秘密はどうして守られないのか? [仕事のこと]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
Aさんは軽度の統合失調症で、
心気的な傾向と被害妄想があります。
ただ、薬を使わなくても、
通常は日常生活は可能ですし、
負荷が掛かった時には、
自分でも調子の悪いことが分かるので、
その時だけ抗精神病薬を使用するという対応で、
特に問題はない方です。
ある日Aさんは診療所に相談に訪れ、
「今度就職が内定した」と言われました。
それは大変良いニュースですが、
Aさんには不安があります。
それは面接の時に、
「何か持病は持っていますか?」
と聞かれたのに、
「何も重いものはありません」
と答えたことが、
嘘を吐いたのではないか、
と後から不安になったのです。
正直に話せば良かったのかな、
と思わなくもないのですが、
それでもし内定が取り消しになったら、
などと考えると、言うことは出来ません。
就職後に不安になるのは、
診療所を受診して薬をもらったりした時に、
そのことが会社に知られてしまうのではないか、
ということです。
健康保険で診療を受ければ、
当然その病名を含めた情報は、
健康保険組合に送られます。
Aさんはその時点では、
国民健康保険に加入していました。
それで、自分の医療情報が守られているかどうかを確認するために、
担当の地区の健康保険課に電話をしました。
Aさんは自分の名前を名乗り、
最近自分がどの医療機関に掛かったのかの情報を教えて欲しい、
と言いました。
その理由は医療費の申請を出すためだ、と言いました。
担当者はAさんの名前と生年月日を聞き、
それから保険証の番号を聞きました。
Aさんがそれだけの情報を電話で告げると、
担当者はその電話口でスラスラと、
「1ヶ月前に六号通り診療所を受診していますね」
とあっさり情報を開示しました。
皆さんはこれをどう思われますか?
たとえばAさんの会社の担当者なら、
Aさんの生年月日と保険証の番号なら、
すぐに調べることは可能です。
それだけの情報があれば、
本人と偽って電話をして、
別に厳密な本人確認もせず、
対面でもないのに、
何処の医療機関にいつ掛かったのか、
というような個人情報が、
あっさりと開示されてしまうのです。
何処の地域の役所でも、
同じ対応なのか、それとも、
中に杜撰な管理のところがあるのか、
何とも言えませんが、
ちょっと恐るべき話です。
次にAさんは、
自分が薬の処方をしてもらっている、
調剤薬局に電話をしました。
矢張り自分がAさんであることを名乗り、
前回もらった薬の内容を、
書いた紙を失くしてしまったので、
薬の名前を教えて欲しい、と電話で話しました。
薬剤師はまずAさんの生年月日を聞き、
それを元に薬歴を検索すると、
たとえば「セロクエルとソラナックスが出ていますね」
とあっさり電話で薬の情報を開示しました。
つまり、ある人がどんな薬を飲んでいるのかを知りたければ、
薬局に電話をして、
その人の名前を名乗り、
薬の名前を忘れてしまった、
と言えばそれで分かってしまうのです。
これも勿論全ての薬局がそうではなく、
もっと慎重なところも多いとは思いますが、
こうしたことが実際に起こっているのは事実です。
医療機関でも同様のことは有り得ます。
診療所では患者さんの情報は、
些細なことでもその場では答えず、
その場で僕に廻すか、
確認して掛け直す形を取るようにしています。
ただ、それでも100%とは言えません。
医療というのは緊急の場合もあり、
相手の方が緊急だと言われているのに、
本人確認云々と、言えないケースもあるからです。
問題の本質的な部分の1つは、
医療では電話での診療や相談というものも、
点数化され適切な医療行為の1つとされている、
という点です。
これは薬局も同様で、
薬の情報や相談には、
電話等でも対応することが、
適切だとされています。
そうした場合に厳密な本人確認は、
現状のシステムでは不可能です。
しかし、個人の病気に関する情報は、
本来もっと厳密に守られるべきものです。
それが、特に保険診療という部分で、
ザルになっているような現状は、
僕は大きな問題ではないかと思います。
僕はAさんには、
普通に診療を続けて何の問題もない、
と話しました。
まともな会社はそうしたことを調べて、
社員を解雇したりはしないし、
そんなことは出来ないと言いました。
しかし、心の底ではAさんの不安に納得出来る部分もあります。
診療の情報は医療費の削減などの色々な理由の下に、
不特定多数の守秘義務のない、
多くの人間の目に晒されます。
たとえば、あなたの医療費はジェネリック薬品を使用すれば、
これだけ安くなります、のような文書を個人に送り付けていますが、
それは当然処方の内容を、
そのためだけに、
守秘義務などない誰かが見ている訳です。
そうしたチェックのためには、
生年月日や名前は分からないようにするべきではないか、
と思いますが、そうした配慮は現時点では何もないと思います。
少なくとも行政の窓口で、
電話で医療情報を流すような軽率さは、
絶対にあってはならないことだと思いますが、
皆さんはどうお考えになりますか?
