唐十郎「鉛の兵隊(再演)」 [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診ですが、
朝から在宅診療で褥創の処置をして、
それから老人ホームに行って、
今帰って来たところです。
昨日は午前中は診療がバタバタで、
途中でちょっともう、
精神的に均衡が崩れそうになりました。
そんな時に限って老人ホームもバタバタで、
途中でファックスが来たら、
数日振りにお出でになった入所者のご家族が、
「何故こんなに具合の悪いのに、
何もしてくれないんですか!」
と怒っている、
と言われたり、
「今気が付いたら、
膝から下が紫色になっています」
と言われたり、
「今気が付いたら、酸素飽和度が80%でした」
と言われたりするので、
何で土曜日の午後になって、
そんなことを次々と言い出すの、
と泣きそうになりますが、
仕方がありません。
おまけに夕食を摂ったら、
1年前に入れた歯が欠けました。
外は「ノルウェイの森」のラストのような、
土砂降りです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
唐先生率いる「唐組」の、
第51回公演が東京で公演中です。
お怪我をされて、
今どのくらいご回復されているのか、
心配な唐先生ですが、
今回の公演の演出には立ち会われた、
という報道はありました。
ただ、今回の作品は8年前の再演ですし、
唐先生の役者としての登場はありませんでした。
「鉛の兵隊」は2005年に唐組公演として初演されています。
その時のパンフレットがこちら。
僕は状況劇場の「新二都物語」初演以降の、
唐先生の舞台は一応「ねじの回転」以外は、
全て1回は観ていますが、
この作品の細部はすっかり忘れていました。
ただ、
オープニングの岩山に、
旧日本軍の幽霊部隊が出て来る件は、
「日本兵の亡霊」という、
昔の唐先生の作品には、
定番のキャラが、
久しぶりに出現したので、
印象深く覚えていますし、
新巻鮭のコスプレで登場する唐先生の姿も、
何となく覚えています。
今回観直して、
最近の唐先生の作品の中では、
豊穣で懐かしいイメージの数々に魅力がありますし、
熱砂の砂漠で指紋が削り取られ、
それが日本軍の死の行軍に繋がり、
スタントマンという存在を介して、
人間が時空を超えて入れ替わる、
というダイナミックな感じが、
ロマネスク的で素敵な芝居だな、
と改めて感じました。
今回は特に野田秀樹の「小指の思い出」や、
「大脱走」との相似性を感じました。
「小指の思い出」では、
指紋の渦が消えますし、
「大脱走」や「キル」では、
グラウンドの熱が、
熱砂の砂漠を呼び寄せるのです。
野田秀樹の特に初期の作品は、
構造やイメージの点で、
唐先生の大きな影響を受けていて、
「まんま」のイメージが、
結構存在しているのです。
ただ、消える指紋、などは野田さんの方が先ですから、
この辺りも非常に興味深いところです。
前回の「虹屋敷」もそうでしたが、
再演のチョイスは非常に見識の高いもので、
どの程度唐先生自身の意向が反映されているのか、
演出の久保井研さんの選択によるものなのかは、
部外者には知る由もありませんが、
いずれにしても、
このような形で、
質の高い唐先生の再演の舞台を観ることが出来たことは、
幸せなことだと思いました。
作品の構成はかなり入り組んでいて、
いつものことですが、
過去に存在した人間関係と、
それが現在にどう反映しているかの説明が、
非常に断片的にしか出て来ず、
かつ舞台上の役者さんは、
また別個の興味のある話題を、
滔々と語り出すので、
主人公に同化して物語に没入することが、
なかなか難しい、
というきらいはあります。
稲荷卓央演じるスタントマンの主人公の幼馴染が、
故郷で一緒に目撃した、
旧日本軍の幽霊部隊の幻影に引き摺られるように、
自衛隊に入り、
イラクへPKOで派遣されることになるのを、
その幼馴染の姉が止めようとして、
主人公に、
「身代わり」というスタントを依頼するのですが、
結果としてそれは手遅れに終わり、
ある種の陰謀で、
幼馴染の青年は、
自分の指紋を奪われてしまいます。
その指紋を取り替えそうと、
主人公が奮闘する、
というのが物語りの縦糸ですが、
この作品を1回観て、
