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歯痛とノノミさんとナガノ君的なものの話 [フィクション]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。

朝からいつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

実は先々週の水曜日からずっと歯が痛くて、
それでもどうにかなるかな、
と思ってそのままにしていたのですが、
先週の水曜日からは、
食事などの刺激が加わると、
その後激痛が左の顎の下の方を、
突き抜けるように襲って、
ガンガンと頭全体が割れるように痛くなります。
冷たい水で口をゆすいだりすると、
それはもう大変なことで、
その後数時間は七転八倒の苦しみです。

正直木曜日の午後は、
とても痛くて、
診療をするどころではなかったのですが、
どうにか必死に切り抜けました。

ただ、そのことは記事には書きませんでした。
受診をされた患者さんに、
気もそぞろで診療をしていると思われたら、
失礼に当たると思ったからです。

金曜日の夜に歯医者さんにようやく行って、
歯髄炎の診断でそこに穴を開けて神経を取ったら、
土曜日からはまだ痛みはありますが、
大分楽になりました。

歯は怖いですね。

今日はちょっと昔の話です。
フィクションとしてお読み下さい。

ナガノ君は小学校の同級生で、
お父さんは弁護士です。
近所に弁護士事務所のビルを持っていました。
小学校の頃から頭が良くて、
頭が良い人と言うと、
僕はすぐにナガノ君のことを思い浮かべます。
ナガノ君と一緒に算数の問題を解いたりすると、
自分が馬鹿で頭の廻りが悪い、
という事実を、
思い知らされる感じがしました。

ナガノ君は点滴を受けながら猛勉強をして、
当時の教育大付属駒場に中学で入りました。
当時中学受験の御三家は開成と麻布と武蔵で、
駒場は「教駒」と呼ばれて別格の扱いです。

僕は中学で水戸に行ったので、
それからしばらくは会いませんでした。

ナガノ君に再会したのは、
一浪をして御茶ノ水の駿台予備校に、
通っていた時のことです。

夏期講習くらいの時期だったと思うのですが、
御茶ノ水の駅を出て、
校舎へと歩いて行く時に、
後ろから声を掛けられたのです。

「石原だろ」
振り返ると、何か目の細い痩せた少年が立っています。
それが誰なのか、
正直全然分かりませんでした。

「小学校の時一緒だったナガノだよ」
ポカンとした顔をしている僕に、
その少年は言います。
「ああ」
僕はそれで気が付きました。
「よく分かったね」
と僕が言うと、
「お前は特徴があるからな」
とナガノ君は言います。
何となく昔より偉そうな感じがしましたが、
実際は小学校の頃からそうだったのかも知れません。

それから校舎までの道のりで、
少し話をしました。
ナガノ君なら希望の大学に、
ストレートで入って当然と思ったので、
浪人しているというのはちょっと意外でしたが、
それを聞くと、
「高校の頃は遊んじまったんでね」
と言いました。

僕が理系のコースなのが、
ナガノ君には不思議に思えたようでした。
ナガノ君は文系で、
東大の文一が志望でした。
「お父さんの跡を継ぐんだね」
と言うと、
「まあそうなるかもな」
と気のない返事でした。

駿台の校舎廊下には、
直前の模試の順位の上位者が、
ズラッと貼り出されています。
そこの文系のコースを見ると、
ナガノ君の名前はそのトップに近いところにありました。

それを見て、
矢張りナガノ君はさすがだなと、
素直に僕は思ったのです。

その数日後に再び僕はナガノ君に会いました。
夏期講習で同じ授業を取っていたのです。
今度は僕の方から話しかけたのですが、
ナガノ君は数日前とは打って変わって冷淡な様子で、
「どーも」
と声にならないくらいの音量でそう言って、
そのままスッと何処かに行ってしまいました。

それから今に至るまで、
僕はナガノ君と会ったことはありません。

その時はよく分からなかったのですが、
ナガノ君は最初に僕と会った日に、
理系のコースの成績優秀者をチェックして、
そこに僕の名前がないことを知り、
「自分にはそぐわない低レベルの人間」
と僕を判断したためではないかと、
今ではそう理解しています。

エリートと言われる人達は、
概ね自分にとってメリットのない人間とは、
接触とを持たがらないものだからです。

相手から自分が何かを得ることが出来るかどうかで、
相手の価値を判断し、
それを人間関係の基準にしているような人は結構いて、
僕はそうした品定めの空気を感じると、
そこから逃げたくなるタイプです。

