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アジスロマイシンと重症不整脈のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日から診療所はいつも通りの診療に戻ります。
メールのご返事は少々お待ち下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アジスロマイシンと心血管リスク.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
アジスロマイシンという抗生物質の使用と、
心臓病による重症不整脈や突然死のリスクについての論文です。

同じ号の巻頭にも同テーマについての解説があり、
抗生物質の有害事象として、
注目を集めている事案の1つです。

アジスロマイシン(商品名ジスロマックなど)は、
マクロライド系と呼ばれる抗生物質の1つで、
一度の使用により、
数日間以上に渡り炎症を起こした病巣に、
その効果が持続するという特徴があり、
国内外を問わず、
非常に頻用されている抗生物質の1つです。

国内では3日間の使用が一般的で、
欧米では5日間の使用がスタンダードです。

こちらをご覧下さい。
アメリカで使用されている抗生物質.jpg
これは雑誌巻頭の解説に添えられた図表ですが、
アメリカのプライマリケアの外来で、
慢性副鼻腔炎と気管支炎の診断の元に、
多く処方されている抗生物質を一覧にしたものです。

外来診療での抗生物質の使用頻度は、
この2つの病名が最も多いので、
これはアメリカの一般臨床の外来において、
最も多く使用されている抗生物質を一覧にしたものと同義です。

副鼻腔炎においては、
ペニシリン系のアモキシシリン(商品名サワシリンなど)が最も多く、
次にアジスロマイシンが続いています。
一部で非常に評判が悪いセフジニル(商品名セフゾンなど)も、
立派に上の方に並んでいます。

気管支炎においては、
アジスロマイシンが最も多く、
次がアモキシシリンで、
同じマクロライド系のクラリスロマイシンがそれに続いています。

日本の抗生物質の使い方は異常だ、
と最近言われる方が多く、
日本の医者のレベルの低さの代名詞のように、
主張をされる言説も多いのですが、
こうした図表を見る限り、
アモキシシリンの使用は確かに少ないと思いますが、
それ以外はほぼ同じ傾向が、
アメリカの一般臨床の処方にも、
あるように思います。

ペニシリンはペニシリンアレルギーが強調され、
そうした副作用のない薬として、
より新しい抗生物質が宣伝された、
という経緯があるのと、
その使用量の上限が海外と比べて極めて少なく、
添付文書の記載を無視しないと、
適切な処方が出来ない、
という点がアモキシシリンの処方量の少なさに、
結び付いていると思います。
小児の合剤のみ海外と同等の用量になっていて、
それ以外の薬は海外の数分の1の使用量なのですから、
この異常な状況は一刻も早く正すべきもののように思います。

話が脇に逸れました。

このように国内外を問わず使用が多いアジスロマイシンですが、
最近になってこの薬の使用により、
心臓の突然死が増加するのではないか、
という危惧が指摘されるようになっています。

以前ブログでもご紹介しましたが、
昨年のNew England…に論文が載り、
それはアメリカのテネシー州の処方の解析において、
アジスロマイシンの使用により、
ペニシリンの使用と比較して、
21000の処方当たり1名の心臓病による死亡が、
有意に増加する、
というショッキングなものでした。

これはアジスロマイシンを使用した5日間にかなり限定して
(論文で検証されているのは処方後10日間)、
死亡の増加が認められているもので、
この抗生物質の血液濃度の増加と、
死亡との間に関連性のあることを示唆するものです。

ただ、より詳細な解析においては、
心臓病のある患者さんにほぼ限定して、
そのリスクの増加は認められていて、
マクロライド系の抗生物質自体に、
QT延長症候群という重症不整脈のきっかけとなる病態を、
惹起する作用があることが明らかになっているので、
どうやらそうした重症不整脈の誘発が、
突然死に結び付いている可能性が高い、
と想定されています。

今回の論文では、
国民総背番号制が引かれているデンマークにおいて、
心疾患による死亡と、
アジスロマイシンやペニシリン等の抗生物質の使用との関連性を、
再度検証しています。

110万を越えるアジスロマイシンの処方が検証の対象となっています。

その結果…

抗生物質を未使用のコントロールとの比較においては、
アジスロマイシンの使用は、
心疾患による死亡リスクを、
2.85倍に増加させました。

しかし、
ペニシリンの使用との比較においては、
その心臓病の死亡リスクには、
有意な差は認められませんでした。

ただし、
心疾患の既往のある患者さんのみで解析すると、
1.35倍と有意ではありませんが、
やや死亡リスクが上昇する傾向を示しました。

要するに、
今回のデンマークの結果としては、
トータルに見た場合には、
アジスロマイシンを使用することで、
心臓病による死亡のリスクが、
明確に他の抗生物質と比較して、
増加した、という結果は出ていません。

確かに抗生物質の未使用者と比較すると、
死亡リスクは増加していますが、
これは治療を要する方の方が、
当然状態も悪い方の可能性が高く、
処方や病名の登録のみの解析では、
その意味付けは限界のあるところで、
何らかの推測をそこから引き出すのは難しいと思います。

ただ、
矢張り心臓病の既往のある群では、
死亡リスクが上昇傾向を示している点から考えて、
アジスロマイシンの使用は、
心臓病のある患者さんや心電図の異常のある患者さんでは、
より慎重であるべきだという点に関しては、
結論は揺るがないもののように思います。

個人的には結構使用頻度の高い薬で、
それなりの信頼も置いているので、
悩ましいところですが、
特に心臓に持病を持つ患者さんでの、
安易な処方は慎むように考えています。

もう1つ日本の診療においての問題は、
何度も記事にしていますように、
日本では慢性副鼻腔炎や慢性気管支炎に対する、
マクロライド系抗生物質の少量持続療法という治療が、
広く行なわれているという現状があることで、
これが患者さんの心疾患の死亡リスクに、
何も影響を及ぼさない、
ということは理屈から言えば考え難く、
日本において大規模なこの治療と心臓死との関連性の研究が、
これはもう是非必要なことなのではないかと考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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げきき

お伺いします。
気管支に炎症が起きた場合、一般的には
どういった薬を使って治療するものでしょうか?
ご教授お願い致します。
by げきき (2015-11-24 22:52) 

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