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麻疹の診断は何故普及しないのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

医療系のニュースで、
少し前にこんな記事がありました。

【国の薦める麻疹の検査法、ほとんど活用されず】
国が推奨する麻疹の検査法(RT-PCR 法)が、民間会社などが実施している検査法(IgM抗体検査)に押され、ほとんど活用されていないことが、このほど明らかになった。IgM抗体検査については、感染初期の患者を陰性としたり、全く別の感染症を麻疹としたりする例も確認されているため、関係者からは、このままRT-PCR法が普及しなければ、麻疹を排除するのは難しいとする声も上がっている。

このニュースをお読みになり、
皆さんはどうお感じになりますか?

PCRというのは、言わずと知れた遺伝子診断の検査です。
通常鼻の奥の粘膜から、組織を取って、
それを元に麻疹のウイルスの遺伝子を検出するのです。

国が推奨する麻疹の診断法は、
この遺伝子検査であるにも拘らず、
それが医療現場では殆ど行なわれず、
その代わりに不正確な場合もある、
血液の抗体の検査がもっぱら行なわれている、
というのです。

何故そんなことが起こっているのでしょうか?

例によって無知な末端の医者が、
遺伝子診断という良い検査のあることを知らず、
不正確な検査をそれと知らずに多用しているのでしょうか?

もう少し記事を読んでみましょう。

RT-PCR 法が敬遠されている理由について専門家は「IgM抗体検査では、検体の輸送を業者が肩代わりする上、健康保険の適応も受けているが、RT-PCR 法では費用面・業務面の負担への行政の対応が充分でないためだろう。地方衛生研究所で麻疹診断を実施していることが医療機関にあまり周知されていない点も原因の1つ」と分析している。

ここに書かれているように、
麻疹の診断で最も感度が良い、
とされている遺伝子検査は、
現時点で健康保険の適応にはなっていません。
麻疹は早期に診断の必要性が高い病気です。
その感染力は高く、集団感染を起こし、
更には脳症などの重症化の率も高いからです。

にも拘らず、どうして適応にならないのでしょうか?

この記事にコメントと寄せた専門家も、
本来ならその保険適応の必要性を、
強く行政に働き掛けて欲しいものです。

しかし、そんな様子は微塵もありません。

上の記事の説明では、
地方衛生研究所では、
無料で麻疹の遺伝子診断を施行しており、
いつでも頼めば検査をしてくれそうに思えます。

しかし、果たしてそうなのでしょうか?

僕の手元に平成20年版の、
「医療機関での麻疹対応ガイドライン」の冊子があります。
研究機関のホームページなど見る限りでは、
これが最新版のようです。

この中には次のような記載があります。

麻疹ウイルスゲノムの検出や麻疹ウイルスの分離を試みる方法があるが、現時点では、健康保険適応がなされていないため、通常、医療機関の臨床検査部あるいは検査施設等では実施されていない。これらの方法による検討が必要と考えられる場合は、最寄りの保健所に相談し、各自治体の衛生研究所と連絡をとって、対応する必要がある。

どうでしょうか?
上の記事と比べると、
随分温度差のあることがお分かり頂けるかと思います。

つまり、たとえば診療所で麻疹疑いの患者さんがいて、
遺伝子検査の必要性があると思った時には、
まず保健所に連絡して、
保健所の担当者が必要と判断した場合にのみ、
衛生研究所での検査が可能になる、
ということなのです。

何処かで聞いたような話ですね。
そう、これは新型インフルエンザの遺伝子検査と全く同じです。

システムは誤りではありませんが、
実際には保健所に相談して、
検査が許可される可能性は、
限りなく低いものだと僕は思います。

感染症というのは極めて一般的な病気であり、
その診断は病気の性質上、
迅速に行なうべき性質のものです。
仮に診断に多少コストが掛かったとしても、
早期に的確な診断が、
たとえ患者さんがどの医療機関に掛かったとしても、
行なわれるような体勢が存在すれば、
感染の拡大は防がれ、
結果として、医療費の削減効果もある筈です。

しかし、実際には国民皆保険の日本においては、
健康保険の適応である検査は普及するけれど、
適応外の検査は、
少なくとも民間の検査会社は殆ど施行せず、
行政での施行は、
極めて高いハードルが設定されて、
一般の医療機関では施行が困難なのが現実です。

その現実は全く触れずに、
あたかも国の推奨する検査が、
医療者の無知のために使用されない、
などというニュアンスの記事を書くのは、
ちょっと問題ではないかと思いますし、
せめて行政サイドの研究者の意見だけではなく、
実際に診療に従事する医師の意見も聞くなど、
もう少し実体に即した報道をして頂きたいと、
切に願って止みません。

今日は麻疹の早期診断の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

シロ

しつこくすみません。
慢性疲労に栄養ドリンクやビタミンの錠剤とかは効果ないでしょうか?
by シロ (2010-05-10 14:47) 

fujiki

シロさんへ
過度の期待は出来ませんが、
不足しているものがあれば、
一定の効果はあると思います。
1種類くらいを選んで、
少し飲んでみても悪くはないと思います。
by fujiki (2010-05-10 15:59) 

シロ

わかりました
試してみたいと思います
ありがとうございました
by シロ (2010-05-10 17:01) 

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