SSブログ

大腸内視鏡検査とその大腸癌検診としての意義について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大腸ポリペク後の長期経過論文.jpg
今月のNew England Journal of Medicine誌に掲載された、
大腸内視鏡検査の長期的な意義についての文献です。

大腸癌は世界的には、
3番目に多い癌で、
アメリカでは生涯に人口の5%に発症する、
とされています。
日本でも食生活の欧米化等に伴い、
その発症率は増加しています。

大腸癌をその症状がまだないうちに、
発見する方法としては、
大腸の内視鏡検査とCTによる検査、
そして大腸のバリウム検査しかありません。
病気の存在を疑うためのスクリーニングの検査としては、
便を取って微量の出血の存在を調べる、
便潜血検査が施行されています。

このうち、
バリウムの検査は殆ど日本のみで、
施行されている方法で、
アメリカではCT検査がかなり普及しているようですが、
日本ではCTによる腸の検査は、
まだあまり行なわれていません。

便潜血検査は、
簡易検査としては世界中で広く行なわれていて、
所謂「癌検診」の中では、
その意義が世界レベルである程度認められている、
数少ない「癌検診」です。

それ以外の多くの「癌検診」は、
日本では滅多矢鱈と行なわれていますが、
その意義が世界的に評価されているものは、
実際には殆ど存在しません。
それなりのデータのある、
前立腺癌のPSA検診や、
乳癌のマンモグラフィー検診も、
最近ではその効果に疑義が呈されていることは、
何度か記事でも過去にご紹介しました。

さて、
大腸内視鏡検査において、
大腸にポリープが発見されると、
ポリープの切除が、
状況によって行なわれます。

これをポリペクトミーと言いますね。

大腸の内視鏡検査が、
大腸癌の癌検診として意味のあるものだ、
ということを言うためには、
そうした検査をした方が、
将来的に大腸癌による死亡を、
減らせるかどうか、
ということを検証する必要があります。

皆さんが大腸の内視鏡検査を行ない、
ポリープが見付かって切除されると、
医者は
「良かったですね。
放っておいたら、癌になって命に関わったと思いますよ」
などと言いますが、
その明確な根拠が、
現時点で存在する訳ではありません。

それを示唆するデータはありますが、
明確に証明するには、
内視鏡検査をした患者さんを、
10年~20年以上という長期間、
フォローしなければいけないからです。
その結果で統計的な有意差を出すには、
かなりの人数が必要になります。

そこで今回の研究ですが、
National Polyp Studyという大規模臨床試験の一環として、
トータル3778名の、
大腸内視鏡検査でポリープを取った患者さんを、
最長23年間経過観察し、
その中で大腸癌で亡くなった方が、
どの程度いたのかを検証しています。

その結果はどうだったのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
大腸ポリペク後長期経過の図.jpg
横軸がポリペクトミー後の時間経過を示し、
縦軸は大腸癌の死亡率を示しています。
ポリペクトミー時の年齢の平均が60歳くらいですから、
実際には20年余の経過で、
ほぼ半数の方が亡くなっているのですが、
そのうち大腸癌による死亡のみを、
検証しているのです。

上に走っている黒いラインは、
一般の人口における、
計算上の大腸癌死亡率を示しています。

20年が経過した段階において、
人数や年齢なので補正した大腸癌の死亡者は、
推定で25.4人と考えられます。
その下の青いラインは、
実際のポリペクトミーをした患者さんのうち、
ポリープが腺腫であった患者さんの、
その後の経過を示したものです。
実際の死亡者数は12名で、
これはポリペクトミーとその後の経過観察により、
それだけ大腸癌の死亡者が、
抑制された可能性を示唆しています。
つまり、大腸内視鏡検査で腺腫性ポリープを切除すると、
そのことによりほぼ5割の大腸癌死亡リスクの低下が、
将来において期待出来る可能性がある、
ということになります。

その下の赤いラインは、
腺腫ではなかったポリープの患者さんの、
同様の経過を示したものです。
大腸癌で亡くなった方は、
最初の対象人数773名のうち、
1名しか認められていません。

つまり、腺腫が大腸にあることが、
将来的な大腸癌の死亡リスクとなり、
そのリスクはその腺腫を切除することにより、
将来に渡り低下するのです。

切除したポリープが腺腫であるかそうでないかは、
その後10年に関しては予後に影響しませんが、
10年を過ぎると明確な差となって現われます。

この研究においては、
ポリペクトミー後6年目までは、
定期的な大腸内視鏡が、
数年毎に施行されています。

従ってその影響があるので、
単純に年齢と共にリスクが上昇する、
とは言えませんが、
腺腫性ポリープの切除後は、
極力長期間の経過観察が望ましい、
と言う言い方が出来ます。

1つの疑問は、
1回の内視鏡検査でポリープを切除したことの効果が、
実際にその後の大腸癌死亡リスクの減少に、
どの程度影響しているのか、
という点にあります。

この研究においては、
その後の経過観察を行なっているので、
純粋にそれだけの効果を、
検証することが出来ないのです。

この論文の載った雑誌に同時に、
もう1つそれに関しての論文が掲載されています。

少し長くなりましたので、
その話は明日にしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(32)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 32

コメント 4

ドクター・ヘル

驚きました。「注腸造影検査」を、やっているのは、日本くらいのものだとは……。

人間ドックの直腸指診で「ポリープがあるから、注腸造影検査を受けるように」といわれて、受けた事があります。バリウムと空気を入れられる時の不快感といったら……、表現の仕方に苦労します。更に……、その時の前処置が「ブラウン変法」でしたので、検査が終わるまで、正直、とても辛かったです。

だから、日本も、検査は、内視鏡かCTにして欲しいと思います。

※あくまでも、私個人の感想です。
by ドクター・ヘル (2012-02-27 08:25) 

fujiki

ドクター・ヘルさんへ
コメントありがとうございます。
「殆ど日本のみ」というのは、
ちょっと言い過ぎかも知れません。
ただ、上記の文献など読んでも、
バリウム検査については、
全く触れられていないことは事実です。
by fujiki (2012-02-28 08:11) 

星

こんにちは、腺腫だった場合切除しても10年を過ぎるとまた出てきてそれが癌になるかもしれないということでしょうか?
大腸検査をした際に小さいポリープがあり組織検査中です。
今取るか1年後の検査で取るか検査次第との事で心配しております。
ポリープは腺腫であることの方が多いのでしょうか?
どうせなら今回の検査で全て切除してほしかったのですが残しておく理由などあるのでしょうか?聞けずに終わってしまい悔やんでいます。
by 星 (2015-04-25 13:26) 

fujiki

星さんへ
腺腫を取らないで放置しておくと、
10年くらいの期間で患者さんの予後に影響する、
という意味合いです。
安全の取り残しなく取れるタイミングというものはあるので、
1回の検査で全てを取ることは、
難しいケースもあると思います。
by fujiki (2015-04-26 10:01) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0