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ダビガトラン(プラザキサ)の血中濃度モニタリングは必要か? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ダビガトランBMJの批判解説.jpg
今月のBritish Medical Journal誌の解説記事で、
やや扇情的に翻訳すると、
「ダビガトラン;製薬会社は如何にして重要な情報を隠蔽したのか?」
という感じのものになっています。

British Medical Journal誌は一流の医学誌ですが、
薬に関しては概ね意地悪なスタンスを取っていて、
製薬会社を批判する論説が多いのが特徴です。
New England…誌には絶対にこうした解説は載りませんから、
そこにはスタンスの違いがあり、
どちらか一方の見解を、
全て鵜呑みにする必要はないのです。

ただ、以前ご紹介した「スポーツドリンクの真実」のように、
絶対そうだよね、と賛同出来るものもあります。

ダビガトラン(商品名プラザキサ)は、
ワルファリンに代わり得る抗凝固剤として、
同種の薬剤の一番手として登場した薬です。
その発売は当該製薬会社に多大な利益をもたらしました。

そのメリットはワルファリンと比較すると、
納豆を食べてはいけないなどの、
食事の制限が必要なく、
ワルファリンのように、
定期的な血液検査で、
その有効性をチェックする必要がない、
という点にありました。

この薬の認可の決め手となったのは、
2009年のNew England…誌に掲載された、
RE-LY試験と呼ばれる大規模臨床試験の結果です。
(補足的な結果はその後複数の論文になっています)
これは日本も参加した世界規模の臨床試験で、
慢性の心房細動の患者さんに、
ワルファリンとダビガトランの比較を行ない、
結果として脳卒中の予防効果には両群でそれほどの差がなく
(通常用量ではダビガトランがやや優勢)、
出血系の合併症にも差は認められなかった
(脳出血はワルファリンでやや増加)、
というものです。

安全性と効果に差がなければ、
定期的なモニタリングの採血が必要なく、
併用薬や食事の制限も、
ワルファリンと比較すると遥かに少ない、
プラザキサの優越性が大きい、ということになる訳です。

この試験においては、
プラザキサの血中濃度は測定されていますが、
それを活用して、
用量の調節をすることはしていません。

プラザキサは1回150ミリグラムと110ミリグラムという、
2種類の用量があり、
その比較も行なわれていますが、
結論としては低用量では通常用量と比較して、
その有効性はやや劣り、
出血系の合併症は通常用量でやや多い、
という結果になっています。

この結果を受けて、
アメリカとヨーロッパでは2010年の後半に、
日本では2011年の3月に、
ダビガトランは認可されて発売されました。

ところが…

発売後に国内外を問わず、
出血系の合併症の増加が問題となりました。
上記解説記事中にある記載によれば、
アメリカで2011年にダビガトラン服用中の542例の死亡事例が報告され、
出血系合併症の報告は2367例集計されました。
同時期のワルファリン服用中の死亡事例は72例です。

つまり、ワルファリンよりダビガトランによる、
重篤な出血系合併症のリスクは高いのでは、
という危惧が指摘されるようになったのです。

ここで浮上したのが、
ダビガトランの血液濃度を測定したり、
ワルファリンのようにその効果を示す検査を行なうことで、
ダビガトランによる出血系合併症のリスクを、
減らすことが出来るのではないか、
という考え方です。

こうした考えは認可を検討する時点で、
既にあったのですが、
上記解説記事の記載によれば、
ダビガトランの血中濃度には非常にばらつきが大きく、
その測定値を臨床的に意義のあるデータとして、
活用出来る可能性は低い。
その一方でダビガトランの安全域は非常に広いので、
血液濃度を測らずに使用して、
大きな問題は生じないと判断された、
という経緯があったようです。

しかし、その時点で当該の製薬会社は、
ダビガトランの血中濃度の有用性を示すデータを、
意図的に隠していたのではないか、
というのが上記解説記事の主張です。

こちらをご覧下さい。
ダビガトランのリスクデータ文献.jpg
これは今年のJournal of the American College of Cardiology誌に掲載された、
ダビガトランの血液濃度と予後との関連性についての文献です。

