シニシズム的不信と認知症発症との関連について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝からレセプトのまとめをして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のNeurology誌に掲載された、
他者に対する性格傾向が、
認知症の発症に与える影響についての論文です。
性格傾向が認知症の発症に影響を与えるのではか、
という考え方は古くから存在しています。
「あんな性格をしてるとボケるぞ」
というような言い方は、
日常的に冗談半分で言われることがあります。
つまり、経験的にはどうやらそうしたことがありそうだ、
ということは一般にも知られているのです。
しかし、それは科学的にも証明されるような事実でしょうか?
仮に事実であるとすれば、
性格と認知症との間にはどのような関連があるのでしょうか?
性格の決定に大きな役割を果たすような脳の部分が、
認知症へのトリガーとなるのでしょうか?
それとも、認知症の症状出現以前の脳の機能障害が、
特定の性格様の変化をもたらすのでしょうか?
こうした疑問に明解な答えを与えるようなデータは、
実際には殆ど存在していません。
今回の研究はそのような性格と認知症との関連に、
より科学的な検討を加えようとしたものです。
これまでうつ状態や慢性のストレス、ある種の性格傾向などが、
認知症の発症と関わりがあるという報告があり、
シニシズム的不信が、
その共通的な性質ではないか、
という考え方があります。
シニシズム的不信というのは、
一体何を意味しているのでしょうか?
シニシズムとかシニカルというのは、
一般的な用語としても使用されることがあります。
それは概ね皮肉屋とか冷笑的とか、
「物事を斜めに見る」というようなニュアンスで理解されています。
ひねくれていて無駄に頭が廻り、
粘着質な性格の人は、
ネットでは皆さんお馴染みだと思います。
そうした人がネットの世界では、
しばしばカリスマでありスターであるからです。
ひねくれた見方というのは、
本当は正直な見方よりロクでもないもので、
そんなものを吹聴していること自体、
人間として恥ずかしいことなのですが、
そうした人がむしろ注目を集め、
それなりに幅を利かせるのがネットという世界です。
「俺は同じ物をお前らとは違うように見ているのだぞ」
という自慢です。
「まともに見ればいいじゃないか、ボケ」
と言いたくなりますが、
そうした人は粘着質でもあるので、
うっかりそんなことを呟いたりすると、
たちまちそれを発見して、
言葉の暴力が雨あられと降り注ぐのです。
そうした人は自分がひねくれた見方をしていることが自慢なので、
「シニシズム的不信は認知症のリスクになる」
というような記事を読むと、
「おやおや、私も認知症になりかねませんね」
みたいなことを自慢げに吹聴するのです。
しかし、今日ご紹介する論文におけるシニシズム的不信というのは、
そうした皮肉屋とか冷笑的というのとは、
実は違うものを意味しています。
MMPI(ミネソタ多面人格目録)という、
欧米で有名な質問紙法による性格検査があります。
この中から幾つかの項目をピックアップし、
他者への攻撃性を測る指標としたものを、
クック・メドレーの敵意スケールと呼んでいます。
他人への敵意の示し方には、
幾つかのパターンがあり、
そのうちの1つがシニシズムなのです。
この場合のシニシズムというのは、
自分以外の人間は、
その全てが自分のことだけを考えて生きている、
と想定する態度のことを意味しています。
全ての人間は利己的で、
自分の利益しか考えてはいない、
従って自分の身を守るには、
全ての他人を自分の敵と見做して、
行動しなければいけない、
という意識のことです。
「みんなどうせ、自分のことしか考えてないんでしょ」
酒を飲み、死んだような眼をしてそんなことを言う人がいるでしょ。
それがシニシズム的不信なのです。
今回の研究では、
別個の大規模なアメリカの疫学データの一部を活用して、
1998年の時点で平均年齢が70歳の1240名の対象者に対して、
健康調査と共に、クック・メドレーの敵意スケールを施行し、
そこでシニシズムに関する項目のみを抜き出して、
シニシズムの傾向の強さを分類、
その後平均で8.4年認知症の発症について、
平均で10.4年死亡リスクについて、
それぞれ経過観察をして、
シニシズムの傾向との関連を検証しています。
その結果…
血圧や性差、認知症の発症に関わる遺伝素因であるApoEの遺伝子型などの、
認知症の発症に関わるその他の因子の影響を、
取り除いて解析したところ、
シニシズムの傾向の強い人は、
そうでない人の3.13倍有意に認知症を発症しました。
死亡リスクについては有意な増加は認められませんでした。
つまり、70歳くらいでまだ認知症を発症していない時点で、
シニシズム的な傾向を強く持っている人は、
そうでない人より3倍以上認知症を発症し易い、
という結論になります。
一体この現象は何を意味しているのでしょうか?
1つの考えとしては、
シニシズム的な傾向を持つ人にとっては、
周りの全ては敵ですから、
その緊張の持続が、
脳のダメージに繋がり易い、
というような推論は成り立ちます。
また、もう1つの考えとしては、
敵意スケールを測定した70歳くらいの段階で、
既に認知症の変化は潜在的には起こっていて、
その1つの現れがシニシズムである、
というような推論も成り立ちます。
更には性格変化というのは、
前頭側頭型の認知症では、
1つの特徴でもありますから、
物盗られ妄想や万引きなどの問題行動を、
シニシズムとの関連で論じるのも1つの視点だと思います。
認知症の初期には、
性格の変化や心理学的な変化が、
その病状の進行に、
結構大きな影響を与えるように思えることがあります。
生理学的な側面と共に、
こうした心理学的な側面が、
患者さんの治療や管理においては、
意外に重要な役割を果たしているように考えられ、
今回ご紹介したような研究が、
そうした意味で意外に重要なアプローチであるのかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
朝からレセプトのまとめをして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のNeurology誌に掲載された、
他者に対する性格傾向が、
認知症の発症に与える影響についての論文です。
性格傾向が認知症の発症に影響を与えるのではか、
という考え方は古くから存在しています。
「あんな性格をしてるとボケるぞ」
というような言い方は、
日常的に冗談半分で言われることがあります。
つまり、経験的にはどうやらそうしたことがありそうだ、
ということは一般にも知られているのです。
しかし、それは科学的にも証明されるような事実でしょうか?
