低炭水化物ダイエットの死亡リスク上昇について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は都合より、
いつもより早い更新になります。
診療はいつも通りです。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のPLOS one誌に掲載された、
低炭水化物ダイエットと、
その長期的な影響についての論文です。
これは、
国立国際医療センターの先生による論文ですが、
これまでのその分野における主だった文献を、
まとめて解析を行なった、
所謂メタ解析の論文で、
日本人のデータは含まれていません。
日本人の伝統的な食事は、
炭水化物を主体としてカロリーを取るもので、
それが糖尿病などの近年の増加に繋がっている、
という意見があります。
体重を短期間で効率的に減らすには、
同じカロリーであっても、
炭水化物を制限し、
高蛋白にするのが良いのでは、
という理屈があり、
一時期アメリカで非常に流行しました。
それが遅れて日本に入って来たような格好になり、
非常な熱意を持って、
低炭水化物ダイエットを、
推奨される専門家や専門家らしき方も、
複数いらっしゃいます。
一口に低炭水化物ダイエットと言っても、
その内容にはかなりの幅があり、
炭水化物の制限の仕方も様々です。
穏当なものは、
通常5割を越える炭水化物のカロリーに占める比率を、
3~4割程度にまで制限するもので、
通常はこれに平衡する形で、
蛋白質が増えて高蛋白食になります。
ただ、
中には炭水化物の比率が、
1割を切るようなものもあり、
また、蛋白の組成や、
脂質の組成に関する考え方も様々です。
炭水化物を3~4割程度に制限するダイエットに関しては、
その体重減少効果は短期間においては実証され、
心筋梗塞や脳卒中の発症に関しても、
短期間での検討ではリスクの低下を示唆するデータがあります。
ただし、
たとえば10年を超えるような長期間、
こうしたダイエットを続けた場合の効果と安全性については、
見解は分かれています。
今回の文献は、
これまでの比較的大規模な疫学データをまとめて解析したもので、
特に10年を超える長期間、
低炭水化物ダイエットを継続した場合の、
総死亡のリスクと、
心臓病や脳卒中の発症リスクを、
炭水化物の比率の多いダイエットと比較検証しています。
炭水化物と蛋白質の比率は10段階に分け、
それを数値化して統計的に比較をしています。
低炭水化物のスコアを用いて、
同種のデータを含む4つの文献をまとめて解析したところ、
炭水化物が最も少ないダイエットは、
多いダイエットと比較すると、
その総死亡のリスクが、
相対リスクで1.31倍有意に増加していました。
カロリーの比率の詳細は、
文献の本文には書かれていないのですが、
著者のコメントのある報道記事では、
炭水化物の多いダイエットが、
総カロリーの6~7割で、
少ないダイエットが3~4割と書かれています。
ご本人のコメントがあり、
複数の記事にそう書かれているので、
おそらくそれで間違いはないのではないかと思います。
つまり、
穏当なレベルの低炭水化物ダイエットと、
現行の一般的な栄養指導の基準から言っても、
やや炭水化物過剰のダイエットとを、
比較して検討している訳です。
低炭水化物と高蛋白の比率をスコア化して、
検証可能な少し組み合わせの違う4つのデータを解析しても、
矢張り1.3倍程度のリスク上昇が認められています。
しかし、
これも別個に心臓病や脳卒中の発症リスクや死亡リスクを解析しても、
低炭水化物ダイエットで、
同様のリスクの上昇は認められませんでした。
要するに、
この結果をそのまま信用するとすれば、
数年間以上という長期間、
低炭水化物のダイエットを持続することは、
心臓病や脳卒中のリスクを高めるのではなく、
何か他の栄養素の不足や過剰などに伴う弊害により、
死亡のリスクを高める可能性があるので、
注意が必要である、
ということになります。
この分野は強烈な情熱を持っている方が多く、
軽率なことを言うとお叱りを受けるので、
特にこれ以上のコメントは差し控えたいと思います。
ただ、
この問題はまだ解決には時間が掛かり、
相反する様々な見解があるので、
1つの立場の見解のみを聞いて、
それを鵜呑みにしたり、
カリスマにひれ伏して思考停止に陥るのは、
危険なことのように思います。
上記の結論も、
1つの立場の見解として、
判断材料の1つ程度に考えるのが、
妥当なのではないでしょうか。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は都合より、
いつもより早い更新になります。
診療はいつも通りです。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のPLOS one誌に掲載された、
低炭水化物ダイエットと、
その長期的な影響についての論文です。
これは、
国立国際医療センターの先生による論文ですが、
これまでのその分野における主だった文献を、
まとめて解析を行なった、
所謂メタ解析の論文で、
日本人のデータは含まれていません。