第一著者はダビガトランの製薬会社の研究者で、
基本的にはRE-LY試験のデータが元なのですが、
これまでの公表された論文には、
記載のなかったデータが含まれています。
つまり、製薬会社自身が、
自ら主導した臨床試験の補足的なデータを出した、
というものです。

こちらをご覧下さい。
ダビガトランとそのリスクの図.jpg
横軸はダビガトランの血液濃度です。
縦軸は有害事象や脳卒中の発症率を示しています。
72歳の男性患者さんをモデルケースとした場合、
赤で示したように、
血液濃度が高くなるほど出血合併症のリスクは高まります。
そして青は脳卒中のリスクを示していますが、
その抑制効果は血液濃度が150ng/mLを越えたくらいからは、
ほぼフラットで変わりません。
そして、上の横線で示したように、
1回150ミリグラムでダビガトランを使用した場合、
その血液濃度は50から200ng/mLという、
かなり幅の広い範囲に分布しているのです。

このグラフのデータが、
既に2011年の時点では解析されていたにも関わらず、
製薬会社によって、
少なくとも積極的には開示されていなかった、
とされているものです。

このグラフを見る限り、
ダビガトランの血液濃度の測定には、
一定の有用性があるように思えます。

しかし、文献の結論としては、
そのばらつきは非常に大きいため、
血液濃度を測定することに有用性がある、
という明確な記載とはなっていません。

血液濃度を上昇させるリスクとしては、
患者さんの年齢と腎機能とが、
最も影響を与えるものと計算され、
そのため現状のこの薬の使用指針としては、
腎機能と年齢とを勘案して、
その適応と用量の設定を行なうべきだと考えられています。

こちらをご覧下さい。
ダビガトランの注意事項.jpg
現行日本で使用されている、
製薬会社による使用の指針です。

一見科学的な検証がされているように思えますが、
70歳以上の患者さんでは慎重投与もしくは減量となっていて、
ダビガトランの適応の多くの患者さんはそこに属すると考えられるので、
主治医に丸投げと思えなくもありません。

発売当初は殆ど併用注意の薬剤のないのが売りであったのに、
これを読むと痛み止めなど、
多くの薬剤が併用注意の扱いになっています。

ダビガトランは同種の薬剤の中で、
先陣を切って発売されたので、
当初は独り勝ちであったのですが、
その後次々と同種の薬剤が発売されたので、
他剤との差別化を図ることが、
製薬会社としては重要になります。

従って、
発売当初はワルファリンとの差別化がポイントであったので、
併用薬剤の制限のないことと、
血液検査のモニタリングが必要ないことが、
セールスポイントとして重要であったため、
血液濃度の測定が有用ではないか、
というような情報は、
なるべく出さない方針となった訳です。
しかし、その後同種の薬剤との差別化が問題になると、
むしろ血液濃度のモニタリングが可能となることは、
場合によってはメリットになるので、
積極的に情報を出すように変わったのです。

これは上記解説記事にある推測ですが、
製薬会社の視点で考えれば、
合理性のあるものであり、
蓋然性のある推論であるように思います。

方向性としては、
今後血液濃度を1つの指標として、
ダビガトランの使用量は決定されるように、
国内外を問わず成る可能性が高いと考えられますが、
特定の血液濃度の範囲で最もメリットが大きいという、
明瞭な基準の設定はまだ困難で、
個々の患者さんにとっての適切な治療を模索する、
医療者の苦労がすぐに減る結果にはなりそうにありません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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AF冠者

Dr.は否定的ですが薬局の経験豊富?な薬剤師にイグザレルトが好ましいといわれます。年齢もありワーフアリンで過ごそうと覚悟はしていますが、問題は何かのOPの状態になったときのことです。
by AF冠者 (2014-07-28 10:57) 

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