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IgG4関連疾患の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は日本で最初にその疾患概念が提唱され、
世界でも注目を集めている、
身体の複数の臓器に、
持続的な炎症と線維化とを起こす、
一連の病気の話です。

その病気を総称して、
IgG4関連疾患、と呼んでいます。

IgGというのは免疫グロブリンの一種です。

たとえば麻疹の免疫があるかどうかを調べるために、
血液の検査をすることがありますね。

その時に測定するのは、
通常麻疹のウイルスに反応する、
血液中の特異的なIgG抗体です。

インフルエンザのワクチンが有効かどうか、
というような話がありますが、
その時に測定するのも、
インフルエンザのウイルスに対する、
IgG抗体です。

Igというのは免疫グロブリンのことで、
その種類を、
IgAやIgE、そしてIgGのように記号で呼んでいます。

このうち最も分子量が小さく、
基本的な形態をしているのが、
IgGです。

この免疫グロブリンは、
リンパ球の一種である形質細胞という細胞が、
特定の刺激を受けることによって産生されます。

通常感染症の初期にはまずIgM抗体が産生され、
それが感染の収束と共に、
IgG抗体が遅れて産生されて、
再度その感染が起こっても、
対応出来るように、
常に血液中に存在するようになります。

IgG抗体は、
免疫グロブリンの中で、
唯一胎盤を通過して、
お母さんの身体から、
赤ちゃんに移行します。

よく言われる、
お母さんの免疫があるから、
生まれてすぐの赤ちゃんは、
病気に罹り難い、
と言うのは、
このIgG抗体のことを示しています。

これはつまり、
特定の病気の感染を防ぐには、
IgG抗体が一番重要で、
短期間ならそれだけで、
一定の予防効果のあることを、
示しているのです。

これだけ重要な役割を果たすIgGには、
微妙にその構造の違う、
4種類があることが分かっていて、
それをIgG1~IgG4のように呼んでいます。

このうちIgG4はIgG全体の5%以下しか存在せず、
しかもその構造が不安定で、
抗体としての働きが弱い、
と考えられています。
しかし、このIgG4にはかなりの個体差があって、
特に病気のない方でも、
1.0mg/dl~140mg/dlという、
100倍以上の濃度の差が、
存在することが分かっています。
しかも、特定の個人では、
いつ測ってもその数値はあまり変動しません。

つまり、IgG4の血液濃度は、
体質によって大きな差があり、
それは基本的に一生変わることはないのです。

これだけ聞くと、
IgG4というのは、
ただの失敗作で不出来なIgGなのではないか、
というように思えます。

ところが、
最近になって、
ある種の病気において、
このIgG4の異常な高値が発見され、
それがその病態に直接的に結び付いている可能性が、
示唆されたのです。

2001年に日本の研究者が、
自己免疫性膵炎という膵炎の一種の患者さんで、
血液中のIgG4が異常に上昇している、
という知見を報告し、
その後膵炎の組織で、
IgG4を産生する働きを持つリンパ球が、
異常に増加していることが確認されました。

つまり、何らかの要因により、
IgG4を産生するリンパ球が異常に増殖すると、
それが慢性の炎症を引き起こし、
強力に組織を破壊して、
その部分の線維化を進行させるのです。

こちらをご覧下さい。
IgG4関連疾患のメカニズムの図.jpg
これはNew England Journal of Medicine誌の解説にある、
IgG4関連疾患のメカニズムの図です。
こあれはまだ全てが立証された事実ではなく、
個々に仮説を残しています。

まず、一番上のAとBですが、
自己抗原や感染症の病原体による抗原の刺激によって、
ヘルパーT細胞というリンパ球と、
少し遅れて制御系T細胞というリンパ球が活性化し、
それによりインターロイキンやTGTF-βと呼ばれる、
一連のサイトカインという刺激物質が、
過剰に産生されます。
これが免疫グロブリンの産生細胞を、
過剰に刺激することにより、
IgG4やIgEという免疫グロブリンが増加し、
Cにあるように、
産生リンパ球が特定の組織に増殖して、
慢性の炎症を起こし、
組織を破壊して線維化を来すのです。

どうやら不要な組織を破壊することが、
増殖するIgG4の役割のようなのですが、
その根本の刺激が、
どのようにして起こるのかは未だ分かっていません。

この病気は、
まず膵炎で見付かり、
その後多くのこれまで原因不明の病気において、
実はIgG4産生細胞主体のリンパ球の増殖が、
主要な役割を果たしていることが明らかになりました。

