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RSウイルスの感染を防ぐと喘息が予防出来るのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は事情があって、
いつもより早い更新です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
RSウイルスと喘息.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
RSウイルスというお子さんの呼吸器感染症のウイルスと、
その後の小児喘息の発症についての論文です。

気管支喘息は気道のアレルギー性の炎症ですが、
特に小児喘息と呼ばれる、
お子さんの時期からの喘息の原因は、
まだ完全には解明されていません。

以前ご紹介しましたように、
第17番遺伝子にある17q21という場所の遺伝子変異が、
喘息の発症と関連性がある、
という報告があり、
遺伝性の関与のあることはほぼ間違いがありませんが、
その一方でご家族の喫煙や、
お子さんの時期のウイルス感染症が、
その後の喘息の発症に関連性のあることを示唆する、
複数の報告があります。

特にRSウイルスやライノウイルスと呼ばれる、
小さなお子さんに風邪や肺炎などを起こすウイルスに感染して、
その後に胸のゼコゼコが生じ、
それが持続的なゼコゼコに移行した場合には、
その後の喘息の発症が、
明確に増えることが分かっています。

それでは、
お子さんの時期のウイルス感染を予防出来れば、
それが小児喘息の予防に繋がるのでしょうか?

ウイルス感染の予防と言えば、
すぐに頭に浮かぶのは、
ワクチン接種による予防です。

しかし、現状はRSウイルスやライノウイルスのワクチンは存在せず、
ワクチンによるこうした病気の予防は出来ません。

ただ、
RSウイルスに関しては、
抗ウイルス剤として、
抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体、
という注射薬があり、
このウイルス感染で重症化のリスクが高い、
早産児や心臓の病気をお持ちのお子さんなどに限って、
使用がされています。

2007年にその点についての、
疫学研究の結果が発表され、
それによるとこの抗RSウイルス剤を使用したお子さんは、
使用していないお子さんと比較して、
その後の再発性のゼコゼコが少ない、
という結果でした。
その後のサブ解析では、
アトピーの素因のないお子さんに限って、
その効果は得られていた、
というちょっと不思議な感のある結果も報告されました。

ただ、
これはくじ引きでお子さんに治療をする、
というような厳密な方法を用いた試験ではありません。

そこで今回の研究では、
健常な33~35週で出産の早産児429名を対象として、
ほぼ半数には月に1回抗RSウイルス剤を注射し、
もう一方にはただの注射液を注射し、
生後1年までの経過を観察しました。
それもお子さんやお母さんにも、
医者や看護師にも、
分からないようにしてくじ引きで行なったのです。

本来は早産児にはRSウイルス重症化のリスクがあるのですから、
これはちょっと日本では、
倫理的に出来ない種類のオランダの研究です。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
RSウイルス治療の効果.jpg
観察期間中にお子さんがゼコゼコを起こした日数を、
治療群と未治療群で比較したものです。

明らかにRSウイルスの治療により、
お子さんのゼコゼコの日数は減少しています。

これはトータルで61%の相対リスクの低下と計算されました。

実際に風邪などのウイルス感染によると思われる、
呼吸器症状は、
どちらの群においても、
トータルでのべ1000例程度ずつは起っていて、
そのうちの3割では病原体の検査が行なわれています。

どちらの群でも、
検出された病原体の7割はライノウイルスです。

未治療群では6%でRSウイルスが検出され、
それが治療群では3%に減少しています。

ただ、
ゼコゼコを起こした事例に限ると、
未治療ではそのうちの19%はRSウイルスで、
ライノウイルスと共に、
最も多いという結果でした。

RSウイルスのみがお子さんのゼコゼコの原因ではないのですが、
このようにRSウイルスの感染を予防すると、
それによりゼコゼコの発症自体も、
かなりの比率で減少しています。

これは喘息そのものの発症を、
検証したものではありませんから、
この治療により喘息そのものの発症が、
予防されるかどうかは、
現時点ではまだ未知数です。

ただ、
繰り返すゼコゼコや持続的なゼコゼコが、
喘息の発症リスクであることは間違いはありませんから、
今回の研究は、
喘息の予防の可能性に、
道を開いたものだ、
という言い方は可能だと思います。

以前ご紹介した、
遺伝子変異のあるお子さんでの検討では、
RSウイルスではなく、
ライノウイルスの感染のみが、
その後のゼコゼコと関連している、
という結果でしたから、
これを単純に信じれば、
遺伝子変異による喘息は、
RSウイルスの感染が引き金にはならないけれど、
遺伝子変異によらない喘息は、
RSウイルスの感染が発症と関連する、
というややこしい結果になり、
そんなことが有り得るのだろうか、
という懐疑の念も覚えます。

この抗RSウイルス抗体を、
全てのお子さんに使用する、
という方針は、
あまり現実的なものとは思えませんが、
今後RSウイルスやライノウイルスに対する、
ワクチンが実用化されれば、
それによる喘息予防という考えは、
より現実的なものになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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