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DPP4阻害剤リナグリプチンの効果と安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
レセプトが全然終わっていないので、
バタバタして、
それから合間にPCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
DPP42年間の効果.jpg
2012年のLancet誌に掲載された、
糖尿病治療薬リナグリプチン(商品名トラゼンタ)の、
2年間の使用における、
安全性と効果とを検証した文献です。

これは去年の時点では、
あまりきちんと読んでいなかったのですが、
当該の製薬会社の方が資料としてお持ちになったので、
それで改めて読んだものです。
MRと付き合うような医者は屑だ、
と言う意味合いのことを、
もっと品性下劣な言い方で罵る先生がいますが、
別にそんなことはないと個人的には思います。

2型糖尿病の治療の、
世界的な第一選択薬はメトホルミン(商品名メトグルコなど)
という飲み薬です。

ただ、この薬を1日1500mgから2000mgくらい使用しても、
糖尿病のコントロールの目標値には、
達しないケースが結構な比率で存在します。
この薬はインスリンの効きを良くする作用があるのですが、
インスリンの分泌自体を刺激する作用は弱いので、
インスリンの分泌自体が低下していると、
満足の行く効果が得られないのです。

日本人では欧米人より、
肥満の糖尿病の患者さんは少なく、
インスリン抵抗性より、
インスリンの分泌が悪いことが、
糖尿病の原因となっていることが、
多いのではないか、と指摘されています。

このため、インスリン分泌を刺激する薬が、
少し前までメトホルミンより優先して使われていた、
という違いがありました。

ただ、ここ数年でその流れも大きく変わり、
メトホルミンが日本においても、
2型糖尿病治療の第一選択になりつつあります。

個人的にもメトホルミンは見直しています。
矢張り充分量を使えば、
なかなかの効果があるのです。
ただ、以前副作用の乳酸アシドーシスは経験があるので、
慎重に使用するべき点がある薬であることも、
また間違いのないことだと思います。
特にアルコール依存の傾向のある方には、
使用するべきではないと思います。

メトホルミンを充分量使用しても、
糖尿病のコントロールの指標である、
HbA1cという数値が目標まで下がらない場合には、
薬物治療としては、
別個のメカニズムの薬を、
上乗せで使用することになります。

メトホルミンはインスリン抵抗性を改善する薬ですから、
インスリンの分泌を刺激する薬を、
上乗せすることは理に適っています。

SU剤というタイプの薬は、
メトホルミンは再評価される以前の糖尿病治療薬の王道で、
グリメピリド(商品名アマリールなど)は、
その中でも副作用が少なく効果が安定しているとして、
日本でも非常に広く使われていました。

過去形で書いたのは、
最近SU剤の風当たりは非常に強く、
第一選択でSU剤を使用するような医者は、
これまた藪医者だ、というような風潮があるためです。
日本の医者の処方行動というものも、
ご多分の漏れず「空気」の支配を受けているのです。

特にアマリールのように、
長くインスリンの分泌を刺激し続ける薬は、
低血糖の副作用を起こし易く、
長く使用していると、
膵臓が疲弊して、
却ってインスリン分泌細胞の寿命を短くしてしまう、
という弊害が指摘されています。

低血糖を起こし易いことは事実ですが、
これは効果が強いことの裏返しとも言えます。
膵臓の疲弊というのは、
そう聞くと如何にももっともらしいのですが、
実際には明確に人間で証明された事項ではないと思います。

これも個人的な見解ですが、
SU剤は現在の日本では、
必要以上に悪く言われ過ぎているように思います。

さて、欧米においても、
有効に血糖値を低下させる選択肢として、
メトホルミンに上乗せされる薬の主役は、
グリメピリドのようなSU剤です。

近年それに加えて、
インクレチン関連薬という、
SU剤の刺激とは別個のメカニズムで、
インスリンの分泌を刺激する薬が開発され、
日本でも複数の薬が発売されています。

インクレチン関連薬は、
低血糖を起こしにくいことと、
膵臓の細胞を増やすという可能性が示唆され、
SU剤を越えるインスリン分泌刺激剤として、
非常に期待されました。

