新規頻尿治療薬「ベタニス」の話 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
最近発売となった過活動性膀胱治療薬、
ベタニス(一般名ミラベグロン)の話題です。
過活動性膀胱というのは、
年齢と共に増加する排尿の異常で、
排尿を促す筋肉が敏感で、
緊張し易い状態になっているために、
おしっこを溜め難いと共に、
おしっこを我慢することもし難くなり、
頻尿や尿失禁の原因となる病気です。
そのメカニズムは明確には分かっていませんし、
必ずしも単一の病気とも限りませんが、
こうした症状は以前からあり、
年齢による症状で仕方のないものとして、
あまり医療者が関心を示さなかったので、
それではいけないとこうした病名を作り、
患者さんの訴えに目を向けて、
少しでもその症状の軽減のために研究を進めよう、
というのが基本的な考えです。
つまり、これは症状に対して、
ある意味作られた病名で、
実体の必ずしも明確なものではないのです。
過活動性膀胱という症状に対して、
特に女性の場合最初に選択される薬は、
通常抗コリン剤というタイプの薬です。
その中でもムスカリン受容体拮抗薬という、
それまでの薬剤に比較して、
口渇などの副作用が少ない薬剤が、
数年前からはその治療の主体となっています。
商品名では、
ベシケア、デトルシトール、ウリトス、
などがそうした薬の代表です。
これは副交感神経の膀胱への作用の一部を、
遮断するような効果の薬です。
こうした薬剤がどうして効果があるのでしょうか?
排尿の仕組みは、
おしっこを膀胱に溜める蓄尿と、
溜まったおしっこをスムースに押し出す、
狭義の排尿からなっていますが、
膀胱の収縮に、
副交感神経のムスカリン受容体が影響しているので、
それをブロックすることにより、
膀胱におしこをため易くする、
というのがその主なメカニズムです。
ただ、膀胱の壁を弛ませるのは、
副交感神経ではなく交感神経なので、
交感神経を刺激する薬にも、
その効果が期待されたのです。
そこで今回のベタニスですが、
これは世界最初のβ3受容体作用薬です。
交感神経は、
カテコールアミンが、
神経伝達物質になる神経系ですが、
その受容体の種類によって、
その作用も異なります。
交感神経の受容体にはαとβがあり、
βの受容体にも1から3までの種類があります。
このうちβ1は脈拍を早め、
β2は気管支を拡張するなどの働きがあります。
β3は1989年にその構造が決定されていますから、
受容体としての発見はかなり遅れてのものです。
当初ネズミの脂肪組織から発見され、
その刺激により脂肪の分解が起こることから、
抗肥満薬になるのではないか、
と非常に期待されました。
しかし、まだその可能性が消えた訳ではありませんが、
ネズミではうまくいっても、
人間ではあまりその脂肪を燃やす効果を、
心臓などへの副作用なく実現することは、
実際には非常に困難で、
その薬としての実用化には成功していません。
それでは膀胱には効くのではないか、
というのがコロンブスの卵的な発想で、
膀胱にもβ3の受容体が存在していたので、
試してみたところ、
その刺激により膀胱が緩むことが確認されたのです。
そこで今回のベタニスは、
膀胱の弛緩を促す薬として、
β3受容体刺激剤として初めて発売されたのです。
この薬の効果はどうなのでしょうか?
過活動性膀胱が単一の病気でない以上、
この薬の効果は患者さんの症状が、
どのような原因で起こっているのか、
ということにより異なります。
従って、全ての方に効果のある薬ではないと思いますが、
これまでの抗コリン剤で、
あまり効果がなかった患者さんでは、
この新薬が効果を示す可能性が、
充分期待出来ると思います。
現時点では抗コリン剤との併用は、
安全性が確立されていないので、
認められていません。
従って、一方の薬剤で効果のあまりない患者さんでは、
もう一方の薬を試してみる、
というのが現状の使用法になると思います。
この薬の安全性に問題はないのでしょうか?
