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大腸癌検診の方法はどうするのが最善なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
大腸ファイバq-と便潜血の比較論文.jpg
今月のNew England Journal of Medicine誌に掲載された、
大腸癌の検診には、
どういう方法が最善なのかを検討した論文です。

昨日の記事でご紹介したように、
アメリカで行なわれた大規模な臨床試験によると、
大腸内視鏡検査で腺腫性のポリープを切除すると、
その後のフォローアップの体制が、
どうあるべきかという問題はありますが、
将来的な大腸癌による死亡リスクを、
半分程度減少させる可能性があります。

しかし、それでは大腸癌検診として、
全ての人が大腸内視鏡検査を受けるべきなのでしょうか?
それはコストの問題も含めて、
理に適った方針と言えるのでしょうか?

今回の研究は、
その疑問を検証したもので、
大腸癌検診の方法として、
1回のみの大腸内視鏡検査と、
2年に1回の便潜血検査とを、
10年間に渡り比較検証する、
というものです。

それぞれの方法で最初の対象者は、
26000名余ですから、
かなり大規模な臨床研究です。
年齢は50~69歳です。
行なわれたのはスペインの医療機関です。

実際には10年以上掛かる研究ですが、
今回発表されているのは、
初回の検査の結果のみです。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

この研究では登録された対象者に、
検査のため受診するように何度か連絡を入れるのですが、
実際に受診されて検査を受けたのは、
そのうちの全員ではありません。
受診された対象者は、
更に検査のメリットとデメリットとを説明され、
最終的に納得された方だけが、
最初の登録通りの検査を受けます。
たとえば、
便潜血検査の予定だったけれど、
本人が内視鏡検査の方を希望された場合には、
内視鏡検査を行ない、
その方は統計の手法によっては、
統計処理の対象から外されるのです。

結果として、
初回の内視鏡検査を受けたのは、
登録された対象者の24.6%に過ぎず、
便潜血検査については、
34.2%に留まりました。

この両者の差は有意で、
つまり便潜血検査の方が、
より検査のコンプライアンスは高い、
という言い方が出来るのです。

便潜血の陽性者は、
大腸内視鏡検査が勧められます。
結果として最初から大腸内視鏡検査を選択した方のうち、
30名に大腸癌が見付かり、
便潜血陽性で二次検査を行なった方のうちでは、
33名に大腸癌が見付かりました。

この比率はいずれも0.1%程度で、
有意差はありません。

ただ、まだ癌ではない腺腫性ポリープの発見率は、
より癌に近いもので2倍以上、
そうでないものでは10倍近く、
内視鏡検査による発見率が勝っていました。

これはほぼ想定された結果で、
要するにただのポリープの状態では、
しこりから出血するような可能性は低く、
そのため便潜血反応も陽性にはならないのですが、
ある程度進行した大腸癌においては、
その陽性率は上がり、
大腸内視鏡検査を最初から行なうのと、
遜色のない効果が、
期待出来る可能性があるのです。

この研究はこれから10年余継続されるので、
その最終結果が出るのはまだ先の話ですが、
1回のみの大腸内視鏡検査により、
その後の大腸癌の死亡リスクの軽減に、
どの程度の影響を及ぼすのかは、
医療経済的な面も考えると、
非常に重要な情報を、
僕達に与えてくれることになるのだと思います。

昨日ご紹介した知見と併せて、
現時点での大腸癌検診のあるべき姿を考えると、
次のようになります。

50代から60歳くらいの間において、
大腸内視鏡検査を1回行なうことは、
その後の大腸癌による死亡リスクを減らす意味で、
有意義な可能性が高いと考えられます。

その検査で腺腫の見付かった場合には、
その腺腫を切除するか、
定期的な内視鏡による経過観察を行なうことにより、
その後の大腸癌の死亡リスクを、
5割程度減らす可能性を示唆するデータがあります。
ただ、1回のみの検査でも同程度の効果があるのか、
定期的な検査の必要性が高いのか、
そうだとすれば、
どのくらいの間隔で、
どのくらいの期間、
フォローの検査を行なう必要があるのか、
というような点については、
まだ明確ではない事項です。

便潜血という検査は、
大腸癌の検出率においては、
最初から大腸内視鏡検査を行なうのと、
遜色のない効果が期待出来ます。
ただし、大腸の部位によっては検出率は低くなり、
また前癌性病変と考えられる、
腺腫性ポリープの状態の検出率は、
遥かに劣ります。
癌検診としての有効性は、
ほぼ確立していますが、
それが将来的な癌死亡リスクの低下に繋がるかどうかは、
まだ明確ではない事項です。

日本では大腸内視鏡検査が、
積極的に行なわれていますが、
癌検診としてどの程度の頻度で、
どのようなフォローアップが適切かについては、
明確な基準がなく、
今後より適切な検査の指針が、
策定される必要性があると思います。

今日は大腸癌検診についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

まみしゃん

検査慣れしている私も、大腸カメラの際の2ℓの下剤では具合が悪くなりました・・・結果、十年以上受けていません。
まずは、便潜血検査を今年は受けておこうと思います。
by まみしゃん (2012-02-28 09:14) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
あの大量の下剤は相当のネックですね。
もっと良い方法があれば良いのにな、
とは思います。
by fujiki (2012-02-29 08:24) 

オレンジ

数日前に人間ドックの検査結果を受け取りまして、うち検便で要検査となりました。出産以降痔になったものの放置しているので要検査になる可能性アリとは内心思っていました。

今まで内視鏡は未経験なのでこの際受けてみてもいいかなとは思ったのですが、2Lの下剤と聞くと、顔面蒼白、やっぱり止めようかなと意気消沈しています。

内視鏡よりも、肛門科受診を優先すべきかとも思ったり。

36歳、女性、痔からの出血の可能性あり。
この条件で大腸の内視鏡検査を受けたほうがいいでしょうか。
by オレンジ (2012-11-07 14:41) 

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