糖尿病の肥満パラドックスは正しいのか？

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。

今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
2型糖尿病の患者さんの、
BMIという肥満度の指数と、
その後の生命予後との関連についての文献です。

この内容については、
ちょっと予備知識が必要です。

BMIはメートルで表示した身長を、
キログラムで表示した体重で、
2回割り算して得られる数値で、
この数字が21から22くらいが標準体重と呼ばれ、
25を越えるのが所謂肥満で、
18.5未満は痩せ過ぎということになります。

21から22くらいが標準体重とされるのには、
幾つかの理由がありますが、
その1つは一般の人口で死亡リスクを計算すると、
そのくらいの数値で総死亡のリスクが最も低く、
それより低くても高くても、
総死亡のリスクは高くなる、
という知見が元になっています。

しかし、その一方で特定の病気の集団で同様の解析を行なうと、
むしろ体重が多いほど、
つまり標準体重より肥満の患者さんの方が、
死亡のリスクが低いという結果が、
近年複数報告されています。

具体的には心不全、腎不全、高血圧などで、
そうしたデータが報告されていて、
最近2型糖尿病の患者さんの集団でも、
そうしたデータが報告されています。

こちらをご覧下さい。

これは2012年のJAMA誌の論文ですが、
複数の疫学データを解析した結果として、
新規に糖尿病と診断された患者さんの、
その時点でのBMIの数値と、
その後の生命予後との関連性を見たものです。
トータルな例数は2625例です。

その結果、15年に及ぶ観察期間において、
BMIが18.5から24.9の患者さんに対して、
25.0以上の患者さんの方が、
総死亡も心筋梗塞や脳卒中などによる死亡も、
それ以外の原因による死亡リスクも、
全てが低いという結果になっています。

これを「肥満パラドックス」と呼んでいます。

ただ、この論文においては、
喫煙の有無が明確に出来ていないなど、
多くの問題点がありました。

そこで今回の文献においては、
これとほぼ同じ検証を、
頻繁に利用される看護師と医療従事者の、
2つの大規模な疫学データを活用して、
より厳密な方法で行なっています。
トータルな例数は11427名で、
平均約15年の経過観察を行なっています。
勿論後からの検証で、
患者さんをこのために登録して行なうようなデザインではありませんが、
喫煙の有無などは、
より厳密にチェックがされています。

その結果…

今回のデータにおいては、
BMIの区分が18.5から24.9の平均群が、
最も総死亡のリスクが低い、
と言う結果が得られました。

つまり、一般人口と同じ傾向で、
肥満パラドックスの存在は否定する結果です。

興味深いことに、
喫煙歴のない患者さんのみで解析すると、
標準体重より増加するにつれ、
より死亡リスクが高くなりましたが、
喫煙者のみの解析では、
その傾向は明瞭ではなくなり、
また糖尿病の診断の時点で65歳以上のみでの解析では、
これも明瞭な傾向は認められなくなりました。

今回の結果を正しいものとして、
前述の肥満パラドックスの論文を解釈すると、
喫煙等の影響が結果として大きくなり、
BMIの差を覆い隠してしまった可能性が示唆されます。

これはまだ解決した問題ではありませんが、
現状の認識としては、
糖尿病などの病気の患者さんにおいても、
BMIが25を越える肥満は、
一定のリスクがあると考えて、
患者さんの指導に当たるのが妥当のように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

コメント 2

石原先生こんにちは。

今回もとても興味深い文献のご紹介ありがとうございます。

なぜ喫煙群はBMIが高くても死亡率が上がらないのか。
BMIが低くても心臓病や肺がんなどのリスクが高まるため、結果的に不明瞭になるのでしょうか。

また、日本人と白人ではBMIと糖尿病の関係も違ってくると思います。

これからもいろいろと教えてください。
よろしくおねがいいたします。
by モカ (2014-01-21 15:13) 

モカさんへ
コメントありがとうございます。
BMIと病気との関連は、
そう単純に割り切れる性質のものではなさそうです。
by fujiki (2014-01-22 08:10)