仮に事実であるとすれば、
性格と認知症との間にはどのような関連があるのでしょうか?
性格の決定に大きな役割を果たすような脳の部分が、
認知症へのトリガーとなるのでしょうか?
それとも、認知症の症状出現以前の脳の機能障害が、
特定の性格様の変化をもたらすのでしょうか?
こうした疑問に明解な答えを与えるようなデータは、
実際には殆ど存在していません。
今回の研究はそのような性格と認知症との関連に、
より科学的な検討を加えようとしたものです。
これまでうつ状態や慢性のストレス、ある種の性格傾向などが、
認知症の発症と関わりがあるという報告があり、
シニシズム的不信が、
その共通的な性質ではないか、
という考え方があります。
シニシズム的不信というのは、
一体何を意味しているのでしょうか?
シニシズムとかシニカルというのは、
一般的な用語としても使用されることがあります。
それは概ね皮肉屋とか冷笑的とか、
「物事を斜めに見る」というようなニュアンスで理解されています。
ひねくれていて無駄に頭が廻り、
粘着質な性格の人は、
ネットでは皆さんお馴染みだと思います。
そうした人がネットの世界では、
しばしばカリスマでありスターであるからです。
ひねくれた見方というのは、
本当は正直な見方よりロクでもないもので、
そんなものを吹聴していること自体、
人間として恥ずかしいことなのですが、
そうした人がむしろ注目を集め、
それなりに幅を利かせるのがネットという世界です。
「俺は同じ物をお前らとは違うように見ているのだぞ」
という自慢です。
「まともに見ればいいじゃないか、ボケ」
と言いたくなりますが、
そうした人は粘着質でもあるので、
うっかりそんなことを呟いたりすると、
たちまちそれを発見して、
言葉の暴力が雨あられと降り注ぐのです。
そうした人は自分がひねくれた見方をしていることが自慢なので、
「シニシズム的不信は認知症のリスクになる」
というような記事を読むと、
「おやおや、私も認知症になりかねませんね」
みたいなことを自慢げに吹聴するのです。
しかし、今日ご紹介する論文におけるシニシズム的不信というのは、
そうした皮肉屋とか冷笑的というのとは、
実は違うものを意味しています。
MMPI(ミネソタ多面人格目録)という、
欧米で有名な質問紙法による性格検査があります。
この中から幾つかの項目をピックアップし、
他者への攻撃性を測る指標としたものを、
クック・メドレーの敵意スケールと呼んでいます。
他人への敵意の示し方には、
幾つかのパターンがあり、
そのうちの1つがシニシズムなのです。
この場合のシニシズムというのは、
自分以外の人間は、
その全てが自分のことだけを考えて生きている、
と想定する態度のことを意味しています。
全ての人間は利己的で、
自分の利益しか考えてはいない、
従って自分の身を守るには、
全ての他人を自分の敵と見做して、
行動しなければいけない、
という意識のことです。
「みんなどうせ、自分のことしか考えてないんでしょ」
酒を飲み、死んだような眼をしてそんなことを言う人がいるでしょ。
それがシニシズム的不信なのです。
今回の研究では、
別個の大規模なアメリカの疫学データの一部を活用して、
1998年の時点で平均年齢が70歳の1240名の対象者に対して、
健康調査と共に、クック・メドレーの敵意スケールを施行し、
そこでシニシズムに関する項目のみを抜き出して、
シニシズムの傾向の強さを分類、
その後平均で8.4年認知症の発症について、
平均で10.4年死亡リスクについて、
それぞれ経過観察をして、
シニシズムの傾向との関連を検証しています。
その結果…
血圧や性差、認知症の発症に関わる遺伝素因であるApoEの遺伝子型などの、
認知症の発症に関わるその他の因子の影響を、
取り除いて解析したところ、
シニシズムの傾向の強い人は、
そうでない人の3.13倍有意に認知症を発症しました。
死亡リスクについては有意な増加は認められませんでした。
つまり、70歳くらいでまだ認知症を発症していない時点で、
シニシズム的な傾向を強く持っている人は、
そうでない人より3倍以上認知症を発症し易い、
という結論になります。
一体この現象は何を意味しているのでしょうか?
1つの考えとしては、
シニシズム的な傾向を持つ人にとっては、
周りの全ては敵ですから、
その緊張の持続が、
脳のダメージに繋がり易い、
というような推論は成り立ちます。
また、もう1つの考えとしては、
敵意スケールを測定した70歳くらいの段階で、
既に認知症の変化は潜在的には起こっていて、
その1つの現れがシニシズムである、
というような推論も成り立ちます。
更には性格変化というのは、
前頭側頭型の認知症では、
1つの特徴でもありますから、
物盗られ妄想や万引きなどの問題行動を、
シニシズムとの関連で論じるのも1つの視点だと思います。
認知症の初期には、
性格の変化や心理学的な変化が、
その病状の進行に、
結構大きな影響を与えるように思えることがあります。
生理学的な側面と共に、
こうした心理学的な側面が、
患者さんの治療や管理においては、
意外に重要な役割を果たしているように考えられ、
今回ご紹介したような研究が、
そうした意味で意外に重要なアプローチであるのかも知れません。
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健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2014/05/14
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
2014-06-06 08:27
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