そうした嫌な思いを何度も経験しているので、
それは僕がそうしたことに、
敏感であり過ぎるせいかも知れませんが、
相手にとって僕と話すことがメリットがあるだろうか、
僕と付き合うことにメリットがあるだろうか、
ということを常に考えて、
そのことが不安になってしまうのです。

その意味で、
嘘を吐いて金持ちやエリートに取り入り、
そこからお金を巻き上げる詐欺師は、
僕にはある種の憧れです。

それからこんなこともありました。

以前高校の時に不良の友達から、
賭け麻雀に誘われた話をしましたが、
その後不思議とその不良が僕に親しくしてくれて、
ある時合コンに無理矢理に誘われました。

はっきりデートをする、
と言う感じではなく、
大久保の今のコリアンタウンの近くにある公園で、
互いに友達を数人連れて来て、
何となく品定めのようなことをするのです。
夕暮れの公園で30分くらいウロウロして、
その日はそれでお終いです。

それから数日してその不良が、
僕に声を掛けて来て、
その時に公園にいたノノミという女の子が、
僕に興味を示している、
と言うのです。
「お前をクラスの順位1位の秀才と言っといたからな。
それで興味があるんだろ」
と不良は言いました。

それでそのノノミさんとデートをすることになり、
不良が仲介となって日が決まり、
東京駅でノノミさんと待ち合わせをしました。
高校2年の時のことで、
デートなどをするのは初めてでした。

ノノミさんは時間より10分遅れて現われました。
小柄で目も鼻も口も小さいのに、
結構派手な化粧をしていたので、
何かそぐわない感じがしました。
まあ中高生の遊んでいる女の子というのは、
そうした何かアンバランスな存在なのかも知れません。
短いスカートに真っ赤なシャツを、
ちょっとだらしなく着ていました。
「赤いなあー」とその印象だけは今でも覚えています。

何処に行くという当てもなく、
「何処でもいいわ。勉強の出来る人のことなんて分からないから」
みたいなことをノノミさんが言うので、
僕がその時いた鎌倉に行くことにしました。
それはもう、帰りが楽だから、
というそのくらいの適当な考えです。

横須賀線に乗って北鎌倉で降り、
そこから鎌倉に向かって歩きました。

当時からお寺や仏像が好きだったので、
解説をしながら歩きました。
ただ、ノノミさんは鈍感な僕にも分かるくらい、
退屈そうな様子だったので、
次第に僕は不安になりました。

デートとはこんなものではなく、
これではまずいのだ、
ということは分かりましたが、
それではどうそれを修正すれば良いのかと言うと、
名案が浮かびませんでした。

そのうちノノミさんは、
足が痛いと言い出しましたが、
バスは滅多に来ない道だし、
タクシーに乗るようなお金はありません。
幸い建長寺からはくだりになるので、
ノノミさんもそれほど文句は言わなくなりました。

今もあるのか分かりませんが、
「中村庵」という蕎麦屋でとろろ蕎麦を食べました。

ノノミさんはテレビの話とかをしてくれましたが、
僕はその頃は殆どテレビを見ていなかったので、
とても話は噛み合いません。

「Sさんとは何でつるんでるの?」
とノノミさんが聞きました。
Sというのは例の不良です。
それで僕は賭け麻雀の話をしました。
「幾らすられたの?」
と言われたので、
「5000円ちょっとくらいです」
と正直に言いました。
「ふーん」
とノノミさんは何かを測るかのように俯きました。

それからノノミさんが海に行こうと言い出して、
鎌倉から江ノ電に乗り、
稲村ガ崎の浜辺に出ました。
もう寒くなりかけた季節で、
人気はあまりありませんでした。

海を向いて何かぎこちなく腰を下ろし、
それからノノミさんが少し身を寄せて来たのですが、
僕はそれを避けるように少し身を引きました。
夕暮れが近付いて寒くなって来ると、
ノノミさんは右手で軽くお腹に手を当てて、
「もう帰りましょ」
と自分から言いました。

それから江ノ電に乗り込み、
藤沢方面に向かいました。
そこで別れるとノノミさんが言ったからです。

江ノ電の中で、
ノノミさんは不機嫌そうに押し黙っていたので、
「すいません。こういうの慣れないんで」
と僕が言うと、
「いいのよ。無理な話だったんだから」
とノノミさんは言います。
それからちょっと間を取って、
「Sさんにはあまり関わらない方がいいわよ。
あたしが言う筋合いじゃないけど」
と言いました。
「石原君がどういう人かは良く分かったから、
あたしの方で何とかするわ」
こう言うと再びお腹に軽く手をやりました。

