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高度腎機能低下におけるレニン・アンジオテンシン系抑制の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
腎不全におけるレニンアルドステロン抑制の効果.jpg
今月のJAMA Intern Med誌に掲載された、
末期腎不全に患者さんにおける、
RA系阻害剤と呼ばれるタイプの薬剤の、
予後に与える効果についての台湾の論文です。

慢性の腎臓病が、
CKDという国際的な名称の元に、
以前よりその管理が重要視されるようになっているのは、
皆さんご存知の通りです。

慢性腎臓病の管理において問題となることは、
何よりも透析が必要なような、
末期腎不全の患者さんを減らすために、
より軽度の腎機能低下の患者さんに、
適切な指導や治療を行なうことです。

その段階において、
レニン、アンジオテンシン、アルドステロンという、
一連のホルモンの連鎖を抑制する、
RA系阻害剤と呼ばれる薬剤の効果が、
多くの臨床データによって確認されています。

アンジオテンシンは血管を収縮させる作用があり、
アルドステロンは塩分や水分を身体に貯め込むような働きがあります。

これはいずれも身体のバランスを保つために、
必要不可欠な働きなのですが、
腎機能の低下した状態では、
腎臓を通過する血液の量が少なくなるので、
身体はそれを水や塩分が少ない状態だと誤解して、
アルドステロンやアンジオテンシンが上昇し、
血圧が上昇すると、
それが今度は更に腎臓に負担となる、
という悪循環が生じるのです。

このためにアンジオテンシンやアルドステロンの働きを低下させる、
ACE阻害剤と呼ばれる薬や、
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)と呼ばれる薬が、
軽度から中等度の腎機能低下に対して使用され、
その後の腎機能の低下を抑制して、
透析に至るまでの期間を延長するような効果が、
確認されています。

より厳密にはそのうちの多くのデータは、
ACE阻害剤の使用によるもので、
ARB単独の効果については、
やや見劣りがしています。

さて、ここで1つの問題は、
ACE阻害剤やARBというRA系阻害剤には、
カリウムを上昇させるような副作用がある、ということです。

腎機能の低下が高度になると、
カリウムの排泄が低下して、
血液中のカリウムは増加します。
この上昇が著明になると、
不整脈の原因となり心臓死のリスクを高めます。

更には高度に腎機能の低下した患者さんに、
RA系阻害剤を使用すると、
その血液濃度が上昇することにより、
急激な血圧の低下や、
それによる腎機能の更なる低下を招くことがあります。

つまり、高度の腎機能の低下した患者さんへのRA系阻害剤の使用は、
却って患者さんの予後を悪化させる可能性があるのです。

しかし、それではどの段階までの腎機能低下に対して、
RA系阻害剤を使用することが適切なのでしょうか?
また、継続的に使用していた患者さんの腎機能が更に低下した時、
その薬を中止するべきなのでしょうか、
それとも継続するべきなのでしょうか?
仮に中止するとすれば、
何を指標にするべきでしょうか?
腎機能の悪化でしょうか、
それとも血液のカリウムの値でしょうか?

こうした点については、
現時点で必ずしもクリアな方針が示されていません。

2013年に改訂された日本のCKDガイドラインは、
物凄く読み難くゴタゴタとした奇怪な代物ですが、
その何処をどう読んでも、
こうした疑問についての指針らしきものはありません。
基本的には、
コントロールの困難な高カリウム血症などがなければ、
末期腎不全であっても継続可能、
ということだと思いますが、
それでは継続した方がメリットがあるのか、
というような点に関しては、
末期腎不全の患者さんでの使用データ自体が殆どないので、
判断の基準が存在しないのです。

従って、実際の臨床においては、
透析寸前のような腎不全においても、
RA系阻害剤は使用されているケースもあり、
されていないケースもあるのだと思います。

今回のデータは台湾のものですが、
ESKDと呼ばれる末期腎不全の成人の患者さんで、
血液のクレアチニンの数値は6mg/dLを越え、
腎機能低下に伴う貧血に対して、エリスロポエチン製剤の使用を行なっている、
高血圧を伴う患者さんの中から、
その時点でRA系阻害剤を使用している14380名と、
使用していない14117名を抽出し、
後ろ向きにその予後を検証しています。

RA系阻害剤としては、
ACE阻害剤もしくはARBが使用され、
単独の患者さんと2剤の併用の患者さんの、
両方が含まれています。
平均年齢は60代の半ばで、
基礎疾患はほぼ半数が糖尿病です。

その結果…

平均で7ヵ月の観察期間中に、
70.7%に当たる20152名の患者さんが持続的な透析に入り、
20.0%に当たる5696名の患者さんが透析を待たずに死亡されています。
これをRA系阻害剤の使用の有無で比較すると、
RA系阻害剤の使用により、
透析導入のリスクは6%有意に低下し、
死亡と透析導入を加えたリスクも6%有意に低下していました。
上記文献の著者らの計算によると、
これは毎年透析導入される患者さんのうち5.5%を、
RA系阻害剤の使用により透析回避可能だ、
ということを示しています。

透析に掛かる医療コストと、
患者さんの負担とを考えれば、
これは無視出来ない数値です。

こうした予後改善効果は、
糖尿病か非糖尿病かのように、
特定のグループで個別に解析しても、
ほぼ同等に存在していました。

また、ACE阻害剤とARBとの併用は、
近年の知見では高カリウム血症や腎機能の急性悪化のリスクが高く、
推奨されないとのデータが多いのですが、
今回のデータにおいては、
確かに高カリウム血症による入院のリスクは上昇が認められましたが、
患者さんの死亡リスクの上昇は認められず、
その予後の改善効果には差がありませんでした。

つまり、
高度腎不全においてRA系阻害剤を使用すると、
確かに高カリウム血症で治療を要したり、
血圧や腎機能の急激な悪化で、
治療を要したりするリスクは上昇しますが、
トータルには透析に移行するリスクや、
患者さんの生命予後には、
むしろ良い影響を与える可能性が高い、
という結果です。

台湾では透析導入は遅れがちのことが多い、
という上記文献の記載もあり、
この結果をそのまま日本の臨床に、
持ち込むことには慎重であるべきですが、
これまでに血液のクレアチニンが6を越えるような、
高度腎不全の患者さんに対して、
RA系阻害剤の効果を検証したようなデータは殆どなく、
一定の効果がその時期でも期待出来るという今回の結果は、
注目に値するものではあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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