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医療を支配し荒廃させているものは何か? [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日の話を、
今日はちょっと視点を変えて考えたいと思います。

まず、昔話をします。

僕が大学の内科の医局にいた時、
アルバイトで透析の病院に、
週に1回働きに行っていたことがありました。

透析をしている患者さんが、
40人くらいいて、その方達の間を廻って、
透析中の状態を見守り、
必要があれば検査をオーダーしたり、
その場で簡単な検査をしたりします。

僕はまだ大学を出て数年という時期だったので、
良く言えば無垢で真剣でしたし、
悪く言えば融通が利かず、世間知らずの馬鹿でした。

それでたとえば胸に水が溜まっている方がいれば、
胸水穿刺をその場でして、
細胞の検査をしたり、結核菌の検査をしたりもしましたし、
心臓に雑音が聞かれれば、
すぐに心臓の超音波の検査をしました。
血液の検査は簡単な項目だけで、
それも1ヶ月に1回くらいしかやっていなかったので、
透析をしていてこれではいけない、と、
2週間に一度は検査をするようにしました。

すると…

ある年の4月になった最初のバイトの日に、
病院の院長が険しい顔をして現われて、
これからは検査は月に1回だけにして、
それも最小限度の項目だけにしてくれないと困る、
と透析の患者さんが大勢寝ている前で、
大声で僕に言いました。

僕には何故院長がそんなに怒っているのか分かりません。

僕は学校で習った通りに、
この症状ではこの検査、と必要に応じて検査をしているだけで、
僕に言わせれば、院長の診察や検査の指示は、
手抜きそのものです。
どんな患者さんに対しても、同じ検査を、
それも通常より少ない回数で、
やることしかしていないのです。
具体的には貧血と腎機能と電解質の検査をするだけで、
他の検査は一切やらないのです。
こんな手抜きの診療をしていながら、
何故もっと充実した診療をしている筈の僕が、
みんなの前で罵倒されなければいけないのでしょうか?

その時は良く分かりませんでしたが、
今は分かります。

透析の診療報酬が、その時、「まるめ」になったのです。

どういうことかと言うと、
1ヶ月に何点と点数が決められていて、
どんなに検査をしてもしなくても、
その点数には変わりはありません。
透析の治療に医療費が掛かり過ぎる、
という苦情から導入された、
診療報酬の改定が、
その年の4月から施行されたのです。

つまり、何もしないことが、
一番病院の収益に繋がるのです。
検査をすればそれだけ検査料が掛り、
収入は変わらないのですから、
病院の持ち出しになります。

従って、必要最小限ギリギリの検査をすることが正しく、
僕のように検査をしまくることは、
病院の経営を破綻させることに繋がるのです。

バイトで医者を雇って、
病院を潰されてはたまったものではありません。

院長が怒ったのは、
ある意味当然のことでした。

しかし、これはあるべき姿でしょうか?

何かが間違っていますよね。

でも、それは何でしょうか?

悪い奴がいるとすれば、それは誰でしょうか?

闘うべき相手は、何処にいるどういう化け物なのでしょうか?
どうも正体をはっきりさせようと光を当てると、
当てた瞬間に消えてしまうような気がします。

この「まるめ」の時には、
医者が金儲けのために、
無用な検査を多くして、
そのために無用の医療費が掛かっている、
というキャンペーンが張られました。

メディアはそういう悪い医者のことを、
散々に取り上げましたね。

ただ、僕は思いますが、
そうした「悪い医者」はいるにはいても、
そう多くはない、というのが実感です。
たとえばおぼっちゃんで、パパに巨額の寄付金を払ってもらい、
入学試験なんてフリーパスで入れるような何処かの医大に入り、
在学中も殆ど勉強せず医者になったような人間でも、
それなりに患者さんを助けようと思い、
努力したりするものです。
これが言ってみれば医者というペルソナの力で、
結果として過剰検査になったとしても、
最初からそうするつもりの医者は、
極少数だと思います。

問題は医者という人種は極めて従順だということです。
世間知らずの馬鹿で、
権力者や偉い先生の言うことを、
まともに信じてその指示通りに行動します。
つまり、実際はただの奴隷の癖に、
自分が権力者であるかのように、
振舞ってしまうのです。

上の事例における「まるめ」の点数の本当に意味合いは、
透析の患者さんには、
最低の診療しかするな、ということです。
診療のレベルを落とせ、ということなのです。

でも、権力者は決してあからさまにそうは言いません。

その代わりに「まるめ」の点数を必要以上に低く設定し、
最低レベルの治療でなければ、
医療機関に採算が取れないように誘導します。

医者は反抗すれば良いのでしょうが、
概ねそうはしません。
それは従順だからでもありますし、
権力者はメディアを利用して、
「医者は金儲けのために無駄な検査をしている」
という洗脳を予めしているので、
一般の方の共感が既に得られないことに、
戦意を喪失しているためでもあります。

新しい検査や治療法が、
日々開発され、
医療が技術としては進歩を続けている現在、
医療費を抑制しつつ、
医療の質を高めるなどと言うことは、
どう考えても不可能なことです。

しかし、たとえば最も多い食中毒の原因である、
ノロウイルスの検出のための検査ですら、
健康保険では施行出来ない一方で、
一本数万円はする高額な注射薬が、
簡単に健康保険の適応となり、
どう考えても口からの内視鏡で代用の可能な、
経鼻内視鏡のような装置が、
簡単に保険適応をされてしまいます。
また、貴重な筈の医療費が、
行政が都合の良い方向に、
医療を誘導するための餌として、
ばら撒きのような加算が導入されます。

このいびつな診療報酬の体系を、
もっと単純明快なものにしなければいけません。

そして、高額な薬剤や治療器具を採用する一方で、
多くの一般の患者さんの医療レベルを、
無理矢理に低下させるような、
診療報酬の権力誘導的な改定を、
一から見直すことが必要なのです。

診療報酬の体系をもっとシンプルなものにして、
他に代用の利くような薬剤や検査器具は、
もうしばらくは新規に保険適応しないようにすればどうでしょう。

ジェネリックを増やすくらいなら、
代用薬のあるものは、薬の数自体を減らせばいいのです。

そうすれば、確実に医療費は減少します。

しかし、それは出来ないのです。

何故出来ないのでしょうか?