これまでに分かっている中で、
両側の唾液腺が固く腫れて炎症を起こす、
ミクリッツ病や、
自己免疫性の肝炎、
橋本病の一部やリーデル甲状腺炎と呼ばれる、
甲状腺の硬く腫れる病気、
硬化性胆管炎や前立腺炎、
間質性肺炎や間質性腎炎、
下垂体炎や炎症性動脈瘤など、
極めて多くの病気の大部分もしくは一部が、
このIgG4関連疾患であることが、
現在までに確認されています。

以上の病気は決して別箇のものではなく、
たとえば前立腺炎と甲状腺炎が、
共に起こることも当然あるのです。

この病気の診断は、
原因不明の慢性の炎症性の病気があり、
血液中のIgG4を測定することから始まります。

この検査は少し高い検査ではありますが、
既に健康保険の適応にはなっており、
診療所でも測定は可能です。

この数値が135mg/dl 以上であれば、
その炎症とIgG4との関連性が示唆されます。

ただし、140程度までは、
場合によっては病気のない方でも出る可能性のある数値なので、
それだけでは診断とはなりません。

この病気は好酸球やIgEの増加を伴うことがしばしばあるので、
そうした数値と共に、
IgG4が上昇していれば、
更にその疑いは強いものになります。

確定診断は、
その炎症を起こしている組織を取って検査をした時に、
そこにIgG4陽性のリンパ球が、
全IgG産生細胞の40%以上存在することで、
これは通常は5%以下なので、
病的であると判断が出来るのです。

以上の診断基準は、
この病気を率先して報告して来た、
日本のものですが、
2006年のアメリカの診断基準案では、
IgG4の基準は140を超える場合、となっています。

つまり、まだ世界的に、
診断基準が一致している訳ではありません。

この病気の頻度はまだ不明ですが、
日本の慢性膵炎の患者さんのうち、
6%程度はこの病気の可能性のある、
自己免疫性膵炎と考えられています。

甲状腺の橋本病においては、
その3割弱がIgG4関連疾患の可能性がある、
という報告があり、
かつIgG4高値の橋本病は、
その炎症の進行が速く、
甲状腺機能低下に進行し易い、
と考えられています。
つまり、橋本病の予後を判断する1つの指標に、
IgG4が使用出来る可能性があります。

この病気は50代以降の男性に多い傾向がありますが、
女性に発症しない、という訳ではなく、
その原因も不明です。

治療はまずはステロイドで、
日本の治療指針においては、
体重当たり0.6mgのプレドニゾロンを、
2~4週間継続し、
その後3~6ヶ月を掛けて5mgに減量し、
それを3年間継続する、という方針が提示されています。
再発は残念ながら稀ではなく、
免疫抑制剤も使用されますが、
その効果はまだ確立したものではありません。
特定のリンパ球を減少させる作用を持つ、
リツキシマブという薬剤が、
効果的な可能性があり、
臨床にも応用されていますが、
その安全性を含めて、
その効果もまだ未知数の部分を残しています。

原因不明の慢性膵炎や、
胆管炎、硬く大きな甲状腺を伴う橋本病などは、
実際にはIgG4関連疾患の可能性があります。

これは一度測定して低値であれば、
ほぼ否定されるものなので、
疑いのあるような症状のある方は、
是非一度測定されることをお勧めします。

今日はIgG4関連疾患の総論でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 17

シロ

お久しぶりです。最近わりと元気に過ごしていたんですが、1、2週間程前から鼻がグズグズして、鼻をかむと血が混じったりしています。血が垂れるほどではないので様子をみていたのですが、黄色い液体が出て朝などは固まって嫌な臭いがします。でも、朝鼻を濡れたティッシュで優しく拭き取れば、昼間は鼻をかめばなんとかなります。 今インフルエンザが流行っているので、無駄に病院に行ってうつったら嫌なので、行こうか、やめようか迷ってます。 上記のような症状は病院に行かなくても治るものでしょうか? 蓄膿症の場合はもっと酷い症状でしょうか? 早めにお返事いただけたら嬉しいです。
by シロ (2012-02-17 14:16) 

fujiki

シロさんへ
まず鼻炎の薬を薬局で買って様子を見て、
(漢方の葛根湯加川きゅう辛夷(2番)がお勧めですが、
そうでなくても良いです)
3日くらいしても改善傾向がなければ、
受診をされたらどうでしょうか。

by fujiki (2012-02-17 20:17) 

ide

これ、薬害っぽいんですよね、なのであんまり研究進まないかも。
第一世代抗ヒスタミン剤って仕組みがよくわからないまま使われているらしいですけど、それが関わっているような気がします。
件の抗生剤、殺菌剤の乱用で、感染症(特に毒素性細菌)をアレルギーと診断され抗ヒスタミン投与され続けて再感染して発熱すると免疫変化が起こるような、細菌コロニーをどう判断するかだという気がします。
by ide (2012-02-17 21:08) 

