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外部刺激により夢に自我を誘導する [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
夢に自己意識を導入する.jpg
今月のNature Neuroscience誌に掲載された、
外部からの電気刺激で、
夢に自己意識を誘導するという、
興味深い研究結果です。

夢を見ていながら、
「自分が夢を見ているぞ」
ということを意識していていて、
夢から覚めた後でも、
その自覚が残っていることがあります。

こうした夢を1つの呼び方としては明晰夢(lusid dream)と呼びます。

明晰夢がある一方で、多くの夢では、
夢を見ている間は、
自分が夢を見ているという自覚はなく、
夢の世界に翻弄され、
楽しい経験をしたり、
恐怖に慄いたり、
過去を追体験したり、
あるべき未来を体験したりします。

明晰夢とそうでない夢との間には、
どのような違いがあるのでしょうか?

夢分析のパイオニアは勿論フロイトで、
フロイト博士の考える夢というのは、
無意識から生じる夢内容が、
心理的な改変を経て部分的に意識に残ったものです。

フロイト博士の「夢判断」は、
かつての僕の愛読書ですが、
今になってみると「明晰夢」に対して、
どのようなスタンスを取っていたのか、
しかと思い出すことが出来ません。

おそらく夢内容自体には、
そうした批評的、客観的な要素はなく、
その後の自我との対話によって、
改変されて生じるもののように記憶しています。

ユング博士はその辺りをもう少しロマンチックに再構成して、
意識と無意識との対話が、
夢の中で成立していて、
夢を記録して対話することにより、
夢の内容自体も変化して、
それが現実に影響を与えると考えました。

実際に明晰夢を見ることにより、
夢のストーリーを「意識的」に変えることが出来るようになる、
という一種の修行のようなものが、
心理療法や宗教などで試みられることがありますし、
その一方で明晰夢をコントロールしようとすると、
精神的なバランスが崩れる可能性があるので危険だ、
というような論調もあります。

この辺り、科学的にはどうなのでしょうか?

脳波の詳細な分析や、
機能性MRIなどによる解析によって、
明晰夢というのは、
通常は意識とは無関係に生じる夢が、
覚醒時に近い意識(自我)によって、
干渉される現象であることが、
徐々に明らかになりつつあります。

ガンマ帯域反応と言って、
ヒトの認知処理と関連して、
40ヘルツ前後の波長に同期した神経振動が、
前頭葉から側頭葉に掛けて認められ、
同じ周波数で外部から刺激しても、
それに同期した反応が見られることが実験的に分かっています。

興味深いことに、
REM睡眠で夢を見ている際にも、
通常は覚醒時に認められるこのガンマ帯域反応が、
認められることが確認され、
それが明晰夢の神経生理学的実態ではないか、
という仮説があります。

つまり、
REM睡眠時に認められる、
前頭葉から側頭葉に掛けてのガンマ帯域反応は、
夢と共に覚醒時の意識が部分的に介入している状態を、
示している可能性があるのです。

人間が抽象的な思考や内省的な思考を行なえるのは、
睡眠時の自我と覚醒時の自我が、
共存している状態があるからではないか、
というような仮説もあります。

今回の実験は24名のボランティアの被験者に対して、
睡眠時に外部から頭皮に付けられた電極を介して、
様々な周波数の電気刺激を、
明晰夢に関わりのあると思われる、
前頭葉から側頭葉に掛けての領域に行ない、
それによる同期した神経の誘発振動の影響を、
検証したものです。

被験者はいずれもこれまでに、
一度も明晰夢を見た経験のない人達です。

被験者には偽の電気刺激から、
2ヘルツ、6ヘルツ、12ヘルツ、25ヘルツ、40ヘルツ、
70ヘルツ、100ヘルツの、
それぞれの周波数の電気刺激が、
睡眠時のREM睡眠の脳波を確認した段階で、
被験者にもその場の観察者にも、
分からないようにして与えられます。
そして、それによる脳波の変化や誘発振動の有無を確認した上で、
被験者を叩き起こして、
どんな夢を見たのかを聞き取ります。
同時に機能性MRIを用いて、
脳のどの部分が興奮したのかも解析します。

