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三浦大輔「母に欲す」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
「母に欲す」.jpg
ポツドールの鬼才三浦大輔の新作が、
銀杏BOYZの峯田和伸を主役に、
パルコのプロデュース公演として、
渋谷のパルコ劇場で上演中です。

ポツドールは最初は松尾スズキに、
かなり影響を受けた芝居で始まり、
それからセミドキュメントというスタイルの、
役者をいたぶるような、
過激な芝居で注目を集めました。
そして、その後演出スタイルを洗練させ、
若者の怠惰な生態を、
リアルかつ扇情的に描いた、
一連の作品で頭角を現します。

僕の初見は2005年の「愛の渦」の初演で、
これは2009年に再演されましたが、
非常に洗練された見事な、
かつ過激のツボも押さえた舞台で、
小劇場の歴史に残る作品だったと思います。

ただ、2008年の「顔よ」以降、
上演のペースはグッと落ち、
ポツドールとしての新作は、
2011年の「おしまいのとき」が最後で、
これは旧作をただなぞっただけの印象で、
緻密さが低下し、無理に過激にしたような作品で、
個人的には感心しませんでした。

しかし、今年の2月に平田満夫婦に書き下ろした、
「失望のむこうがわ」は、
ブランクを感じさせない鮮やかな作品で、
今回の舞台にも期待が高まりました。

今回の作品はパルコ劇場のプロデュースの2回目で、
初回の2010年の「裏切りの街」は、
三浦さんがおそらく最も影響を受けている、
松尾スズキさんが出演していましたが、
あまり切実な感じのする作品ではなく、
舞台の使い方もやや持て余し気味でした。

今回はそれと比較すると遥かに洗練されていて、
さすが三浦大輔という演出が随所に見られました。

内容は題名の通りのマザコンがテーマですが、
三浦さんの作品としてはおそらく初めて、
悪人や嫌な奴が1人も登場せず、
ラストでは何となく感動的な場面が描かれるという、
これまでポツドールを観て来たファンからすると、
どうしちゃったの、という感があるのですが、
インタビューにもあるように、
三浦さんはおそらく今回初めて、
本音で作品と向き合い、
半端に過激にしたり扇情的にすることを避けていて、
どうやら本気で演劇は卒業するつもりなのではないか、
と個人的には感じました。

3時間を越える上演時間はかなりしんどく、
ダレる場面もありますが、
ポツドールはおそらくもう終わりと思いますから、
ファンには必見だと思います。

以下、ネタばれを含む感想です。

銀杏BOYZの峯田さんが演じるのは、
無名時代の自分をなぞったような、
売れないミュージシャンのフリーターで、
そこに母の死の連絡が入るところから物語は始まります。

彼の弟を演じる池松壮亮は田舎で両親と暮らしていて、
堅実な仕事を選び、
ガールフレンドがいますが、
まだ結婚は決めかねています。

母が死んだ実家に峯田さんが演じる兄は戻りますが、
田口トモロヲ演じる父は、
母の四十九日が過ぎるとすぐに、
片岡礼子演じるホステスを家に引き入れます。

最初は第二の母親に反発している兄弟ですが、
次第に受け入れに転じ、
家族が1つの成り掛けたところで、
破局が呼びこまれて、
ホステスは家を去ります。

シンプルに言えばこれだけの話を、
休憩を含めて3時間10分ほどを掛けて、
登場人物の感情の綾を丹念に描出してゆきます。

フォーカスは完全に主人公の峯田さんに当たっていて、
永遠の女性である「母」への渇望を心に秘めながら、
殆ど他者とコミュニケーションと取ることなく、
怠惰な生活を送っていたのが、
母の死から第二の母との交流を通して、
家族の絆を取り戻し、
最後に「母」の声を聴きます。

ドラマ版の「フリーター、家を買う。」のような感じで、
驚くほど毒気のない世界です。
父親の部下に古澤裕介、
兄の友達に米村亮太朗という、
ポツドールで散々悪辣で陰湿で暴力的なキャラを演じて来た2人が、
今回は完全に「良い人」を演じていて、
それで決して違和感のない辺りで、
ああ、もう完全にポツドールは終わったな、
という感想を持ちました。

これは決して悪い意味ではなく、
勿論若干の失望感はあるのですが、
三浦さんの劇作自体が、
そうした時期に必然的に至ったのだ、
というように感じたのです。

ただ、ここから先に、
演劇として追求出来るものは、
あまりないという気がするので、
三浦さんの演劇引退宣言は、
満更嘘ではない、という気がするのです。

舞台自体の出来は悪くありません。

キャストは皆好演で、
間合いを取った芝居を、
主役の峯田さんにはさせておいて、
トータルには緩みをあまり感じさせない、
三浦さんの手綱さばきもさすがです。

舞台は一軒家をテレビのセットのように再現していて、
その複数の場所を同時に使用して、
シンクロさせる手法も、
いつもながら鮮やかです。

そして、ラスト父と2人の息子が、
三者三様に「母」を求める場面をシンクロさせて終わるのも、
さすがの趣向だと思います。

総じて、これでポツドールが終焉を迎えるのは、
ちょっと残念な思いもするのですが、
暴力的なあがきで、
何かを変えようともがく時代は終わりを告げ、
ある種のあきらめのようなものが、
演劇の世界にも忍び寄っているのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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