それから藤沢の駅でノノミさんと別れました。
最後に僕に向かって手を振ったのですが、
その時に何か恥ずかしそうな笑顔を見せたのが、
今も妙に印象に残っています。

翌日Sには、
「馬鹿たれ」みたいなことをチラと言われましたが、
それ以上何かを言われることはありませんでしたし、
Sも僕と距離を取るようになりました。

あの時のことを考えると、
今でもちょっと不思議な気分になります。

女性の気持ちというのは、
多分いつもナガノ君とは正反対のところにあるものなので、
実は昨日もナガノ君的な人に会い、
非常に嫌な思いをしたのですが、
そんな時にふと昔の一場面を思い出すことがあるのです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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コメント 14

けろのすけ

はじめてコメントをさせていただきました!
好酸球をしらべていてこちらにたどり着き、ブログが読みやすく面白いのと、私が鍼灸師なので医学の情報が満載、
私の趣味が神社仏閣と、1年前から始めた声楽(メゾソプラノ)なので
とても親近感がわきました。

ノノミさん、いい人ですね。
きっと石原さんはほっとけない母性をくすぐられるような方なんでしょうね。
by けろのすけ (2011-11-27 13:01) 

rtfk

情景を想像させていただきました^^)
by rtfk (2011-11-27 14:38) 

ゆうのすけ

歯痛は つらいですよね。また疲れが出て来ると 痛くなってきたり。。。
今は 歯をある程度治して 歯磨きも頻繁にしているので 歯痛は ここ何年もありません。

これから寒くなって来て また時期的に忙しなくなりますもんね!
疲れやすくなりますし お大事になさってくださいね!^^☆
by ゆうのすけ (2011-11-27 20:25) 

yuuri37

歯って自分ではどうにもならなくて、厄介ですよね。お大事になさってください。
どうなるんだろうって、ドキドキしながら読ませていただきました。
by yuuri37 (2011-11-28 00:27) 

くろすけ

女の子はSの子供を妊娠していたということ??
インフルエンザの調べものをしていたらたどり着きました。
よかった~。
by くろすけ (2011-11-28 01:52) 

nakada147

内科医です。いつも最新の知見をわかりやすく噛み砕いて教えていただきありがとうございます。また、今日の話題は興味深く拝読させていただいています。
男になくて女にあるもの。それは「母性」でしょう。男にはもともと「無償の愛」はなく、「打算」で生きるべく遺伝子が組み込まれているように思います。ただ、人との付き合いの中で、愛し方を学んでいくのではないでしょうか?ナガノ君は今も「打算」だけの人なのでしょうか?「愛」を学んでいてほしいなあと思います。もしそうでなければ、本当にお気の毒です。
上から目線でごめんなさい、ナガノ君。
by nakada147 (2011-11-28 07:06) 

fujiki

けろのすけさんへ
コメントありがとうございます。
メゾの美声をいつか聞かせて下さい。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-11-28 21:23) 

fujiki

rtfkさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-11-28 21:25) 

fujiki

ゆうのすけさんへ
コメントありがとうございます。
どうも今日もまだあちこちが痛くて、
調子が出ません。
歯は嫌ですね
by fujiki (2011-11-28 21:26) 

fujiki

yuuri37 さんへ
ありがとうございます。
歯痛は本当に嫌ですね。
年末にこんな案配になるとは、
思いもよりませんでした。
by fujiki (2011-11-28 21:28) 

fujiki

くろすけさんへ
まあご想像にお任せします。
実際よく分からないのです。
コメントありがとうございました。
by fujiki (2011-11-28 21:29) 

fujiki

nakada147先生
コメントありがとうございます。
母性にはでも、
怖さもありますよね。
こんな駄文を恐縮ですが、
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-11-28 21:32) 

けろ

お忙しいところお返事ありがとうございます。
これからも、記事をたのしみにしてます。
どうぞよろしくお願いします。
by けろ (2011-11-29 10:58) 

けろのすけ

お忙しいところお返事ありがとうございます。
これからも、記事をたのしみにしてます。
どうぞよろしくお願いします。
by けろのすけ (2011-11-29 10:59) 

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