SSブログ

手足口病ワクチンの効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
手足口病ワクチンの効果.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
エンテロウイルス71型ワクチンの効果を検証した論文です。

エンテロウイルス71は手足口病やヘルパンギーナという、
多くのお子さんが一度は罹る病気の原因となるウイルスです。

「手足口病(Hand-Foot-Mouse Disease )」は、
1960年に初めてその名前で論文が発表され、
その後定着した病名で、
古くからおそらくあった筈の病気にしては、
報告が比較的最近であるのが、
1つの特徴です。
ちなみに良く似たタイプの病気で、
口だけに水泡の出来る「ヘルパンギーナ」の、
最初の報告は1920年です。
そして、日本での「手足口病」の最初の報告は、
1965年のことです。

「手足口病」の原因は、
主にコクサッキーA16とエンテロウイルス71という、
いずれも同じエンテロウイルスという仲間に属する、
RNAウイルスです。
それ以外にも、数種のエンテロウイルスの仲間が、
同じような症状の原因になることが知られています。
日本では2009年以降コクサッキーA6という、
別個のウイルスによる手足口病が、
流行をしていて、
2013年の流行も半数はこのウイルスによる感染と報告されています。

エンテロウイルスとコクサッキーウイルスと言うと、
全然別のウイルスのように感じますが、
実はそうではなく、
発見された経緯により、
別の名前が付いているにに過ぎないという面があります。
たとえば、コクサッキーA23というウイルスは、
エンテロウイルス9と全く同じものです。
インフルエンザウイルスの型分類と、
同じように考えて頂くのが、
分かり易いかも知れません。

エンテロウイルスの起こす病気として、
最も注意が必要なのは、
突然死の原因としても知られている、
ウイルス性心筋炎ですが、
「手足口病」も、後でお話するように、
決して甘く見ることは出来ない病気であり、
その人間に対しての脅威度は、
感染力を別にすれば、
インフルエンザウイルスに匹敵すると言って、
過言ではありません。

「手足口病」はウイルスに感染してから数日後
(概ね3~7日と報告されています)
手と足と口とに、
特徴的な湿疹が出現する病気です。
通常はあまり高い熱は出ません。
1週間程度で湿疹が消えれば、
それでおしまいです。
お母さんが免疫を持っているので、
生まれて半年くらいから出現し、
5歳くらいまでが多い年齢です。
稀に成人でも発症の事例があり、
僕も20代前半での「手足口病」の患者さんを、
経験しています。
多い季節は夏で、所謂「夏風邪」の一種ですね。

それでは、ちょっと特徴的な湿疹の画像をお見せします。
まずこちらを。
手足口病1.jpg
これは手の平の湿疹です。
このように小さな水ぶくれのような湿疹が、
手の平を中心に出来るのが特徴です。
結構肘の周りとか前腕にも出来ることがあります。
では次を。
手足口病2.jpg
これは両膝の湿疹です。
足の裏に出来るのが典型的と言われますが、
実際には足の裏には出ず、
膝だけに出る例が、結構あるというのが、
僕の印象です。

口の中にも水ぶくれが出来ますが、
その画像はお見せ出来るものがありません。

その3つがあれば、ほぼ「手足口病」と言って、
間違いはありません。

「手足口病」は、基本的には自然に治る病気で、
特に治療の必要はありません。

しかし、時に重症化するケースがあり、
以前から問題になっています。

「手足口病」の原因は、
コクサッキーA16とエンテロウイルス71という、
2種のウイルスの関与が大きいのですが、
このうち、コクサッキーA16については、
ほぼ全例が軽症型で、重症例は殆どありません。
ところが、エンテロウイルス71については、
脳炎や髄膜炎の発症頻度が高いのです。

その症状の出現は、
湿疹が出てから、2~3日後というのが、
ほぼ共通した特徴です。
意識障害や発熱、痙攣などが急速に現われ、
最悪は死に至ります。
また、それとは別に肺に急激に水の溜まる、
肺水腫で亡くなる事例も報告されています。