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
Aさんは軽度の統合失調症で、
心気的な傾向と被害妄想があります。
ただ、薬を使わなくても、
通常は日常生活は可能ですし、
負荷が掛かった時には、
自分でも調子の悪いことが分かるので、
その時だけ抗精神病薬を使用するという対応で、
特に問題はない方です。
ある日Aさんは診療所に相談に訪れ、
「今度就職が内定した」と言われました。
それは大変良いニュースですが、
Aさんには不安があります。
それは面接の時に、
「何か持病は持っていますか?」
と聞かれたのに、
「何も重いものはありません」
と答えたことが、
嘘を吐いたのではないか、
と後から不安になったのです。
正直に話せば良かったのかな、
と思わなくもないのですが、
それでもし内定が取り消しになったら、
などと考えると、言うことは出来ません。
就職後に不安になるのは、
診療所を受診して薬をもらったりした時に、
そのことが会社に知られてしまうのではないか、
ということです。
健康保険で診療を受ければ、
当然その病名を含めた情報は、
健康保険組合に送られます。
Aさんはその時点では、
国民健康保険に加入していました。
それで、自分の医療情報が守られているかどうかを確認するために、
担当の地区の健康保険課に電話をしました。
Aさんは自分の名前を名乗り、
最近自分がどの医療機関に掛かったのかの情報を教えて欲しい、
と言いました。
その理由は医療費の申請を出すためだ、と言いました。
担当者はAさんの名前と生年月日を聞き、
それから保険証の番号を聞きました。
Aさんがそれだけの情報を電話で告げると、
担当者はその電話口でスラスラと、
「1ヶ月前に六号通り診療所を受診していますね」
とあっさり情報を開示しました。
皆さんはこれをどう思われますか?
たとえばAさんの会社の担当者なら、
Aさんの生年月日と保険証の番号なら、
すぐに調べることは可能です。
それだけの情報があれば、
本人と偽って電話をして、
別に厳密な本人確認もせず、
対面でもないのに、
何処の医療機関にいつ掛かったのか、
というような個人情報が、
あっさりと開示されてしまうのです。
何処の地域の役所でも、
同じ対応なのか、それとも、
中に杜撰な管理のところがあるのか、
何とも言えませんが、
ちょっと恐るべき話です。
次にAさんは、
自分が薬の処方をしてもらっている、
調剤薬局に電話をしました。
矢張り自分がAさんであることを名乗り、
前回もらった薬の内容を、
書いた紙を失くしてしまったので、
薬の名前を教えて欲しい、と電話で話しました。
薬剤師はまずAさんの生年月日を聞き、
それを元に薬歴を検索すると、
たとえば「セロクエルとソラナックスが出ていますね」
とあっさり電話で薬の情報を開示しました。
つまり、ある人がどんな薬を飲んでいるのかを知りたければ、
薬局に電話をして、
その人の名前を名乗り、
薬の名前を忘れてしまった、
と言えばそれで分かってしまうのです。
これも勿論全ての薬局がそうではなく、
もっと慎重なところも多いとは思いますが、
こうしたことが実際に起こっているのは事実です。
医療機関でも同様のことは有り得ます。
診療所では患者さんの情報は、
些細なことでもその場では答えず、
その場で僕に廻すか、
確認して掛け直す形を取るようにしています。
ただ、それでも100%とは言えません。
医療というのは緊急の場合もあり、
相手の方が緊急だと言われているのに、
本人確認云々と、言えないケースもあるからです。
問題の本質的な部分の1つは、
医療では電話での診療や相談というものも、
点数化され適切な医療行為の1つとされている、
という点です。
これは薬局も同様で、
薬の情報や相談には、
電話等でも対応することが、
適切だとされています。
そうした場合に厳密な本人確認は、
現状のシステムでは不可能です。
しかし、個人の病気に関する情報は、
本来もっと厳密に守られるべきものです。
それが、特に保険診療という部分で、
ザルになっているような現状は、
僕は大きな問題ではないかと思います。
僕はAさんには、
普通に診療を続けて何の問題もない、
と話しました。
まともな会社はそうしたことを調べて、
社員を解雇したりはしないし、