それは勿論、製薬会社と医療機器メーカーの利益は、
医療費が減っても同じように確保したいからです。
そのために、ただの奴隷の癖に偉そうな気分でいる、
馬鹿な医者どもはいじめ殺しても、
医療経済としての成長は続けたいのです。

しかし、それは早晩不可能になる筈です。

医療というのも巨大な公共事業です。

これまでに無駄なダムがどれだけ築かれ、
無駄な道路がどれだけ造られたことでしょうか?
このまま高速道路を造るように、
新薬や最新の医療機器を採用し続ければ、
確実に財政は破綻するでしょう。
その時にその責任が、
「無駄な検査や薬漬けにした末端の無知な医者どもだ」、
とされてしまうのでは、
あまりに切ないように僕には思えます。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

さすらいの、、、

南木佳士氏(内科医)の作品にこのような情景がありました。
胸水を抜くむなしさを、、、。
by さすらいの、、、 (2010-04-08 09:40) 

もも

私は「ワイパックス」こだわり派です。
院外薬局で「ユーパン」を勧められたのですが、
どうもワイパより効き目が悪いんですよね・・・効果は同じと
言われても。価格は安いのでしょうが、効能にこだわります。
勧める理由が「ワイパックス」の生産が間に合わないって。
どんだけの人が飲んでんだろ?断固として断りました!
パニックが強いタイプなもので・・・。
by もも (2010-04-08 12:18) 

みぃ

まるめとは関係が無いのかも知れませんが、新型インフルエンザがインフルエンザパンデミックとして、私達は、本当に心配していた頃の事です。 近隣の病院では、インフルエンザ患者は来院していても、それが新型か季節性なのかは、調べてないので、分からないと言う話でした。
何故、調べないのかが解せませんでした。 それもまるめと関連していたと判断されるのでしょうか? それとも、医療関係者の中では、新型インフルエンザも、季節性インフルエンザと脅威の観点からすると、あまり変わりないと判断されていた為に、調べ無かったと判断すべきなのでしょうか?
by みぃ (2010-04-08 17:02) 

ヒイラギヤマ

医療経済で思うこと。
又聞きですが、4月から300品目ほど薬価差益がほとんどでないように決められた薬品があると。
理由は国内製薬会社が医薬品の開発に力を入れて、新薬を開発できる環境づくりのためだと聞きました。
正確な事情はわかりませんが、薬の種類によっては新薬が次々とでてきて疑問に思うことがあります。
海外の製薬会社に大きく差をつけられているのは事実ですが、それほど新薬が必要なのでしょうか?勿論強く望まれている薬はあります。
経済のことがあまりわかりませんので、何かがおかしいように感じます
by ヒイラギヤマ (2010-04-09 00:23) 

fujiki

さすらいの、、、さんへ
コメントありがとうございます。

医者の文芸はあまり好きではないのですが、
今度読んでみます。
by fujiki (2010-04-09 08:20) 

fujiki

ももさんへ
コメントありがとうございます。

「生産が…」は真っ赤な嘘で、
ただジェネリックを勧めたいだけです。
風当たりは更に厳しくなると思いますが、
是非こだわって下さい。
効き目は間違いなく違うと、
僕は思います。
by fujiki (2010-04-09 08:22) 

fujiki

みぃさんへ
コメントありがとうございます。

それは行政の方針で、
行政の機関でしか、
新型インフルエンザの診断をさせなかったのです。
ただ、現時点でも一般には鑑別の検査は出来ず、
健康保険が適応になる、という見込みもありません。
多くの方が望むことを、
健康保険は適応にはしないのです。
おかしな話ですが、それが事実です。
by fujiki (2010-04-09 08:25) 

fujiki

ヒイラギヤマさんへ
コメントありがとうございます。

それは差益ではなくて、
特許期間中でも、2年に一度は、
先発品の薬価も数%ずつ下げる、
という極悪非道な制度があり、
それを「国が非常に有用と認める」薬品に限って、
撤廃しよう、という話です。

たとえば、去年の12月に発売された、
糖尿病の新薬は、
何と今年の4月にはもう薬価が改定になり、
数%切り下げになっているのです。
こんな馬鹿な話があるでしょうか?
薬は牛丼の1種なのでしょうか?

製薬会社とお役人様、政治家様が折衝をして、
それをなるべく止めよう、という話です。
その代わり、その余剰金で、
新薬の開発を進める原資にしよう、という発想です。

一見良く出来た話のようですが、
そんなに奇麗な話ではなく、
色々と裏はありそうです。
要するに大手の製薬会社と、
そこに天下りを送り込む役所が、
1種の取引をしたのだと思います。
国がその薬が有用かどうかの判定をする、
というのが、まず胡散臭いですよね。
全ての新薬ではない、というところが一番のミソです。

診療報酬の話と違って、
あっと言う間に決定され、
殆ど決定まで報道されないのも、
医療のサイドにいるものとしては、
不公平な感じがします。

僕も正確な絵図は分かりませんが、
奇麗事の裏で誰かが儲けるような話であることは、
間違いがありません。

くれぐれもそのままに、
「良い話だわ、良かったわ」
とは思わないようにして下さい。
by fujiki (2010-04-09 08:40) 

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