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カルシトニンの発癌リスクを考える(増補版) [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から事務作業をして、
それから今PCに向かっています。

左手の手術のため、
10月21日から入院の予定です。
このため22日(月)と23日(火)は代診で、
原則として内科のみの対応となります。
乳幼児のお子さんや心療内科の方の診察は、
お断りする場合のあることをご了承下さい。
24以降は通常通りの診療の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カルシトニンと発癌プレスリリース.jpg
この話題は以前にも一度ご紹介したことがあります。

今日はその内容の増補版です。

今年の7月にヨーロッパ医薬品庁(the European Medicines Agency)は、
カルシトニン製剤の長期使用を、
原則として禁止するという発表をしました。

そのプレスリリースがこちらです。

この発表に続き、
カナダでもそのリスクを検証する旨の報道がありました。

カルシトニンは骨の吸収を抑制するホルモンで、
人間では主に甲状腺のC細胞という細胞から分泌され、
血液のカルシウムを低下させる作用があります。

従って、
その発見当初は、
骨粗鬆症などの骨の脆くなる病気の特効薬として、
非常に期待されたのですが、
そのまま使用しても、
実際にはあまり目立った効果がなく、
その骨に対する作用が人間より強い、
ウナギや鮭のカルシトニンの構造を元に、
所謂カルシトニン製剤が、
製品化されました。

当初は注射薬として使用され、
日本で採用されているのはそれのみですが、
海外では内服薬や点鼻のタイプのカルシトニンも、
開発されています。

日本においては、
その骨量に対する作用より、
骨粗鬆症などに対する疼痛緩和作用が、
期待されて使用されています。

この疼痛緩和作用は、
セロトニンなどを介する中枢性のものと考えられ、
それ以外に血流改善作用なども、
認められています。

診療所でも、
主にご高齢の骨粗鬆症の患者さんの、
疼痛緩和に、
このカルシトニンの注射薬を使用しています。

それでは何故今回、
このカルシトニンが海外で、
長期使用の禁止、
という事態になったのでしょうか?

それはカルシトニン製剤の長期使用により、
癌の発症リスクが増加することを、
示唆するデータが認められたからです。

2004年にイギリスにおいて、
前立腺癌のリスクとカルシトニンとの関連が、
指摘されましたが、
その時点ではカルシトニンが原因とまでは、
特定されませんでした。

その後経口のカルシトニン製剤の開発の過程で、
臨床データの検証から、
2010年に矢張り前立腺癌のリスク増加が指摘され、
その後の検証の結果、
前立腺癌を含む多くの種類の癌の発症が、
経口剤の0.7%から点鼻の2.4%の範囲で、
増加することが確認されたと、
上記のプレスリリースには書かれています。
これはおそらくは絶対リスクと思われます。

ただ、データの詳細は明らかでないので、
これが前立腺癌にほぼ限定された現象なのか、
そうでないのかは、
明確ではありません。

カルシトニンの骨粗鬆症への効果は、
他の骨粗鬆症の治療薬と比較して、
高いものではないので、
ヨーロッパの行政機関の結論としては、
骨粗鬆症へのカルシトニンの使用は、
基本的に推奨はされない、
というものになっているのです。

それでは、
何故カルシトニンにより、
発癌リスクが上昇するのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
カルシトニンと前立腺癌論文.jpg
これは2008年のEndocrine-Related Cancer誌の論文ですが、
前立腺癌の細胞において、
分泌されたカルシトニンが、
前立腺癌の増殖を促し、
転移を促進する働きを持つことを、
細胞レベルの実験で検証したものです。

悪性度の高い前立腺癌の細胞においては、
カルシトニンの遺伝子がしばしば発現していて、
それが癌細胞の増殖や転移などの機能に、
促進的な役割を果たしていることが、
臨床レベルでも確認されています。

要するに、
骨に対する作用以外に、
このような増殖促進作用がカルシトニンにはあり、
それが癌リスクの増加に、
繋がっているものと考えられるのです。

一方でカルシトニンに癌抑制作用のあることも、
複数の報告があり、
Medlineで検索すると、
引っ掛かるのはそうした報告が殆どです。

従って、
この問題はまだ解決されたものではなく、
どのような癌に対して、
どのようなレベルで癌の増殖を促進するような作用があるのかは、
今後の検討を待たなければならない事項だと思います。

今回の決定は、
海外での骨粗鬆症に対するカルシトニン製剤の位置付けは、
もともと低いものなので、
若干でも有害事象の危惧があれば、
取り止めるに越したことはない、
というレベルの判断なのだと思われます。

海外では骨粗鬆症に対するカルシトニンの使用は、
点鼻が主流で注射は少ないことから、
日本での注射薬の使用に、
同様のリスクがあるかどうかは分かりません。

現状日本でそうした警告が、
発せられている、ということもないようです。

先日この件について、
当該の薬品を製造販売している製薬会社の学術担当の方から、
情報を得る機会がありました。

その方の見解としては、
点鼻のカルシトニンはその用量も多く、
ちょっと特殊な用法と考えた方が良いので、
発癌の警告は主に点鼻の製剤に関してのもので、
日本と同じ製剤が使用されている韓国においても、
点鼻の製剤については注意喚起がなされているけれども、
注射の製剤の日本と同じ用量による使用には、
そうした扱いは取られていない、
ということでした。

確かに点鼻の製剤は、
サケ由来のカルシトニンを用いて、
毎日200単位の使用を継続するというもので、
それに対して、
日本の使用量は、
ウナギ由来のカルシトニンが1回20単位で週に1回、
サケ由来のカルシトニンが1回10単位で週に2回ですから、
骨粗鬆症に治療に限定しての話ですが、
かなりの開きがあります。

ただ、そうしたリスクが若干ながら存在することは、
あるものとして考えた方が良く、
特に前立腺癌のリスクの高い、
高齢の男性への使用については、
慎重に考えた方が良いのではないかと思います。

今日はカルシトニンの発癌リスクについての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

キウイ

お大事になさってください。
by キウイ (2012-10-19 09:13) 

いっぷく

どうぞお大事に
by いっぷく (2012-10-20 03:14) 

fujiki

キウイさん、いっぷくさんへ
お気遣いありがとうございます。
by fujiki (2012-10-20 08:10) 

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