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医療状況を改善するにはどうすれば良いのか? [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業があり、
夜は医師会でのBCGの研修会に廻る予定です。

東京も雪が降り出しました。
あまり積もらないと良いのですが…

今日は雑談です。

先日の認知症の講習会で、
興味深い遣り取りがありました。

認知症の進行したお年寄りで、
深刻な問題になることの1つは、
肺炎や骨折などで入院が必要となるような時に、
受け入れてくれる病院がなかなか見付からず、
見付かると今度は受け入れた病院が、
非常に苦労して、
多大な労力を要する、
というような事例です。

認知症の患者さんを積極的に受け入れる医療機関が、
色々な形で指定はされているのですが、
そうした医療機関の多くは精神科の病院なので、
骨折や肺炎などの身体疾患では、
内科や整形外科の患者さんは原則として受け入れが困難なので、
実際には認知症の専門ではない、
通常の総合病院や救急指定病院などの、
医療機関が受け入れることになるのです。

問題はそうした医療機関においては、
通常の患者さんの数倍の労力が掛かるにも関わらず、
病院に入るお金である、
健康保険の診療報酬には、
何らそのための加算などはない、
というところにあります。

行政の認知症に関する立場の説明の後で、
講師の先生にフロアの先生が、
「重度の認知症の患者さんを受け入れた場合の、
診療報酬の加算点数が認められるような動きはないのか?」
という趣旨の質問をしたところ、
講師の先生は、
その質問には直接は答えず、
「要するに個々の病院の位置づけをどのようにして、
どのように連携してゆくかが一番の課題なのだ」
というコメントでお茶を濁しました。

これでは何の答えにもなっていないのですが、
勿論質問の内容は理解していて、
鬱陶しい質問には、
敢えてとぼけて別の答えにすり替えるのが、
この講師の先生のテクニックのように思いました。

その後で登場した、
老年医学の旗振り的な立場の先生が、
後でその話題に触れ、
加算を要求するためには、
看護師の研修の実績が必要で、
その研究の実現のための予算を、
まず認めさせるように、
折衝しているところだ、
という趣旨のご発言をされていました。

その話を聞いて、
なるほどと、
膝を打つ思いがしました。

認知症の患者さんを一般病院で受け入れると、
治療やケアが大変なので、
診療報酬を増やして欲しい、
と素朴な主張をしても、
社会保障の財政も逼迫している折ですから、
行政は首を縦に振ることはないのです。

そこでちょっと視点を変えます。

一般病院で認知症の患者さんを受け入れると、
何故大変なのかと言えば、
一般病院は重度の認知症の患者さんの対応に、
特化している訳ではないので、
多くの人員と時間とが、
その患者さんのケアのために必要になり、
他の業務がおろそかになるという点にあります。

勿論それだけではありませんが、
ここは問題を単純化します。

それを人員を増やすことなく解決するとすれば、
個々のスタッフが、
より認知症の患者さんのケアに、
習熟することが必要だ、
ということになります。

老年医学の旗振り役の先生は、
そうしたことが分かっているので、
まず看護師の研修に予算を付け、
それを利用して全国的に看護師の認知症研修を施行。
認知症サポート看護師、
のような簡単な研修で取得可能な資格を作り、
資格を取った看護師が一定数に達したタイミングで、
今度はそうした看護師がいることを条件に、
加算点数を要求する、
という段取りになっている訳です。

この話を看護師の知り合いにしたところ、
認知症認定看護師という資格があるのだから、
それを活用すれば良いのに、
という感想でした。

しかし、
それは違うのです。

認定看護師というのは、
医者の専門医のような資格ですが、
その人数は少ないので、
診療報酬の取引材料にはならないのです。

行政にとっては、
皆保険という建前上、
全国津々浦々の医療機関で、
同じレベルの診療が行なわれるというのが、
診療報酬に加算を付ける上での、
1つの条件になるからです。

資格は行政との取引の材料にはなりますが、
少数の専門職しか持っていない資格では、
そうした目的には使えないのです。

従って、
形だけでも研修をして、
資格を持ったスタッフを一定数養成し、
その上でその資格者のいることを条件にして、
加算点数が実現するのです。

遠廻りのようで、
これが正解なのです。

ポイントはまず税金で、
資格養成の予算を付けていることです。
これにより、
行政の側でもその責任が生じるので、
将来の加算が認められる下地になっている訳です。

なかなか巧妙ですよね。

このように行政に働きかけて医療状況を改善するには、
常に駆け引きと段取りとが必要で、
ちょっとした要求を通すためにも、
数年後から場合によっては10年後くらいを見据えた、
粘り強い交渉が必要になるのだと思います。

こうしたある種の腹黒さが、
僕はあまり好きではありませんが、
清濁併せ呑むようなところがないと、
大きな状況というのは、
変わっていかないということも、
また事実なのではないかと思います。

今日は医療状況を変えるにはどうすれば良いのか、
というちょっと硬い話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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あい。

おはようございます。
より身近な問題の上に、自分の考えていることに似ている部分もありましたので、少しお話させてください。
わたしは、パニック症と若年性パーキンソンを持っています。一昨年、子宮筋腫で子宮を全摘するために一か月産婦人科に入院したのですが、その時に、ここのブログに書いてあるのと同じないようとことでひっかかってしまたのです。疾患としては産婦人科でよいのですが、パニック症独特の症状は理解してもらえず、部屋をくるくる移動させられたり、独りきりで知らない部屋に待たされたり、手術室まで歩いて行かされたりしました。医師や看護師にいくら苦手だと伝えても改善されず、とうとう無断で外出もするようになりました。病院なのになぜわかってもらえないのか、不思議でたまりませんでした。
今や精神疾患の人数はものすごい数ではないかと思います。どの科にに入院しても対応できるようにしていただきたいものです。
by あい。 (2013-02-07 21:04) 

fujiki

あいさんへ
コメントありがとうございます。
科ごとの縦割りは、
まだまだ問題が大きいと思いますが、
少しずつ改善の気運もあると思います。
病院によっても対応は異なる面があると思いますので、
事前にそうしたことも確認の上、
治療される施設を、
決められるのが現状は良いかも知れません。
勿論全ての科の医者が、
最低限の知識と対応力を持つことが、
あいさんの言われるように望ましいのですが、
そこにはまだハードルがありそうです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-02-09 08:25) 

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