そんなことは出来ないと言いました。
しかし、心の底ではAさんの不安に納得出来る部分もあります。
診療の情報は医療費の削減などの色々な理由の下に、
不特定多数の守秘義務のない、
多くの人間の目に晒されます。
たとえば、あなたの医療費はジェネリック薬品を使用すれば、
これだけ安くなります、のような文書を個人に送り付けていますが、
それは当然処方の内容を、
そのためだけに、
守秘義務などない誰かが見ている訳です。
そうしたチェックのためには、
生年月日や名前は分からないようにするべきではないか、
と思いますが、そうした配慮は現時点では何もないと思います。
少なくとも行政の窓口で、
電話で医療情報を流すような軽率さは、
絶対にあってはならないことだと思いますが、
皆さんはどうお考えになりますか?
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2010-05-11 08:30
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コメント(6)
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これは、難しい問題ですね~
情報がいともたやすく漏れるような状況は、困りものです。
医療関係者、行政の方々の統一された対応をきちんとして欲しいです。
緊急時の対応は、それはそれで確立していただくとして・・・・
Aさんの気持ちもわかります。面接時に事情を吐露するのは勇気がいりますよね。なんだか、いろんなことが曖昧で不安になりますよ。自分でさじ加減を見極める力がないとあらぬ方向へも行きかねないのが、今の日本の社会ですね・・難しいです。安心して暮らせる社会をなんとか作らないといけません。混迷の世の中です。(お話が逸脱してごめんなさい)
by スマイル (2010-05-11 08:45)
ショックです。
私は求職中ですので、Aさんと同じことを面接で言うと思います。
就業していれば、辞めさせられない精神的な疾患は、転職には非常に不利になります。このことが解消されなければ、健康診断で"心の健康"などを歌うことなど、絵に描いた餅としか思えません。
いろいろな立場の人が、互いに尊重しあえる社会になって欲しいです。
もちろん、個人情報は保持されるべきです。
簡単に開示できないように、法律を整備すべきだと思います。
by あした (2010-05-11 15:53)
秘密を守らなければならなくなると、たった一人で立ち向かうことになるわけです。
癌告知も今では告知するのが主流です
保険診療は公共性が高い制度ですから、情報公開制度はあるべきだと思います、だれが何のために個人情報を得たのかはっきり証拠として残すべきです。怖いのは本人の秘密にしておきたい気持ちが裏目に出て漏れた情報が独り歩きしてデマとなってしまう状態です。
そもそも会社の健康診断の情報は会社に筒抜けですし労災なんてそれがなければ成立しません、むしろ本人に告知せず働かせるのが合法である状態の方が問題です。
統合失調が軽度であることを十分会社に理解させることの方が大切だと思います。精神鑑定やら健康診断書を提出するのもいいかもしれませんね。
by ide (2010-05-11 20:18)
スマイルさんへ
コメントありがとうございます。
統合失調症に関しては、
確実に無理解と差別は存在すると思うので、
現状のような画一的な対応は、
問題があると思います。
by fujiki (2010-05-12 06:20)
あしたさんへ
コメントありがとうございます。
色々な考え方がありますが、
僕は現実的に無理解がある以上、
就職の段階で話さないのは、
止むを得ないことなのではないか、と思います。
ただ、仕事の内容と本人のスキルや状況とのミスマッチが、
多く存在して休職などの原因となっている現状は、
これも色々な意味で変えて行かなければならないと、
思います。
by fujiki (2010-05-12 06:24)
ide さんへ
コメントありがとうございます。
確かに企業の健康管理の問題と、
個人の不利益な情報を保護することとは、
両立は非常に難しい面があると思います。
by fujiki (2010-05-12 06:26)