その縦糸に身を委ねるのは、
実際にはかなり難しいのです。
今回非常に魅力的だったのは、
特に2幕で、
下水道に「指紋買い」の店がある、
という設定のセットは、
間違いなく初演より良く出来ていて、
その指紋の店の蚊帳の向こうから、
「幽霊部隊」が姿を現わす場面は、
かつての「少女都市」などを彷彿とさせて、
ワクワクする思いがしましたし、
熱砂の砂漠を渦巻く風が、
人間のアイデンティティである指紋の渦を、
飲み込んで吹きすさぶ、
というような豪快でスケール感のあるイメージは、
初演では感じられなかったものです。
ラストの屋台崩しも、
すっきりとまとまっていました。
初演の舞台では、
どうしても唐先生の存在感が大きいので、
唐先生が死の大佐として台詞をしゃべっても、
唐先生としてしか見えないので、
その意味合いがやや変わってしまっていたのですが、
今回は唐先生の役を、
「虹屋敷」に続いて久保井研さんが演じたので、
作品の構造は、
より明確化されて、
すっきりした印象になったと思います。
役者は皆好演で、
「生声」の魅力を堪能しました。
稲荷卓央と藤井由紀、赤松由美、辻孝彦は、
初演時の役柄をそのまま演じ、
初演時に主人公の幼馴染の上司を、
かつての小林薫を彷彿とさせるような、
豪快な色悪ぶりで演じた丸山厚人の役は、
新人の岩戸秀年さんが演じました。
ちょっと真っ当過ぎる感じもしましたが、
悪くありませんでしたし、
唐先生の長台詞の魅力を、
充分に感じることが出来ました。
初演では今回演出の久保井さんが、
主人公の幼馴染を演じましたが、
今回は最近同じような、
主人公の友人や弟分を演じている、
気田睦さんが演じ、
これも悪くありませんでした。
勿論ご無理はして欲しくはないのですが、
唐先生の舞台復帰も、
密かに期待はしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診ですが、
朝から在宅診療で褥創の処置をして、
それから老人ホームに行って、
今帰って来たところです。
昨日は午前中は診療がバタバタで、
途中でちょっともう、
精神的に均衡が崩れそうになりました。
そんな時に限って老人ホームもバタバタで、
途中でファックスが来たら、
数日振りにお出でになった入所者のご家族が、
「何故こんなに具合の悪いのに、
何もしてくれないんですか!」
と怒っている、
と言われたり、
「今気が付いたら、
膝から下が紫色になっています」
と言われたり、
「今気が付いたら、酸素飽和度が80%でした」
と言われたりするので、
何で土曜日の午後になって、
そんなことを次々と言い出すの、
と泣きそうになりますが、
仕方がありません。
おまけに夕食を摂ったら、
1年前に入れた歯が欠けました。
外は「ノルウェイの森」のラストのような、
土砂降りです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
唐先生率いる「唐組」の、
第51回公演が東京で公演中です。
お怪我をされて、
今どのくらいご回復されているのか、
心配な唐先生ですが、
今回の公演の演出には立ち会われた、
という報道はありました。
ただ、今回の作品は8年前の再演ですし、
唐先生の役者としての登場はありませんでした。
「鉛の兵隊」は2005年に唐組公演として初演されています。
その時のパンフレットがこちら。
僕は状況劇場の「新二都物語」初演以降の、
唐先生の舞台は一応「ねじの回転」以外は、
全て1回は観ていますが、
この作品の細部はすっかり忘れていました。
ただ、
オープニングの岩山に、
旧日本軍の幽霊部隊が出て来る件は、
「日本兵の亡霊」という、
昔の唐先生の作品には、
定番のキャラが、
久しぶりに出現したので、
印象深く覚えていますし、
新巻鮭のコスプレで登場する唐先生の姿も、
何となく覚えています。
今回観直して、
最近の唐先生の作品の中では、
豊穣で懐かしいイメージの数々に魅力がありますし、
熱砂の砂漠で指紋が削り取られ、
それが日本軍の死の行軍に繋がり、
スタントマンという存在を介して、
人間が時空を超えて入れ替わる、
というダイナミックな感じが、
ロマネスク的で素敵な芝居だな、
と改めて感じました。
今回は特に野田秀樹の「小指の思い出」や、
