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乳幼児の喘息治療と吸入ステロイドの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
喘息治療のステロイド間欠が良い?.jpg
5歳未満のお子さんに対する、
吸入ステロイドの使用法についての、
New England Journal of Medicine誌の今月号の論文です。

喘息の治療のスタンダードは、
何と言っても吸入ステロイドによる治療です。

ステロイド剤は喘息の特効薬的な位置付けの薬剤ですが、
その飲み薬や注射の乱用により、
ステロイドの副作用が生じる弊害が起こりました。

そのため、
気道のみに効果を示し、
全身的な影響の少ないステロイドとして、
吸入ステロイドが開発され、
その喘息発作の予防効果と呼吸機能の改善効果が、
広く認識されるようになったのは、
皆さんご存知の通りです。

しかし、この吸入ステロイドの効果が、
乳幼児のような小さなお子さんでも、
同様であるかどうかは、
現在でも議論のあるところです。

日本の「小児喘息治療・管理ガイドライン2012」においては、
2歳未満の喘息は乳児喘息として、
それ以降の年齢とは別箇の扱いになっています。

これは2歳未満のお子さんの喘息発作が、
果たして大人の気管支喘息と同一の病気であるかどうかは、
まだ結論の出ていない問題だからです。

乳幼児期のお子さんで、
お風邪を引いて胸がゼーゼーするのは、
それほど珍しいことではありません。

小さなお子さんでは呼吸機能がまだ未熟なので、
機能的にそうした状態になり易いからです。

従って、その全てが喘息という訳ではありません。

しかし、乳幼児期のお子さんでも、
そうしたお風邪によるゼーゼーを頻繁に起こし、
ご両親にアレルギー傾向があり、
お風邪の時期以外にもゼーゼーが出現したり、
お風邪によるゼーゼーが長引く時には、
乳児期に発症する喘息、すなわち乳児喘息を疑うのです。

ただ、これはあくまで疑いであって、
喘息の確定診断ではありません。

乳幼児期には呼吸機能の検査は簡単には出来ませんし、
吸入などの治療により、
改善したかどうかの判断も困難です。
また大人と違ってゼーゼーし易い時期なので、
喘鳴があるからと言って、
それで喘息とは言えません。

従って、現実的にはこの時期の、
ただの風邪によるゼーゼーと、
喘息のゼーゼーとを、
見分けることは厳密には不可能なのです。

この時期の喘鳴は喘息とは別箇に考えよう、
という立場もあります。

上記の論文では喘息(asthma)という用語は使わず、
再発性喘鳴(recurrent wheezing)という用語を使っているのはそのためで、
乳幼児期のお子さんで、
繰り返すゼーゼーがあるものを、
「再発性喘鳴」と呼び、
その中から喘息に移行するお子さんが存在する、
というのがその元にある考え方です。

問題はこの乳幼児期の繰り返す喘鳴に対して、
どのような治療を行なうべきか、
ということです。

日本のガイドラインの立場は、
基本的には小児喘息の疑われる事例では、
年長児の喘息と同じ管理をする、
というものです。

つまり、喘鳴が繰り返されるようなら、
吸入ステロイドを普段から使用する方が、
喘息の発作の再発を抑えられる、
という考え方です。

それに対して今回の文献では、
1歳から5歳未満のお子さんを対象として、
通常の用量のステロイドを、
喘鳴のない時期も定期的に使用した、
持続的な使用法と、
喘鳴の悪化時期のみ、
多めの用量のステロイドを1週間のみ吸入し、
病状が安定すれば中止する、
間欠的な使用法とを、
1年間観察し
その間の増悪の頻度などを比較検討しています。

症例数は全体で278例。
ステロイドの治療効果はお子さんでも確立しているため、
倫理的な観点からプラセボは置いていません。

使用したステロイドは、
パルミコート。
一般名はブデソニドで日本でも使用されている薬剤です。
その使用量は持続投与が1日0.5mgの1回吸入。
間欠投与が悪化時のみで、
1回1㎎の1日2回です。
日本での乳幼児の使用量は、
0.25~0.5mgの1日1回ですから、
悪化時の使用量は、
日本では規定より多い、ということになります。
ガイドライン上は1日1㎎までが容認されています。

研究の結果はどうだったのでしょうか?

症状の増悪頻度などの指標に、
持続投与と間欠投与とで、
何ら違いはなく、
トータルなステロイドの使用量は、
間欠投与の方が少なくなりました。

つまり、5歳未満のお子さんの、
繰り返す喘鳴の治療には、
間欠的なステロイド治療で充分ではないか、
というデータが得られたのです。

この結果をどう考えれば良いのでしょうか?

乳児喘息という用語はありますが、
乳幼児期の喘鳴と、
それ以降の繰り返す喘鳴とは、
別箇に捉えた方が良いと、
現状では考えられます。

その中には確かに小児喘息へと連続する患者さんのいることも確かですが、
そうでないお子さんも多く存在しています。

従って、現時点では吸入ステロイドの持続的な使用は、
その有用性を全て否定するものではありませんが、
年長児の喘息の場合より、
その適応はより慎重に考えるべきではないかと思います。

ただ、これは現時点ではまだ結論の出ていない問題ですので、
皆さんのお子さんが受けられている治療については、
その必要性について、
主治医の先生とよくご相談して決めて頂くのが良いと思います。

今日は乳幼児期の喘息様症状の治療についての、
最新の知見の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ちばおハム

3日ほど空いてしまった間に、なんと興味深いお話がつづいていてついつい読みふけっておりました。

今日の乳児の喘鳴の話もリアルタイムで興味深いものでした。

先週末からここでは天気が悪く、天気が悪くなると喘鳴がひどくなる子どもたちが次々と発作を起こして、目のしたにクマを作って登園してきます。
保育園のため、6歳以下の子どもたちですが、この子たちは発作が出ているときに小児科に行き、吸入をしているようです。
この場合は間欠的な療法ということなんでしょうね。
昼間もとても苦しそうなのですが、過激な運動を控える、ということぐらいしかできません。

私の下の子も先日風邪をひいたときにぜーぜーしているといわれたので「喘息?」と思ったのですが、この場合はそうではなくて風邪による一時的な喘鳴ということなのでしょうか。
風邪の回復とともに喘鳴はなくなっているようなので、そうとらえていました。

すみません、とりとめもない感想です。



by ちばおハム (2011-11-29 16:13) 

fujiki

ちばおハムさんへ
コメントありがとうございます。
お風邪の時以外はお元気なお子さんに関しては、
特にご心配のない可能性が高いと思います。
by fujiki (2011-11-30 08:08) 

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