エンテロウイルス71は1969年に最初にアメリカで同定され、
1975年頃より主にアジア各地において、
数十人規模の死亡の報告があり、
1998年には台湾で20万人を超える患者が「手足口病」に罹り、
55人のお子さんが亡くなっています。
2008年には中国での流行があり、
49万人余の感染者があって、
126人のお子さんが亡くなっています。

全てがエンテロウイルス71によるものとは、
確定は出来ませんが、
ウイルスが脳から検出された事例があり、
大多数はこのウイルスによるものと、
推測されています。
インフルエンザウイルスと同じように、
これはエンテロウイルスが強毒性に変異した可能性が、
考えられているのです。

重症化したエンテロウイルス71感染症に対する、
有効な治療法はなく、
重症化の予測も出来ない、ということになると、
感染予防のためのワクチンの開発が、
検討されることになります。

これに対して最も熱心なのは中国で、
これまでに3種類のエンテロウイルス71に対するワクチンが開発され、
その全ては中国製です。

上記の文献はそのうちの1つの第3相臨床試験の結果をまとめたもので、
同じ雑誌の同じ号には、
並んでもう1つのワクチンの臨床試験結果も載せられています。

製法や抗原量はやや異なりますが、
いずれも2008年の中国での流行株を元にした、
アルミのアジュバントを含む不活化ワクチンです。

上記文献においては、
生後6ヶ月から35ヵ月のお子さん1007名を、
くじ引きで2つの群に分け、
接種者にもお子さんのご家族にも分からないように、
一方にはエンテロウイルス71の不活化ワクチンを筋肉注射で接種し、
もう一方には添加物は同じですが、
エンテロウイルス71の抗原は含まない溶剤のみを同じように接種します。

ワクチンは28日間の間隔で2回接種し、
その後1年の観察期間においての、
手足口病やヘルパンギーナの発症を比較検討しています。
その原因がエンテロウイルス71であることは、
遺伝子検査で確認しています。

大規模な上に非常に緻密な研究です。

その結果…

接種後の中和抗体価が、
16倍以上に上昇した比率は、
接種前にはワクチン接種群の13.8%でしたが、
接種後2ヶ月で97.1%に増加し、
14ヶ月後においても92.4%に保たれています。
偽ワクチン群では接種前に17.3%で、
接種2ヶ月後に18.4%と殆ど上昇はしていません。

中和抗体が16倍以上であれば、
手足口病などの発症が防御出来ることが、
臨床的に確認されていますから、
このワクチンを接種して9割以上の方が、
接種後1年後にも抗体が感染防御レベルにあることが分かります。

実際に接種後1年間において、
偽ワクチン接種群でのエンテロウイルス71に関連する病気の発症は、
5028名中2.1%に当たる106名に発症したのに対して、
ワクチン接種群では、
5041名中0.3%に当たる13名の発症に留まりました。
ワクチンのエンテロウイルス71による手足口病とヘルパンギーナの予防効果は、
94.8%に達し、
エンテロウイルス71関連疾患による入院の予防効果は、
100%に達していました。
ただ、重症な事例は殆ど見られなかったため、
これが本当に重症の事例の予防に結び付くものかどうかは、
今回の結果では直接的には証明はされていません。

ワクチンの有害事象については、
発熱が3割に、下痢や吐き気が1割程度に認められましたが、
これは偽ワクチンと有意な差はありませんでした。

つまり、ワクチンの急性の副反応の多くは、
ワクチン抗原そのものよりも、
アルミアジュバントなどの添加物によるものであることが分かります。

今回のワクチンの有用性は、
確実性の高いものだと思いますが、
今回の検証においての重症化の頻度は、
高いものではなく、
集団接種の必要性がどの程度あるかは何とも言えません。

日本においてはむしろコクサッキーA6の頻度が多いので、
このワクチンの有用性は、
少なくとも現時点ではそれほど大きなものではありません。

これは通常の状況で定期接種するような性質のワクチンではなく、
重症化率の高いエンテロウイルス71の流行が起こった場合に、
緊急に接種するような用途が期待されるものかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(39)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 39

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0