その結果…

偽の電気刺激を与えた被験者のうち、
93.8%がREM睡眠時には夢を見て、
それを語ることが出来ましたが、
明晰夢を見た被験者は、
1人もいませんでした。
勿論ガンマ帯域反応も起こりません。

しかし、40ヘルツの刺激を加えた被験者では、
そのうちの91.7%で夢の聞き取りが可能で、
77.3%が明晰夢を見たと証言しました。
明晰夢を見た被験者を含めて、
刺激を受けた被験者の殆どで、
外からの刺激に呼応して、
同じ40ヘルツの誘発振動が観測されました。

この明晰夢の誘導は、
25ヘルツでは57.6%に、
70ヘルツでは14.3%に認められました。

この結果はオボカタ的なところのない、
説得力のあるものです。

25ヘルツから40ヘルツの帯域、特に40ヘルツを中心として、
認知に関わる神経回路に神経同期発火が起こると、
REM睡眠時に高率に明晰夢が誘導されます。

これはつまり部分的な自我意識が、
夢を見ている状況下で同時に存在しているのです。
これが明晰夢の正体です。

興味深いことは、
明晰夢を普段見ない人では、
そうした反応は起こらないのですが、
外部から同じ周波数帯の刺激を効率良く与えることにより、
一種の共鳴の原理により、
同じことが強制的に再現されるのです。

ちょっと怖い気もしますが、
外からの電気刺激により、
意識は誘発されるのです。

自我と意識のメカニズムを解明する上で、
今回の知見が大きな意義を持つものであることは間違いがありません。

上記文献の著者らは、
医学的なこうした知見の活用として、
PTSDなどの心的外傷に伴う悪夢やフラッシュバックを、
明晰夢を誘導することにより、
消し去ることが出来るのではないか、
という仮説を提唱しています。

こうしたことが可能になれば、
確かに画期的なことですが、
一歩間違えば人格が崩壊するような、
リスクもあるようにも思います。

いずれにしても脳の高次活動を、
外部からの非侵襲的な刺激で改変することが、
今後ある程度可能となることはほぼ間違いがなく、
倫理的な問題も含めて、
大脳生理学は未知の領域に踏み込みつつあるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

いつもの追伸です。
しつこくてすいません。

本日発売です。
よろしくお願いします。

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ジャジャ馬

いつもながら興味深い記事をありがとうございます。チョット怖い気もしますが、PSTDの治療に役立つとしたら画期的です。トラウマをなんとかしたいと思っている人はたくさんいるので、こう云う研究も大切ですね。
アマゾンで申し込んだら、先ほど先生のご本が届きました。
早速ワクワクしながら読ませて頂きます。
by ジャジャ馬 (2014-05-15 13:56) 

はなうさぎ

先ほどamazonから届きました。
私が一番先に拝読したのは「塩分を制限すると免疫が低下する」でした。
現在、血圧降下剤を飲み、減塩食事を食しているからですが、字の大きさ、行間も程よく読みやすかったです。



by はなうさぎ (2014-05-15 17:56) 

fujiki

ジャジャ馬さんへ
本当になりがとうございます!
またご感想など聞かせて頂ければ嬉しいです。
by fujiki (2014-05-16 08:03) 

fujiki

はなうさぎさんへ
本当にありがとうございます!
減塩を何処までするのが適当なのかは、
まだ未解決の問題で、
意外に体質も大きいと思います。
また、その時のお身体の状態によっても、
必要な塩分量が変わるのではないかと思います。
by fujiki (2014-05-16 08:05) 

梶原ミカ

お久しぶりです。飯村氏の紹介でブログ読ませていただきました。
書籍も興味深いですね。取り寄せて読んでみます。
by 梶原ミカ (2014-05-16 15:59) 

fujiki

梶原ミカさんへ
お久しぶりです。
お元気でしょうか?
本の感想などまた聞かせて頂けると嬉しいです。
by fujiki (2014-05-17 06:28) 

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