「大脱走」との相似性を感じました。
「小指の思い出」では、
指紋の渦が消えますし、
「大脱走」や「キル」では、
グラウンドの熱が、
熱砂の砂漠を呼び寄せるのです。
野田秀樹の特に初期の作品は、
構造やイメージの点で、
唐先生の大きな影響を受けていて、
「まんま」のイメージが、
結構存在しているのです。
ただ、消える指紋、などは野田さんの方が先ですから、
この辺りも非常に興味深いところです。
前回の「虹屋敷」もそうでしたが、
再演のチョイスは非常に見識の高いもので、
どの程度唐先生自身の意向が反映されているのか、
演出の久保井研さんの選択によるものなのかは、
部外者には知る由もありませんが、
いずれにしても、
このような形で、
質の高い唐先生の再演の舞台を観ることが出来たことは、
幸せなことだと思いました。
作品の構成はかなり入り組んでいて、
いつものことですが、
過去に存在した人間関係と、
それが現在にどう反映しているかの説明が、
非常に断片的にしか出て来ず、
かつ舞台上の役者さんは、
また別個の興味のある話題を、
滔々と語り出すので、
主人公に同化して物語に没入することが、
なかなか難しい、
というきらいはあります。
稲荷卓央演じるスタントマンの主人公の幼馴染が、
故郷で一緒に目撃した、
旧日本軍の幽霊部隊の幻影に引き摺られるように、
自衛隊に入り、
イラクへPKOで派遣されることになるのを、
その幼馴染の姉が止めようとして、
主人公に、
「身代わり」というスタントを依頼するのですが、
結果としてそれは手遅れに終わり、
ある種の陰謀で、
幼馴染の青年は、
自分の指紋を奪われてしまいます。
その指紋を取り替えそうと、
主人公が奮闘する、
というのが物語りの縦糸ですが、
この作品を1回観て、
その縦糸に身を委ねるのは、
実際にはかなり難しいのです。
今回非常に魅力的だったのは、
特に2幕で、
下水道に「指紋買い」の店がある、
という設定のセットは、
間違いなく初演より良く出来ていて、
その指紋の店の蚊帳の向こうから、
「幽霊部隊」が姿を現わす場面は、
かつての「少女都市」などを彷彿とさせて、
ワクワクする思いがしましたし、
熱砂の砂漠を渦巻く風が、
人間のアイデンティティである指紋の渦を、
飲み込んで吹きすさぶ、
というような豪快でスケール感のあるイメージは、
初演では感じられなかったものです。
ラストの屋台崩しも、
すっきりとまとまっていました。
初演の舞台では、
どうしても唐先生の存在感が大きいので、
唐先生が死の大佐として台詞をしゃべっても、
唐先生としてしか見えないので、
その意味合いがやや変わってしまっていたのですが、
今回は唐先生の役を、
「虹屋敷」に続いて久保井研さんが演じたので、
作品の構造は、
より明確化されて、
すっきりした印象になったと思います。
役者は皆好演で、
「生声」の魅力を堪能しました。
稲荷卓央と藤井由紀、赤松由美、辻孝彦は、
初演時の役柄をそのまま演じ、
初演時に主人公の幼馴染の上司を、
かつての小林薫を彷彿とさせるような、
豪快な色悪ぶりで演じた丸山厚人の役は、
新人の岩戸秀年さんが演じました。
ちょっと真っ当過ぎる感じもしましたが、
悪くありませんでしたし、
唐先生の長台詞の魅力を、
充分に感じることが出来ました。
初演では今回演出の久保井さんが、
主人公の幼馴染を演じましたが、
今回は最近同じような、
主人公の友人や弟分を演じている、
気田睦さんが演じ、
これも悪くありませんでした。
勿論ご無理はして欲しくはないのですが、
唐先生の舞台復帰も、
密かに期待はしたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2013-05-12 11:54
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コメント(5)
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大変お忙しい土日を過ごされて、また月曜日までにバランスを調えるのも大変な事と思いますが、頑張ってください。
特に歯だとか首から上の不調はとてもストレスですよね。どうぞお大事になさってください。
先日とある質問で、命の次に大切なものは?
