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吸入ステロイドの身長抑制効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
吸入ステロイドと身長論文.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
小児喘息の治療における吸入ステロイドが、
その後のお子さんの成長に与える影響についての文献です。

吸入ステロイドの治療は、
今日の喘息治療のスタンダードとして、
その有効性は確立し、
副作用や有害事象は皆無ではありませんが、
概ねその有効性に比べれば、
軽微なものと考えられています。

ただ、
小児科領域においては、
少し前まで成長障害への危惧から、
その使用が慎重に考えられていた経緯があります。

今回の研究の元になっている、
小児喘息管理プログラム(CAMP)というのは、
1993年に開始されたアメリカの臨床研究で、
割り付けの時点で年齢が5~12歳の、
軽症から中等症の気管支喘息のお子さん、
トータル1041例を、
当時まだそのお子さんへの効果が未知数であった、
ブデソニド(商品名パルミコート)と、
抗炎症剤の一種で、
当時のお子さんの喘息治療の基礎薬の1つである
ネドクロミル(日本未発売ですがインタールとほぼ同等)、
そして偽薬の3群に分け、
その治療効果を4~6年に渡って検証したものです。

パルミコートの使用量は、
1日400μgで、
日本での使用用量とほぼ同等です。

その主な結果は、
矢張りNew England…に2000年に掲載されていますが、
呼吸機能の改善という観点では、
偽薬と2種類の治療との間で、
有意な差はなかったものの、
増悪や入院の頻度の低下という面では、
両者の治療に有意な効果が認められ、
より吸入ステロイドのブデソニドが、
その効果が高かった、
という内容でした。

この時点で危惧された、
ステロイドの成長障害については、
治療開始1年後で、
偽薬と比較して、
平均の身長の伸びが、
1.1センチ程度低下し、
その傾向は開始後数年に留まった、
というものでした。

そこで今回の研究は、
当時の被験者のお子さんが、
大人になった時点で、
その身長の伸びを追跡調査し、
お子さんの時点での吸入ステロイドの治療が、
大人になった時点の身長に、
影響を与えているのかどうかを、
検証しているのです。

非常に息の長い研究であることが、
お分かり頂けるかと思います。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

お子さんの時期、
特に思春期の発来前に、
吸入ステロイドを使用されたお子さんでは、
成人の身長が、
偽薬の群と比較して、
平均で有意に1.2センチ低くなっていました。

この年齢の区分は、
5~8歳と、9歳以上の使用開始で分けていて、
9歳以上では偽薬と有意差がついていません。
従って、
思春期前という意味合いは、
8歳以下という意味です。

性差では身長の伸びの抑制は、
男子より女子に著明ですが、
大人になった時の身長の比較では、
性差は消失しています。

2000年の時点の結果で、
1.1センチであった訳ですから、
その伸びの低下は、
矢張り投与開始後の数年に限って起こっており、
その後使用を継続しても、
より低下する、
という傾向は見られていません。

その体重当たりの使用量が多いほど、
また使用開始が思春期前であるほど、
身長の伸びの抑制は顕著に認められ、
これはこの現象が、
矢張り吸入ステロイドの影響であることを、
示しているように思われます。

ただ、これは上記の文献にあるデータではありませんが、
コントロール状態の悪い喘息のお子さんでは、
ステロイドの治療を行なわなくても、
その身長の伸びは悪い、
というデータがあり、
適切な量の吸入ステロイドで、
そのコントロール状態が改善すれば、
その身長への悪影響は、
少なくとも中等症以上の喘息のお子さんにおいては、
ほぼ相殺されるレベルと考えられます。

それでは今日のまとめです。

吸入ステロイドを思春期前のお子さんに、
継続的に使用すると、
その使用後2年間くらいの間に、
1センチ程度の身長の伸びの低下が起こる可能性があります。
使用がその後継続されても、
身長の抑制はそれ以上は起こりませんが、
大人になっても、
その影響自体は残ります。

ただし、
これは海外の研究結果で、
日本でもその影響が同等とは断定出来ません。

喘息のコントロールが悪ければ、
それは身長のみならず、
お子さんの健やかな成長に、
多くの面で悪影響を与えるので、
治療自体の必要性は、
身長の低下の影響に遥かに勝りますが、
小児喘息のお子さんの保護者の方は、
そうした影響のあることを、
理解した上で治療を行なう必要がありますし、
その治療の必要性について、
主治医の先生と良くご相談の上、
治療を受けて頂く必要があると思います。

今日は小児喘息治療の、
身長に対する影響についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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