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限局性前立腺癌の長期経過について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
限局性前立腺癌の長期予後.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
前立腺癌の長期経過についての論文です。

前立腺癌は、
特に転移などのない限局性の状態では、
予後の良い癌として知られています。

一方で前立腺癌の治療には、
それがどのような方法を用いるとしても、
おしっこが漏れ易くなったり、
便意を我慢出来なくなったり、
勃起し辛くなったり、といった、
生活上の多くの弊害をもたらします。

これまでの治療の成績というのは、
あくまで癌自体の改善や治癒に的を絞ったもので、
有害事象としての治療の合併症も、
記載はされていますが、
それほど重要視はされませんし、
特にその長期の経過については、
あまり言及されることがありませんでした。

そこで今回の論文では、
PCOSと呼ばれる、
アメリカで行なわれた前立腺癌の、
大規模な臨床試験のデータを元にして、
限局性の前立腺癌を手術療法と放射線療法で治療したケースの、
15年という長期の経過を観察しています。
治療時の平均年齢は60代で、
例数は手術群が1164例、
放射線治療群が491例となっています。

ターゲットとなっているのは、
治療の合併症である、
おしっこが漏れ易くなる尿失禁と、
勃起障害の有無、
そして排便を我慢し難くなる、
便意切迫です。

その結果…

尿失禁と勃起障害は、
手術療法の方が放射線治療より多く、
反対に便意切迫に関しては、
放射線治療の方が多く発生していました。

これは両者の治療の特性からすれば、
ある意味当然のことです。

しかし、
そうした2つの治療の差は、
治療後2~5年の間には顕著になりますが、
その差はその後次第に縮まり、
治療後15年の検討では、
統計的な有意差は、
どの項目においても消滅しています。

尿失禁については、
手術後半年でその頻度は一気に増加し、
その後やや改善しますが、
術後2年においても、
9.6%の患者さんに、
コントロールの出来ない尿失禁が認められ、
その比率はその後も徐々に増加を続けます。
放射線療法は施行後2年の段階では、
コントロールの出来ない尿失禁は3.2%に認められるのみですが、
15年後にはそれが9.4%まで増加しています。

勃起不全については、
手術後2年で78.8%に認められますが、
それが15年後には87.0%になり、
放射線治療2年後にも60.8%に存在して、
それが15年後には93.9%に増加します。

便意切迫は明確に放射線治療に多いのですが、
2年後に34.0%に認められ、
15年後には35.8%ですから、
それほどの差はありません。
一方で手術治療後には、
2年後で13.6%と少ないのですが、
15年後には21.9%に増加しています。

前立腺癌という予後の良い癌においては、
その後治療によりどのような身体の変化が生じ、
その長期間の経過はどうなのかが、
患者さんにとって治療を選択する上で、
大きな重要性を持つ情報となるので、
今回のデータはその意味で、
患者さんにとっても医師にとっても、
非常に意義のあるものではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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