心拍数の増加は、
副作用として比較的多くの報告があり、
β3の単独の刺激では、
本来は心拍数の増加は生じない筈ですが、
純粋な選択性というのは有り得ないのでしょう。
心臓の働きの低下している方や、
不整脈のある方では注意が必要です。
QT延長症候群というのは、
薬で生じ易い副作用で、
重篤な不整脈の発作を招き易いとされていますが、
アメリカの臨床試験で、
この傾向が若干認められた、
という報告があり、
不整脈の治療を受けているような方では、
原則は使用は控えるべきとされています。
こうした不整脈は、
血液のカリウムが低下すると、
特に生じ易いので、
その点にも注意が必要です。
日本での臨床試験で、
最も多い副作用は口渇と便秘ですが、
これは抗コリン剤の代表的な副作用で、
β3の刺激剤では理屈から言えば生じ難く、
多分薬に対する先入観から来る心理的な影響ではないか、
と考えられます。
重症薬疹の報告が1例あり、
これは今後の市販後調査の結果もみないと、
何とも言えません。
増えるようなら要注意です。
重症薬疹というのは、
特定の薬剤で生じ易い性質があるからです。
この薬は肝臓でCYP3A4により主に代謝され、
CYP2D6の阻害作用があるので、
たとえば3環系抗欝剤を使用していて、
おしっこの出が悪い時に、
安易にこの薬を使用すると、
抗欝剤の効果が増強することが想定されます。
抗鬱剤の多くはCYP2D6で代謝を受けるからです。
この薬の元々の薬効からは、
何となく内臓脂肪が減り体重が減少しそうですが、
今のところあまりそうした情報はないようです。
おそらく脂肪の燃焼を促すには、
より多くの用量が必要で、
そうすると副作用が増加してしまう、
というジレンマがあり、
今回適応となった用量では、
膀胱には効果はあっても、
脂肪の燃焼には効果は期待出来ない、
ということではないかと推測します。
今後の市販後調査の結果などを、
慎重に見極めつつ、
その適応を考えたいと思います。
今日は排尿障害の新薬の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
最近発売となった過活動性膀胱治療薬、
ベタニス(一般名ミラベグロン)の話題です。
過活動性膀胱というのは、
年齢と共に増加する排尿の異常で、
排尿を促す筋肉が敏感で、
緊張し易い状態になっているために、
おしっこを溜め難いと共に、
おしっこを我慢することもし難くなり、
頻尿や尿失禁の原因となる病気です。
そのメカニズムは明確には分かっていませんし、
必ずしも単一の病気とも限りませんが、
こうした症状は以前からあり、
年齢による症状で仕方のないものとして、
あまり医療者が関心を示さなかったので、
それではいけないとこうした病名を作り、
患者さんの訴えに目を向けて、
少しでもその症状の軽減のために研究を進めよう、
というのが基本的な考えです。
つまり、これは症状に対して、
ある意味作られた病名で、
実体の必ずしも明確なものではないのです。
過活動性膀胱という症状に対して、
特に女性の場合最初に選択される薬は、
通常抗コリン剤というタイプの薬です。
その中でもムスカリン受容体拮抗薬という、
それまでの薬剤に比較して、
口渇などの副作用が少ない薬剤が、
数年前からはその治療の主体となっています。
商品名では、
ベシケア、デトルシトール、ウリトス、
などがそうした薬の代表です。
これは副交感神経の膀胱への作用の一部を、
遮断するような効果の薬です。
こうした薬剤がどうして効果があるのでしょうか?
