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サイモン・マクバーニー「春琴」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は石原が健診説明会出席のため、
午後の診療は5時半で終了とさせて頂きます。
受診予定の方はご注意下さい。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はウィークデイですが趣味の話題です。

今日はこちら。
春琴.jpg
イギリスの演出家のサイモン・マクバーニーが、
谷崎潤一郎の「春琴抄」と「陰翳礼讃」を元に構成した、
非常に繊細で詩的な舞台「春琴」が、
世田谷パブリックシアターで4演目の上演を行なっています。

僕はこれは大好きで、
2008年の初演は観ていないのですが、
再演で魅了され、
3演目にも足を運びました。
ただ、3演目は席が悪かったということもあるのですが、
あまり作品世界に没入出来ず、
少し人工的な感じがして、
やや落胆を感じました。
今回の上演も少し不安はあったのですが、
力感にも溢れた審美的な舞台で、
堪能することが出来ました。
僕が観た中では、
今回が最も良かったと思います。

サイモン・マクバーニーは、
この作品以前に日本の俳優とのコラボとして、
村上春樹の数編の短編を再構成した、
「エレファント・バニッシュ」という舞台を上演していて、
今回の舞台とも何人かキャストはかぶっているのですが、
これは正直な話あまり面白くなくて、
欧米人の演出家の悪いところが出たな、
という印象を持ちました。

彼らは優れた文章を優れた俳優が朗読すれば、
それだけで優れた芝居になる、
というように考えている節があって、
ただ小説を朗読するだけのような、
舞台を良く作るのですが、
日本人の俳優が日本語の小説を、
ただ朗読するような芝居が、
あまり面白くなった例はないのです。

この「春琴」もそうした訳で、
どうせ同じような朗読劇だろう、
というように思い、
初演は観る気が起こりませんでした。

しかし、
上演後は非常に好評であったので、
これは行かなければ、と思い、
再演の舞台で一気に虜になりました。

基本的にはこの芝居も、
「春琴抄」の朗読劇の部分はあるのです。

ただ、「エレファント・バニッシュ」が、
単に短編を繋ぎ合せただけの内容であったのに対して、
この作品では二重三重の仕掛けが施されていて、
谷崎の世界が明確に血と肉となって、
舞台に役者の肉体で表現されています。

笈田ヨシが最初に自らの思い出を語り、
1本の卒塔婆に見立てた棒を、
舞台の中央に突き立てるオープニングからして、
平面が立体になるような趣向にワクワクしますし、
一気に舞台を闇が覆い尽くし、
仄かな蝋燭の明かりが、
朧に揺らぐ場面も、
かつての寺山演劇の闇を彷彿とさせて、
涙が出るような思いがします。

サイモン・マクバーニーは、
寺山修司の「奴婢訓」のイギリス公演を観ていて
(勿論寺山修司生前の舞台です)、
寺山ファンの1人でもあるので、
今回の舞台は明確にそのオマージュとしての性質があり、
おそらく寺山修司の死後の全ての舞台作品の中でも、
真の意味で寺山演劇を感じさせる点では、
この作品の右に出るものはそうはないように、
僕には思えます。

本当はもっと濃密な小さな空間で、
完全暗転を実現させてくれれば、
もう人生に何の悔いもない、
というところなのですが、
残念ながらそうしたことはないので、
まだ僕は芝居を観続けています。

今回の上演は僕が観た中では、
最も充実していて、
おそらくはこれが最後ということもあるのでしょうが、
佐助が自分の目を突く辺りの壮絶さは、
文字通り肺腑を抉るような戦慄がありましたし、
全てのキャストの動きの洗練度も、
完成の域に達していました。

不満はクライマックスの鼓の使い方に違和感があるのと
(鼓は静寂を表現する道具であって、
効果音のように使うべきではないと思います)、
春琴役の1人で乳房を見せる女優さんが、
明らかに大足なのに、
そこに春琴の足がとても小さい、
というナレーションが被る間抜けさですが、
その辺りは小さな瑕と思います。

また、どうしても舞台中央の小空間での芝居が基本となるので、
遠い席だと濃密な感じが薄れますし、
舞台の横の席だと背後の映像と前方の役者とが、
綺麗にシンクロしないので、
その点は構造上の問題かとは思います。
もう少し本来であれば、
どの客席からも、
ほぼ同質のものが得られるようでないと、
いけないのではないかと思いました。

この芝居は矢張りもう少し小空間で行なうか、
大空間であれば、
寺山演劇のように、
客席を巻き込んで空間を構成しないと、
まずいように思います。

いずれにしても、
これだけ完成度の高い「闇の演劇」は滅多になく、
上演はもう明日までですが、
本物の芝居を観たい方には、
是非にお薦めします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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