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肺炎の診断における炎症反応の意義について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
肺炎におけるCRPの役割.jpg
先月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
一般の臨床における、
血液の炎症反応の測定の意義についての論文です。

肺炎というのは、
呼吸器の感染症の中では最も怖い病気の1つで、
特に小さなお子さんや高齢者では、
死の危険に容易に結び付く病気でもあります。

それでいて、
診療所のような末端の医療機関においても、
ほぼ毎日肺炎の疑いのある患者さんを、
診察していますし、
月に肺炎の患者さんが1人もいない、
というようなことはありません。

従って、診療所の診療で重要なことは、
肺炎の疑いのある患者さんを適切に診断することと、
軽症であれば外来で治療を行なったり、
中等症から重症であれば、
速やかに高次の医療機関にご紹介するなど、
適切な対応を取る、
ということにあります。

肺炎の診断は、
胸のレントゲン写真を撮ることで、
ほぼ確定します。

中にはレントゲンでは診断の困難な肺炎も存在しますが、
それはかなり例外的です。

それでは、
肺炎の疑いのある患者さんは、
全てレントゲンを撮れば良いか、
と言うと、ことはそれほど簡単ではありません。

まず、
在宅の寝たきりの患者さんであったり、
老人ホームの患者さんであったりすると、
簡単にレントゲン写真を撮ることが、
難しいケースがあります。

更には熱や咳のある患者さん全てに、
レントゲン撮影をするとすれば、
検査の無駄も多く、
放射線の被ばくと言う問題もあります。

従って、
ある程度肺炎の可能性を、
診察所見や症状、レントゲン以外の簡単な検査などで絞り込み、
肺炎の可能性の高い患者さんに限って、
レントゲンの撮影を行なう、
という方針が合理的だ、
ということになります。

まず、症状と診察所見が1つの手掛かりになります。

具体的には37度台後半以上の発熱と、
時に痰の絡む咳込み、
鼻水はどちらかと言うと少なく、
息切れなどの症状が前面に立ちます。
そして脈拍は100を越える頻脈になり、
胸を聴診すると、
痰が絡まったり気道が狭くなることに伴う、
「ラ音」という音がして、
時には肺の一部の呼吸音が聞こえなくなったり、
反対側と比較して弱くなったりします。

このような症状が揃うと、
肺炎の可能性は高まりますが、
100%という訳ではありません。

症状が揃っても肺炎ではないこともありますし、
症状が揃っていなくても、
レントゲンを撮ったら肺炎だった、
というようなこともあります。

この時点で、
補助的な検査として使用されているのが、
身体に強い炎症があると上昇する、
炎症反応と呼ばれる血液検査です。

代表的な炎症反応はCRPと呼ばれる検査です。

この検査は肺炎のような炎症以外にも、
リウマチのような病気や癌などでも数値が上がるので、
肺炎や気管支炎に特有の検査ではない、
という欠点があります。

しかし、
簡単に測定が可能で、
すぐに結果が出るので、
一般臨床においては重宝な検査であることは事実です。

ところが…

2009年にCRPの診断能についての総論的な文献が出て、
それによると肺炎の診断におけるCRPの診断能は、
非常に限定的なものに過ぎない、
という結果になっています。

要するにあまり当てにはならない、
という結果です。

この結果などを元に、
医療のSNSで権力を持っているような先生が、
「肺炎の診断にCRPを測るのは馬鹿な藪医者だ!」
というような趣旨のことをワーワー言ったので、
CRPを1つの拠り所に診療していた僕のような医者は、
とっても恥ずかしい気分になり、
そうは言っても他に代わるような指標もないので、
「どうせ先生のような素晴らしい診療はしていませんよ」
とこっそり呟きながら、
疚しい気分でCRPの測定を行なっていました。

代わりに最近脚光を浴びているのが、
プロカルシトニンという検査で、
これも一種の炎症反応ですが、
敗血症のような重症の細菌感染症のみで、
陽性になることが確認されています。

ただ、このプロカルシトニンが、
たとえば肺炎の初期診断において、
CRPに代わり得るような有用性を持っているかどうかについては、
まだその知見は限られています。

今回の研究においては、
ヨーロッパ全土において、
急性の咳症状で一般の医療機関を受診した患者さんのうち、
症状等から肺炎が疑われてCRPやプロカルシトニンを測定後、
1週間以内にレントゲン撮影を施行した、
最終的に2820名の患者さんを対象としています。
これは別個の抗生物質の効果についての、
臨床研究のデータを部分的に活用したものです。

このうちの5%に当たる140名が、
肺炎と診断されました。

そこで、
ROC曲線という方法で、
どのような臨床の指標の組み合わせが、
肺炎の診断に影響を与えているか、
という点を解析しました。

その結果、
臨床指標に加えてCRPを測定し、
その数値が3.0mg/dlを越える場合を、
「肺炎の疑いあり」として追加すると、
他の臨床指標に上乗せして、
一定の診断能の上昇が認められました。

しかし、
プロカルシトニンで同様の検討を行なっても、
診断能の上乗せ効果は確認されませんでした。

つまり、
市中肺炎の診断において、
臨床症状から肺炎の疑いが一定レベル以上認められる際に、
CRPを測定してその数値が3.0mg/dlを越える場合に、
それを肺炎診断の一助とすることには、
一定の合理性があることが確認されたのです。

肺炎の診断にCRPを測定することは、
無駄ではないのではないかしら…
という意見を持つ臨床医にとっては、
少しほっとするような結果です。

臨床診断というのは要するに絶対のものはなく、
それがどのような医療機関で、
どのようなレベルで行なわれるのか、
ということによっても、
それぞれ違いが生じる性質のものです。

診療所においては、
現在白血球の数や貧血の有無と、
CRPについては、
その場で測定してすぐに結果を出せる機器を常備しています。
胸のレントゲンも立つことが可能な患者さんでは、
すぐに撮ることが可能です。

一方でプロカルシトニンは測定しても、
外の検査会社に検体を提出するので、
その日のうちには結果は出ません。

従って、
現状では臨床症状から肺炎の疑われる患者さんがいれば、
通常はCRPと白血球の数を血液検査で見ると共に、
レントゲンを撮影して、
肺炎の診断を行なっています。

より詳細なチェックが必要であれば、
採取した血液の検体で、
検査会社に依頼してプロカルシトニンなどの検査も追加します。

若い女性の患者さんでは、
まず血液のみ測定して、
必要に応じてレントゲンの撮影を追加する、
ということもあります。
これは被ばくを最小限にするためです。

色々な事情で患者さんのご負担を最小限にしたい場合には、
血液検査はしないで、
まずレントゲンで肺炎の有無のみを確認する、
という段取りを取ることもあります。

これはもうケースバイケースで判断するべきことで、
「これはちょっとおかしいぞ」
というような、
経験から来る勘のようなものも、
意外に重要であるケースもあります。

CRPは現在の一般臨床においては、
矢張り一定の有用性はある肺炎診断の検査で、
その限界に配慮しながら、
うまく利用するのが得策のように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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