MDISATOH

Dr.Ishihara IgG4が自己免疫疾患の原因とすれば、
ある種の肝炎も自己免疫疾患とされているので、関連が有るのでしょうか?
又、私は扁桃腺肥大と副鼻腔炎の手術を受けて居るのですが、やはりIgG4の関与があるのでしょうか?
又、叔母が間質性肺炎で亡くなって居るので、関連性が気に成ります。
by MDISATOH (2012-02-18 07:57) 

fujiki

ide さんへ
コメントありがとうございます。
僕もアレルギー肉芽腫性血管炎は、
薬剤との関連性が大きいのでは、
という印象を持っていますが、
IgG4関連疾患については、
自己免疫性膵炎や甲状腺炎が、
薬剤由来とは考え難く、
あまり関連性はないのではないか、
と思います。
by fujiki (2012-02-18 08:31) 

fujiki

MDISATOH さんへ
一部の自己免疫性肝炎では、
IgG4の高値が確認され、
その関連性が指摘されています。
ただ、これはIgG4産生細胞の浸潤が、
果たして原因なのか結果なのか、
という点については、
まだ結論が出ていないと思います。
IgG4とIgEにはある種の対応関係があり、
その意味でアレルギー疾患とIgG4も、
無関係ではありません。
ただ、通常の副鼻腔炎などでは、
その関与は低い、という判断だと思います。
by fujiki (2012-02-18 08:35) 

ちょこ

はじめまして。病院で事務をしています。
とても勉強になりました。実はつい最近必要があってICD-10で探しましたがIgG4関連疾患という分類がなく、病理が出てからでないとコーディング出来ませんでした。リツキシマブはケモ薬剤と思っていました。色々勉強になりました。またちょくちょく読ませてください。
by ちょこ (2012-02-18 18:13) 

fujiki

ちょこさんへ
コメントありがとうございます。
リツキシマブは適応はリンパ腫だけですが、
そのメカニズムから、
自己免疫疾患などにも、
その試験的な使用は拡大していると思います。
ただ、IgG4関連疾患に対する、
一般的な治療となっているという訳ではないと思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2012-02-18 22:04) 

jun

はじめまして!
主人の事なのですが、急性膵炎から重症膵炎になり、なんとか持ちこたえて、今、慢性膵炎で治療中です。ところが、炎症を繰り返し背中とお腹の痛みが軽減せず、麻薬で痛みを抑えています。CTを受ける度に、後腹膜に水が溜まっていると言われたり、胸水が溜まったり、先日は脾臓が梗塞を起こしていると言われました。主人は煙草は吸うものの、お酒は全く飲まないので、内科の主治医は何が原因かわからないと言います。知り合いのリウマチ専門医の先生が、IgG4関連疾患ではないか?と言ってくださり、検査し結果は、正常と異常のギリギリのところでしたが、プレドニン30㎎で治療を開始しました。ところが、5㎎までになった時点で、HbA1cが11あった事がわかり、インスリンが始まり、プレドニン2.5㎎で経過をみていますが、いっこうに痛みが取れず、このままでは、中毒になってしまいます。IgG4関連疾患をきちんと診てくださる先生が居られないのが現状です。ハッキリ診断治療してくださる医療機関は、ありませんか?
by jun (2012-04-29 19:53) 

fujiki

jun さんへ
旦那様ご心配なことと思います。
コメント欄で特定の医療機関の名前を、
出すことは出来ないのですが、
自己免疫性膵炎を含む、
重症膵炎の治療に、
実績のある医療機関で診て頂くのが、
望ましいのではないかと思います。
必要に応じて、
超音波内視鏡下の穿刺細胞診までは、
実施可能な施設が望ましいと思います。
自己免疫性膵炎に関しては、
診断のガイドラインもあり、
それに沿った診断が行なわれると思いますから、
専門的な検査治療の可能な医療機関であれば、
問題はないのではないかと思います。
現行の治療方針にご不安があるようであれば、
矢張りセカンドオピニオンは、
求めて頂いた方が良いと思います。
by fujiki (2012-04-30 20:51) 

musti

こんにちは。
血液検査で免疫グロブリンIgGの基準値を少し超えていたので、
調べていたところ、こちらにたどり着きました。
(他、基準を超えているのは、クレアチニン、中性脂肪、ZTTです)

