SSブログ

差別と社会 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
何もなければ少し早く家に帰るつもりです。

それでは今日の話題です。

産業医をしていて思うことは、
統合失調症に対する差別、というのは、
現実には根強くあって、
そのために本当は薬を飲むことが必要だし、
その患者さん本人にとっても、
その方が社会生活を送る上でずっと楽であるのに、
医療機関に敢えて掛からないような方が、
実際には多い、という事実です。

統合失調症とは何か、という質問には、
まだ正確な答えはない、というのが実際だと思います。

これはあくまで僕の個人的な見解ですが、
統合失調症というのは、
極めてピュアで明晰な心の1形態であって、
人間の心というものの本来の姿なのかも知れないのですが、
人間が集団として生活する上では、
その純粋さを部分的には押し殺し、
嘘を吐き、表面だけを取り繕い、
言わば本来の自分を殺して、
行動する必要があるのです。
従って、そうした擬態を、
人間はその成長の過程で学ぶのですが、
それをうまく学べなかったり、
そうした擬態に強く反発するような何らかの要因があると、
その人はピュアな心のままに成長してしまい、
そのことがある時点で、
必ず集団と軋轢を生む原因となります。
つまりはいじめを受けたり、
仲間外れにされたりするのです。
その心の傷がその人の精神を歪め、
「病気」を作るのだと僕は思います。

つまり、統合失調症というのは、
やや個性的な性格傾向に過ぎないものなのに、
それを容認しない社会によって、
病気となってしまうのです。

精神疾患の一部が、社会が作る病気である、
ということの意味合いがここにあります。

統合失調症はある種のホルモン異常という理解も可能です。

脳内ホルモンを低下させる薬によって、
特に軽症例では抜群の治療効果が期待出来るからです。

ある意味統合失調症は高血圧と同じような病気です。

血圧の数値を一定レベルに保つように薬剤を使用すれば、
それで病気のない人と同様の、
社会生活が可能となるからです。

統合失調症の患者さんの多くは、
むしろうつ病や双極性障碍より、
ずっと薬の安定した効果の期待出来る方達なのです。

この事実が、必ずしも一般に知られていません。

統合失調症の患者さんであることが予め分かっていて、
その方を採用する企業は、
残念ながら少ないと思いますし、
仕事のストレスで発病したようなケースでは、
周囲の偏見から復帰は難しいケースが多いのも現実です。

多くの精神科医はそのことが分かっているので、
患者さんには、なるべく病気のことは会社には言わないように、
と話すことが多いと思いますし、
診断書を求められても、
敢えて別の病名を記載することもままあります。

病名というのは、基本的には患者さん本人に、
正確に伝えられるべき性質のものだと思いますが、
その一方で、病名というのは、
ただの学術用語ではなく、
ある種の社会性を帯びていて、
その言葉自体が呪術的な性質を持って、
患者さんの周囲の環境を、
変化させてしまう場合もあります。

従って、そうしたリスクの高い病名に関しては、
僕は本人にも告げられないケースがあっても、
人間同士である以上、止むを得ないことなのではないか、
という気がします。

つまり、病名というのは、
多くの人が聞いて、
ある程度同じ客観的イメージを持つようでなければ、
まだ病名として未成熟なものであり、
未成熟な病名は、
却って患者さんの害になることも有り得るのです。

この社会が、もう少しこの特異でピュアな魂を受け入れ、
その役割を果たせるように、
成熟することを期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

nice!(37)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 37

コメント 4

たびのくま

いつも興味をもって読ませていただいています。
大きな病院で臨床検査技師や臨床研究コーディネーターの仕事をして、今は薬局薬剤師をしています。
統合失調症に関しては、心理の勉強をしていた時に、学会で「浦河べてるの家」の方の発表を聞いたことがあります。
先生の視点には共感できる部分がたくさんあります。
ありがとうございます。

by たびのくま (2010-05-12 09:27) 

iyashi

本人が統合失調症かもしれないと思い、医療機関を自主的に受診し、適切な治療を受けられれば最善かと思いますが、患者本人が病識がなく、精神科を受診することすら拒否し、それを促した家族を訴えた場合、双方が不幸な結果になると思います。
私の友人で実際そういうことを経験しました。
奥様がそうであったのですが、自分は病気ではなく、友人が家族を顧みないということで裁判になりました。
結局離婚となり、友人は養育費を払い、子供たちとも会えなくなってしまいました。
非常にデリケートな問題かと思います。
by iyashi (2010-05-12 17:26) 

fujiki

たびのくまさんへ
コメントありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-05-13 06:19) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。

診断自体も必ずしもクリアなものではないので、
非常に難しいところだと思います。
by fujiki (2010-05-13 06:21) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0