゾンは、
その薬効のメカニズムがかなり詳細に分かっているので、
この薬の使用によりメタボによる交感神経機能が改善すれば、
インスリン抵抗性が原因であることの、
1つの大きな膀証となるのです。

そこで、今回の研究においては、
このピオグリタゾンを未治療のメタボリックシンドロームの方に、
12週間という比較的短期間で使用し、
インスリン抵抗性の改善に伴って、
交感神経機能の改善が見られるかどうかを検証しています。

対象者はオーストラリア在住で45歳から65歳の非喫煙者で、
アメリカのメタボリックシンドロームの診断基準を満たす42名です。
アメリカのメタボの基準は、
腹囲については日本とかなり違いがありますが、
それ以外はほぼ同じです。
インスリン抵抗性のあることが必須で、
高血圧や糖尿病の基準を満たす人が含まれていますが、
薬の治療をされている人は除外されています。

対象者を2つの群に分け、
ピオグリタゾンもしくは偽薬を、
対象者にも処方する医者にも分からないように、
くじ引きで振り分けて12週間使用します。
ピオグリタゾンは1日15ミリグラムでスタートし、
6週間を経過した後に、
30ミリグラムに増量されます。

これは日本で使用されている用量と同じです。

検査としては、
糖負荷試験や、
人工膵臓を用いたインスリン抵抗性やブドウ糖の利用率を見た試験、
心臓超音波検査を用いた心機能の精密な測定、
放射能でラベルしたノルエピネフリンを用いて、
身体における交感神経の機能と、
ノルエピネフリンの利用率を見た試験など、
かなり詳細なデータが、
ピオグリタゾンの使用前後で施行されます。

その結果…

ピオグリタゾンは、
身体におけるブドウ糖の利用を平均で35%増加させ、
拡張期血圧を低下させると共に、
左室の拡張能と血管の内皮機能を改善しました。
しかし、交感神経機能の改善については、
安静時の筋肉の緊張状態を軽減し、
ノルエピネフリンの神経での利用を促進する作用が、
ピオグリタゾンの使用前後では確認されましたが、
偽薬との比較では有意な差は認められませんでした。

つまり、当初のインスリン抵抗性と交感神経機能との関係、
という観点では、
あまり明確な知見が得られなかったのです。

ただ、これだけ詳細な検査を施行して、
12週という短期間において、
明確にインスリン抵抗性が改善し、
心機能が改善し、
交感神経機能においてもあ良い傾向が認められた、
という意義は大きく、
ピオグリタゾンという薬には多くの問題点はありながら、
メタボに伴う身体の弊害を解消すると言う意味で、
決して侮れない薬効を持つことは、
間違いのないことのように思います。

スタチンと同じように、
この薬を上手く使いこなして、
患者さんに最大の利益をもたらすことを、
そして勿論不要な投薬を控えることを、
心して日々の臨床に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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