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ガバペンチンのアルコール依存症に対する治療効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ガバペンチンのアルコール依存症への効果.jpg
今年のJAMA Intern Med.誌に掲載された、
アルコール依存症の新しい治療法の効果についての論文です。

アルコール依存症は、
非常に身近な病気であると共に、
一旦その状態に陥ると、
治癒が困難な病気でもあります。

問題は一旦禁酒に成功しても、
また飲み始めてしまうケースが多いことで、
この再発の多さは、
人間の情動の中枢である扁桃体における、
GABAという神経伝達物質の過剰な刺激が、
関連しているという知見があります。

アルコール依存症の方が禁酒を実行するとすぐに、
脳はそのストレスに過剰に反応して、
それによる扁桃体へのGABAの過剰刺激が、
アルコールへの強い欲求や、イライラ感、不眠などの症状を呈し、
多くの場合再度の飲酒に繋がるのです。

アルコール依存症には多くの薬物が使用されていますが、
そのメカニズムにピンポイントで効果を現わすような薬物治療は、
現時点では殆どなく、
アルコール依存症の薬物治療は、
あくまで補助的なものに留まっています。

その中で、
近年アルコールの離脱症状に効果があるという、
複数のデータが発表されているのが、
ガバペンチンです。

ガバペンチン(商品名ガバペン)とはどのような薬なのでしょうか?

ガバペンチンは、
そもそもはGABAという神経伝達物質の、
誘導体として合成された薬です。

GABAは抑制系の神経伝達物質と言われていて、
その受容体の一部にGABAの代わりにくっついて、
その作用を増強するタイプの薬が、
皆さんお馴染みのベンゾジアゼピンです。
セルシンやハルシオン、マイスリーなど、
皆その仲間ですね。

つまり、GABAの誘導体というのは、
セルシンみたいな薬を作ろう、
という発想で作られた薬剤だったのです。

ところが…

実際に造ってみると、
この薬はGABAの受容体にも、
ベンゾジアゼピンの結合部位にも、
どちらにもくっつくことは出来ませんでした。

それでいて無効かと言うとそうではなく、
脳内のGABAの量を調整し、
抗痙攣効果と鎮静効果、そして鎮痛効果が認められました。

その効果のメカニズムは長く不明でしたが、
現在では神経細胞のカルシウムチャネルにある、
α2δという名前の、
チャネルを構成する蛋白質にくっついて、
そのチャネルの作用を妨害することが、
その作用の本質であることがほぼ明らかになっています。

つまり、ガバペンチンはカルシウムチャネルの、
α2δ遮断剤なのです。

脳神経にはシナプスという継ぎ目があって、
そこから放出される神経伝達物質が、
その神経の刺激の調節をしています。

この時、神経伝達物質の放出に際して、
重要な働きを持つのが、
細胞の中に入るカルシウムイオンです。

このカルシウムイオンの出入り口をチャネルと言って、
それがすなわち「カルシウムチャネル」です。

ガバペンチンはこのチャネルにくっついて、
カルシウムが細胞の中に入るのを妨害します。
その結果として、
興奮性の神経伝達物質の放出が抑えられるのです。

その一方で、
抑制系の伝達物質であるGABAの濃度を調整する作用があり、
アルコール依存症の場合、
その離脱によるGABAの過剰反応を、
正常化する働きがあると考えられています。

このガバペンチンは、
抗痙攣剤として発売が開始されましたが、
その後海外では慢性疼痛などへも適応が拡大しています。
変わったところでは、
慢性の咳症状への効果を示した論文もありました。

今回の論文では、
アメリカの単一施設のデータですが、
二重盲検のランダム化比較試験という、
非常に厳密な方法を取り、
アルコール依存症の患者さんにおける、
ガバペンチンの治療効果を検証しています。

対象者は禁酒の意思を持った、
アルコール依存症の患者さんトータル150名で、
3日間の禁酒の後に試験に参加しています。
つまり、3日間は禁酒可能な方が、
対象となっています。

患者さんはくじ引きでほぼ50名ずつの3つの群に分けられ、
第1のグループはガバペンチンを1日900mgという低用量で、
第2のグループは1日1800mgという通常量で、
そして第3のグループは偽薬が、
患者さんにも主治医にも、
どちらか分からないように処方されます。
薬の性質上、
徐々に増量されて3から6日目に目的の量に達します。
この薬剤にマニュアル化されたカウンセリングを組み合わせ、
患者さんの禁酒の継続をサポートします。
薬剤の使用は12週間行なわれ、
その後24週までは薬は使用せずに経過が観察されます。

その結果…

12週間の治療期間において、
禁酒の達成率が偽薬では4.1%であったのに対して、
ガバペンチン900mgでは11.1%、
1800mgでは17.0%と、
ガバペンチンの使用量と共に、
禁酒の成功率は増加を示しました。

これを禁酒と一定量以内の飲酒
(女性で1日ビール小ビン4本、男性で5本は超えないというのが目安です)
に留めた比率で見ると、
偽薬では22.5%であったのに対して、
ガバペンチン低用量では29.6%、
通常用量では44.7%で達成が認められました。

更にはアルコールの離脱症状である、
不眠やアルコールの欲求やイライラなどの症状についても、
ガバペンチンの使用により、
用量依存的に抑制が認められました。

ガバペンチンの有害事象には重篤なものはなく、
通常は多い眠気も、
むしろ夜間の不眠を抑制して、
患者さんには良い方向に作用することが多かった、
という結果でした。

こうした臨床研究としては、
これはかなりクリアな効果だと思います。

もっと長期間の効果やリバウンドのような症状がないかについては、
更なる検証が必要ですが、
今回のデータからは、
アルコール依存に対するガバペンチンの治療効果は、
かなり期待が出来るもので、
こうした依存症における基礎薬として、
ガバペンチンが検討される可能性は、
今後充分にあるような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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