しかし、
その増殖作用が、
膵炎や膵臓の癌を増やすのでは、
という危惧が指摘され、
その問題はまだ議論の途上にあります。

今回の文献においては、
メトホルミンを充分量使用していても、
HbA1cの数値が6.5%以上である、
2型糖尿病の患者さん1500名余を2つの群に分け、
一方はSU剤であるグリメピリドを1日1から4mg使用し、
もう一方はインクレチン関連薬であるリナグリプチンを、
1日5mg使用して、
その後2年間の経過を観察しています。
どちらの薬を使用したかは、
患者さんにも主治医にも、
分からないようになっています。
この薬の使用量は、
日本で使われている量と同じです。

その結果…

2年間の平均で、
グリメピリドはHbA1cを0.56%低下させ、
リナグリプチンは0.63%低下させています。
(完了例コホートの解析)
つまり、慣らして0.5%程度の低下です。
細かく見るとグリメピリドの方が、
矢張り大きく下げている例は多いのですが、
その分低血糖を発症する事例も多く、
トータルな事例の中で、
0.5%以上下げている事例は、
せいぜい3割程度です。

製薬会社の主導の臨床試験では、
平均で0.7%くらい、
場合によっては1%近く下げているデータもありますから、
そうしたデータは、
多分にかさ上げされているように思います。

時系列で経過を見ると、
2種類の薬剤とも、
最初の1年に達する前に最もHbA1cは低下し、
それが2年目になると上昇に転じています。

こういうものを、
SU剤による膵臓の疲弊、
と説明する場合もありますが、
膵臓を守る筈のリナグリプチンも、
同様の傾向があるのです。
つまり、この問題はそう単純ではないように思います。

製薬会社のデータがかさ上げと書きましたが、
別にディオバンのような不正をしている、
ということではなく、
こうした薬は半年から1年くらいの効果の方が良く、
それを超えて長期の血糖値の下がりを見ると、
概ねそれよりは悪い結果になるのです。
リバウンドのような、一種の戻りがあるのです。
それは実際に膵臓の疲弊かも知れませんし、
糖尿病自体の自然経過や、
患者さんの意識が関連しているのかも知れません。

SU剤とリナグリプチンの明確な違いは、
SU剤では体重が増えているのに対して、
リナグリプチンは体重増加はない、と言う点と、
重症の低血糖は明らかにSU剤に多い、
と言う点です。

それで血糖の低下率はそう変わらないのであるとすれば、
メトホルミンの上乗せには、
トータルで見て、
インクレチン関連薬のリナグリプチンの方が、
優れている、ということになります。

ただし、薬の値段はリナグリプチンの方が遥かに上です。

インクレチン関連薬の評価は、
最初が高過ぎたので、
最近は日本では低下気味ですが、
欧米では徐々にデータが蓄積されて、
SU剤に代わり得る薬、というところまでは、
その位置付けは上がりつつあるようです。

問題はより長期の、
膵臓癌や膵炎の発症を含む安全性と、
長期使用により心筋梗塞や脳卒中の発症を、
抑制するような効果があるのかどうか、
という点の検証にあります。
インクレチン関連薬には心筋梗塞などの発症予防はない、
とネットなどで断言されている先生もいますが、
僕の理解の範囲では、
別にそうしたことではなく、
まだデータの蓄積が不充分で、
どちらとも言えない、というのが実際だと思います。
上記の文献においても、
心筋梗塞などの発症はリナグリプチンでやや少ないのですが、
その評価については、
2年程度の観察では不充分だという、
ネットで罵るような先生より、
ずっと冷静なことが書かれています。

いずれにしても、
こうした点については、
おそらくもう5年くらいの間には、
明確な方向性が示される流れになるように思います。

今後の研究データを注視しつつ、
冷静な処方行動を、
心掛けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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そら

主人(63歳)は4年ほど前からアマリールを服用しております。正直、処方に関しては医師まかせで、調べようにも専門用語やらで敬遠しがちでした。こちらのブログでは、とても分かりやすく、ズバリとコメントをされていらっしゃるので、拝見しては、なるほどと頷くことがたくさんあります。インスリンのことに触れられていましたが、先日TVでアルツハイマーと糖尿病の因果関係について取り上げた番組を観ました。それでなのですが、このブログの2011/1/31「メマンチン」のお話にも、今週始めにコメントさせて頂きした。もしよろしければ、お読み下さると幸いです。
by そら (2013-11-09 00:51) 

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