排尿の仕組みは、
おしっこを膀胱に溜める蓄尿と、
溜まったおしっこをスムースに押し出す、
狭義の排尿からなっていますが、
膀胱の収縮に、
副交感神経のムスカリン受容体が影響しているので、
それをブロックすることにより、
膀胱におしこをため易くする、
というのがその主なメカニズムです。
ただ、膀胱の壁を弛ませるのは、
副交感神経ではなく交感神経なので、
交感神経を刺激する薬にも、
その効果が期待されたのです。
そこで今回のベタニスですが、
これは世界最初のβ3受容体作用薬です。
交感神経は、
カテコールアミンが、
神経伝達物質になる神経系ですが、
その受容体の種類によって、
その作用も異なります。
交感神経の受容体にはαとβがあり、
βの受容体にも1から3までの種類があります。
このうちβ1は脈拍を早め、
β2は気管支を拡張するなどの働きがあります。
β3は1989年にその構造が決定されていますから、
受容体としての発見はかなり遅れてのものです。
当初ネズミの脂肪組織から発見され、
その刺激により脂肪の分解が起こることから、
抗肥満薬になるのではないか、
と非常に期待されました。
しかし、まだその可能性が消えた訳ではありませんが、
ネズミではうまくいっても、
人間ではあまりその脂肪を燃やす効果を、
心臓などへの副作用なく実現することは、
実際には非常に困難で、
その薬としての実用化には成功していません。
それでは膀胱には効くのではないか、
というのがコロンブスの卵的な発想で、
膀胱にもβ3の受容体が存在していたので、
試してみたところ、
その刺激により膀胱が緩むことが確認されたのです。
そこで今回のベタニスは、
膀胱の弛緩を促す薬として、
β3受容体刺激剤として初めて発売されたのです。
この薬の効果はどうなのでしょうか?
過活動性膀胱が単一の病気でない以上、
この薬の効果は患者さんの症状が、
どのような原因で起こっているのか、
ということにより異なります。
従って、全ての方に効果のある薬ではないと思いますが、
これまでの抗コリン剤で、
あまり効果がなかった患者さんでは、
この新薬が効果を示す可能性が、
充分期待出来ると思います。
現時点では抗コリン剤との併用は、
安全性が確立されていないので、
認められていません。
従って、一方の薬剤で効果のあまりない患者さんでは、
もう一方の薬を試してみる、
というのが現状の使用法になると思います。
この薬の安全性に問題はないのでしょうか?
心拍数の増加は、
副作用として比較的多くの報告があり、
β3の単独の刺激では、
本来は心拍数の増加は生じない筈ですが、
純粋な選択性というのは有り得ないのでしょう。
心臓の働きの低下している方や、
不整脈のある方では注意が必要です。
QT延長症候群というのは、
薬で生じ易い副作用で、
重篤な不整脈の発作を招き易いとされていますが、
アメリカの臨床試験で、
この傾向が若干認められた、
という報告があり、
不整脈の治療を受けているような方では、
原則は使用は控えるべきとされています。
こうした不整脈は、
血液のカリウムが低下すると、
特に生じ易いので、
その点にも注意が必要です。
日本での臨床試験で、
最も多い副作用は口渇と便秘ですが、
これは抗コリン剤の代表的な副作用で、
β3の刺激剤では理屈から言えば生じ難く、
多分薬に対する先入観から来る心理的な影響ではないか、
と考えられます。
重症薬疹の報告が1例あり、
これは今後の市販後調査の結果もみないと、
何とも言えません。
増えるようなら要注意です。
重症薬疹というのは、
特定の薬剤で生じ易い性質があるからです。
この薬は肝臓でCYP3A4により主に代謝され、
CYP2D6の阻害作用があるので、
たとえば3環系抗欝剤を使用していて、
おしっこの出が悪い時に、
安易にこの薬を使用すると、
抗欝剤の効果が増強することが想定されます。
抗鬱剤の多くはCYP2D6で代謝を受けるからです。
この薬の元々の薬効からは、
何となく内臓脂肪が減り体重が減少しそうですが、
今のところあまりそうした情報はないようです。
おそらく脂肪の燃焼を促すには、
より多くの用量が必要で、
そうすると副作用が増加してしまう、
というジレンマがあり、
今回適応となった用量では、
膀胱には効果はあっても、
脂肪の燃焼には効果は期待出来ない、
ということではないかと推測します。
今後の市販後調査の結果などを、
慎重に見極めつつ、
その適応を考えたいと思います。
今日は排尿障害の新薬の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2011-11-28 08:11
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先日私が休んでいる時にこのベタニスそ勉強会をやったらしく資料だけ貰って来たのですが、最初β3なんてあったっけ?って思っていました。
矢張り最近なんですね、解ってきたのって。
勉強会に参加した人によるとβ4まであるといっていましたが、そうなんでしょうか?