日本人の伝統的な食事は、
炭水化物を主体としてカロリーを取るもので、
それが糖尿病などの近年の増加に繋がっている、
という意見があります。
体重を短期間で効率的に減らすには、
同じカロリーであっても、
炭水化物を制限し、
高蛋白にするのが良いのでは、
という理屈があり、
一時期アメリカで非常に流行しました。
それが遅れて日本に入って来たような格好になり、
非常な熱意を持って、
低炭水化物ダイエットを、
推奨される専門家や専門家らしき方も、
複数いらっしゃいます。
一口に低炭水化物ダイエットと言っても、
その内容にはかなりの幅があり、
炭水化物の制限の仕方も様々です。
穏当なものは、
通常5割を越える炭水化物のカロリーに占める比率を、
3~4割程度にまで制限するもので、
通常はこれに平衡する形で、
蛋白質が増えて高蛋白食になります。
ただ、
中には炭水化物の比率が、
1割を切るようなものもあり、
また、蛋白の組成や、
脂質の組成に関する考え方も様々です。
炭水化物を3~4割程度に制限するダイエットに関しては、
その体重減少効果は短期間においては実証され、
心筋梗塞や脳卒中の発症に関しても、
短期間での検討ではリスクの低下を示唆するデータがあります。
ただし、
たとえば10年を超えるような長期間、
こうしたダイエットを続けた場合の効果と安全性については、
見解は分かれています。
今回の文献は、
これまでの比較的大規模な疫学データをまとめて解析したもので、
特に10年を超える長期間、
低炭水化物ダイエットを継続した場合の、
総死亡のリスクと、
心臓病や脳卒中の発症リスクを、
炭水化物の比率の多いダイエットと比較検証しています。
炭水化物と蛋白質の比率は10段階に分け、
それを数値化して統計的に比較をしています。
低炭水化物のスコアを用いて、
同種のデータを含む4つの文献をまとめて解析したところ、
炭水化物が最も少ないダイエットは、
多いダイエットと比較すると、
その総死亡のリスクが、
相対リスクで1.31倍有意に増加していました。
カロリーの比率の詳細は、
文献の本文には書かれていないのですが、
著者のコメントのある報道記事では、
炭水化物の多いダイエットが、
総カロリーの6~7割で、
少ないダイエットが3~4割と書かれています。
ご本人のコメントがあり、
複数の記事にそう書かれているので、
おそらくそれで間違いはないのではないかと思います。
つまり、
穏当なレベルの低炭水化物ダイエットと、
現行の一般的な栄養指導の基準から言っても、
やや炭水化物過剰のダイエットとを、
比較して検討している訳です。
低炭水化物と高蛋白の比率をスコア化して、
検証可能な少し組み合わせの違う4つのデータを解析しても、
矢張り1.3倍程度のリスク上昇が認められています。
しかし、
これも別個に心臓病や脳卒中の発症リスクや死亡リスクを解析しても、
低炭水化物ダイエットで、
同様のリスクの上昇は認められませんでした。
要するに、
この結果をそのまま信用するとすれば、
数年間以上という長期間、
低炭水化物のダイエットを持続することは、
心臓病や脳卒中のリスクを高めるのではなく、
何か他の栄養素の不足や過剰などに伴う弊害により、
死亡のリスクを高める可能性があるので、
注意が必要である、
ということになります。
この分野は強烈な情熱を持っている方が多く、
軽率なことを言うとお叱りを受けるので、
特にこれ以上のコメントは差し控えたいと思います。
ただ、
この問題はまだ解決には時間が掛かり、
相反する様々な見解があるので、
1つの立場の見解のみを聞いて、
それを鵜呑みにしたり、
カリスマにひれ伏して思考停止に陥るのは、
危険なことのように思います。
上記の結論も、
1つの立場の見解として、
判断材料の1つ程度に考えるのが、
妥当なのではないでしょうか。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-02-05 06:32
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石原先生、こんにちは。
いつもありがとうございます。
私も食後血糖値が上がりやすいので、糖質は控えるようにしています。
先生のおっしゃっているように、熱烈に低炭水化物を指示している人が私の周りにもいます。
血糖値やHbA1cを下げるのもいいのですが、それが目的ではなく、健康を維持することこそ大切。
このようなデータを参考にしながら賢くやってゆきたいと思っています。
また論文のご紹介楽しみにしています。
by モカ (2013-02-05 16:03)
こんにちは。
低炭水化物療法を支持する者です。
確かに、低炭水化物療法は信者が沢山いると思います(笑)。
そういう人たちが何の知識もなくすぐにかみつき、自己流でやって健康を害する人が多いのもまた事実で、悲しいことです。
今、低炭水化物療法が流行りみたいな流れになっているので、むしろ、石原先生のような客観的なデータを紹介してくれるDrが貴重だと思います。
今後もこのような記事があったらまた紹介して頂きたいです。
by 加藤 (2013-02-09 08:22)