30代女性です。
疲れやすく、ふらつきと背中とみぞおちの痛み、がでることがあり、しょっちゅう下痢になります。
胃炎もあり、胃からの関連痛の可能性もあるのですが、
食後高血糖(機能性低血糖症とも診断されております)があるので、
膵臓は心配です。

エコーはしましたが、異常は見られなく、
背中の痛みに関しては、食物アレルギーが影響しているのではないか、ということでした。(CTは受けてません)

IgG4関連疾患は、膵炎でない場合、可能性はないのでしょうか?
可能性があるのならば、検査を受けに行こうかと思っております。
よろしくお願いします。

by musti (2012-08-30 13:44) 

fujiki

musti さんへ
一度チェックしておくことは悪くないと思います。
ただ、明確に膵炎や胆管炎などがない場合には、
症状はあっても通常はステロイドの使用は、
行なわないと思います。
by fujiki (2012-08-31 08:16) 

m.hiro

IgG4関連性疾患患者です。
昨年8月に歯医者に行った後、舌下腺が左右同時に異様に固く膨らみ地元の病院でIgG4を調べたところ150と高かったため、入院して生体検査等をした結果該当がはっきりしました。
今のところ、舌下腺のみの症状で、膵炎等の他の症状は出ていません。現在に至るまで症状の進行が見られないため、ステロイドの処方も今のところしないことになっています。
地元病院では検査できる範囲が狭いため、膠原病等の治療をしている総合診療内科のある病院で先月、1週間入院してX線CT,PET、大腸検査、尿の全量を調べる検査等これでもかという検査を行いました。
というわけで、膵炎の症状のない患者もいます。

気になったのはIgG4でミクリッツ病様の患者報告に「歯医者に行った後」というのがあったのですが、まさに私も歯医者にかかった後で症状が出ました。因果関係がわかるといいなと思いました。

by m.hiro (2013-02-20 22:09) 

fujiki

m.hiro さんへ
貴重なコメントありがとうございます。
歯科治療の刺激のため、
のように思いますが、
すいません、詳細は分かりません。
by fujiki (2013-02-21 08:29) 

三久リッツ

はじめまして。
アレルギーとミクリッツについて色々調べてたところここにたどりつきました。
私は30代女性で、ミクリッツ病患者です。
ずっとステロイド内服をしているのですが、二回再燃しています。
一生ステロイドを内服する不安がとても大きいです。
閉経後の骨粗鬆症や白内障、緑内障など、はたまた脳萎縮なども。。。
すでに、ステロイド糖尿はあります(インスリン使用してます)。
ステロイドを飲み続けないとすぐに再燃するるとも分かってるのですが。。。
主治医は免疫抑制剤との併用も視野に入れているようです。とりあえずリウマトレクスです。でも、新たに薬を増やすのが怖いのが本音です。
私はミクリッツになってから、元々もっていた鼻や眼のアレルギーの症状がとてもひどくなったのですが、このアレルギーを押さえることでミクリッツの改善は見込めないのでしょうか?たとえば、高アレルギー剤を内服し続けるとか。
by 三久リッツ (2013-02-28 22:51) 

fujiki

三久リッツさんへ
コメントありがとうございます。
抗アレルギー剤にステロイドの代用は、
難しいのではないかと思いますが、
一定の相乗効果は得られる可能性はあると思います。
後は矢張り分子標的薬になるかと思いますが、
注射薬で高額ですし、
保険適応はない上に、
一時的な抑制効果に留まる点は、
ステロイドと基本的には同じで、
現状は限界があるように思います。
by fujiki (2013-03-01 08:12) 

k

  igg4と診断されました。体調も良好で尿検査も異常なしですがCTでは腎臓にもと。。。まだステロイドの使用の診断までにいたっていませんが怖いです。私も歯の治療を受けてから顎に違和感が残ってストレスをかんじいました 。また、歯槽膿漏を治そうと市販の塗り薬を使ってから顎下にしこりをみつけました。 私も因果関係があるとおもいます。
by k (2014-03-15 16:02) 

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