より自律神経の解析が進んでいるという事なんですね。
それによって色々な病気の原因が掴めるきっかけになればと願うばかりです。
by iyashi (2011-11-29 02:08)
度々すいません。。。
薬物代謝酵素のCYPには色々なサブタイプがあることがわかって来て、薬の相互作用がより複雑になって来ているのでもっと勉強しなければと思っています。
グレープフルーツはCa拮抗剤との相互作用が有名ですが、本来CYP3A4,1A2などを抑制してしまう為もっと薬物との相互作用を気にしなければと思うのですが、実際のところどの辺りの薬まで注意が必要なのでしょうか。
是非、勉強の為グレープフルーツと薬との関係について記事を書いて頂けたら嬉しく思います。
by iyashi (2011-11-29 02:17)
iyashi さんへ
コメントありがとうございます。
ひょっとしたらβ4発見のような文献があるのかも知れませんが、
一応僕の知識の範囲では、
同定されているのは、
β3までではないかと思います。
グレープフルーツの件ちょっとお待ちください。
by fujiki (2011-11-29 08:06)
先生、先日はいいアドバイスをありがとうございました。実は14日に泌尿器の異常を感じて(貯尿時に圧迫感・膀胱不快感、排尿を我慢した後などの膀胱のツ-ンとした痛み)などがあり、採尿で白血球+1、細菌-で、膀胱炎と診断され4日間抗菌剤内服しましたが、軽快せず、信頼のおける先生を本日訪ね再度症状を話すと排尿痛もなく残尿感もなく細菌反応もでていないのに膀胱炎ではないといわれ、間質性膀胱炎の疑いがあります。と言われました。正直、下調べしていたので大きなショックを受けました。そこのクリニックでは入院設備がないとの事で、市内の病院を紹介してもらいました。正直地方の為、色々な面での不安があります。やはり完治は期待できないのでしょうか?べタニスの発売があった様ですが、これは間質性膀胱炎には効果はないでしょうか?この疾患について何か些細な事でもいいのでアドバイスを頂けませんでしょうか?よろしくお願いします。
by ココロ (2012-06-19 20:22)
ココロさんへ
間質性膀胱炎の診断は難しいと思いますし、
まだその可能性が否定出来ない、
という程度ではないかと思います。
膀胱炎の後にしばらく同様の症状が、
続いた後で改善することも、
しばしばあると経験的には思います。
間質性膀胱炎の診断が確定であれば、
ベタニスが著効する、
ということはないと思いますが、
蓄尿の困難な症状に関しては、
効果のある可能性もあると思います。
by fujiki (2012-06-20 22:18)
70歳女性です。過活動膀胱で受診したら、抗コリン薬は副作用が多いが、これなら心配無いとのでベタニス50mgを処方されました。作用が強過ぎるようで、服用初日一日の排尿回数が3回しかなく、その上最高血圧が176(20年ほど前から降圧剤を服用しています)にも上がってしまったため、25mgに替えて貰ったところ、効果が感じられないので結局2錠飲んで効果を得ています。血圧上昇の心配があるので、毎日飲まずに2,3日に一回飲むようにしたら大丈夫な感じです。説明書に「朝飲み忘れたらその後飲まないように」と書かれていますが、これはどういう意味なのでしょうか。起床後2時間ほどしてから飲んだらほとんど効果が無かった事が何回かありましたが、このことでしょうか。それとも、何か悪い副作用を引き起こす事が有るからなのでしょうか。
by 健康オタク (2017-02-10 12:05)
健康オタクさんへ
これは薬の持続する時間が長いので、
朝飲み忘れて後で飲むと、
翌日の朝飲むことで、
薬が効き過ぎる時間帯が生じる可能性があるからだと思います。
それ以上の意味はないように思います。
by fujiki (2017-02-13 08:19)
お返事有難うございました。
恐縮ですがもうひとつ質問させて下さい。
持続時間が短い(夕方になると頻尿気味になる)時と、2日に一度で大丈夫な時があるのですが、体調とか食事に関係あるのでしょうか。
25mgを2錠飲むのなら50mgに戻しす方が良いのでしょうか。
by 健康オタク (2017-02-13 11:51)