とありまして、自分なりに今出した答えは、思い出 になりました。良い事ばかりではないし、嫌な記憶も居座り続けていますし…お金とか愛情とか安心とか答えるにあたり多少ちらついたものもありましが、今のところ、思い出 で良かったと、今日の先生のブログを拝見してあらためて思いました。
先月、私も久しぶりに歌舞伎座のチケットを頂いて?落としを見てきました。頂いたのは、2部のチケットで、内容はいつになく役者が集中している感じには好印象でしたが…台詞も入っているし、いったい何年ぶりかわからないけれど、幸四郎の台詞が聞き取れたり、菊五郎の気合いらしきものも感じて、ただその代わり、ちょっと梅玉さんが元気なく感じました。
ただ、新しい歌舞伎座に関しては???な印象で、途中トイレへ行った際にコインロッカーが突然あらわれ、何故ここ?とか、イヤホンガイドのかわりのも、能楽堂のものと違い、スマートさにかけ、あらゆる意味でちょっとどうかなと…。あとは、やっぱり観客の中にはいつまでも携帯をいじっていたり、玉三郎が出てきて、綺麗ねぇ~の感嘆の声が最初だけでなく何度でも繰り返し方たちや、吉右衛門が登場すれば、この人の娘と…など、今、そのボリュームで話さなくてもいいのになと、
でもチケットをたまたま頂く幸運にめぐまれ、良い経験になりました(涙)。
外に出ると春になり様々な花が咲いて甘い香りがしてきますが、草むしりをする人をよくみかけます。先生も確か、ジョギングのあとお庭の草むしりされてましたよね。
なかなかお忙しいでしょうがまた、お好きな奈良などに行けるといいですね。義兄が奈良出身で、ヨシノの話を聞いたりしていますが、本人は田舎、田舎と愛着を持って言っています。
先生は仲代達矢さんの今後の活動も、唐さんとはまた違うのかもしれませんが、気になるところでしょうか?私はスクリーンの仲代さんが舞台にたつと予想外に不器用に感じた事がありましたが、その真剣さや誠実さに満ちた役者の姿には、とても感動した事を覚えています。
シャンソン歌手の弟さんとの共演も微笑ましく拝見しことがあります。
長くなりましたが、多趣味な先生のお時間がよいバランスでお仕事できる事を応援しています、頑張ってください。
by アミナカ (2013-05-12 15:21)
大変な日をお過ごしになられて・・・。
今日は心穏やかな日でありますように。
RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2013-05-12 17:52)
アミナカさんへ
コメントありがとうございます。
仲代達矢さんの芝居は僕も好きですが、
今のお姿はちょっと痛々しい感じがして、
劇場に足を運ぶのは躊躇しています。
アミナカさんもお体ご自愛下さい。
by fujiki (2013-05-13 06:05)
RUKO さんへ
お気遣いありがとうございます。
by fujiki (2013-05-13 06:06)
謹啓 石原先生 ご苦労様です 毎日 先生のニュースなどを、楽しみです。 アメリカでも インフルエンザの ワクチン 予防 注射を、している らしいけど みな 警戒感で 見守っておりますね。 日本人が インフルエンザの予防接種は 一番 受けている。要ですな。 長寿国 だけ有り増成、 皆さん お身体大切に お元気で 長生きしましよう。以上。
by 岡田健一 (2014-12-08 21:23)