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続・LDL コレステロールの測定はデタラメなのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から事務仕事をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨日はLDL-コレステロールの直接測定が、
実はいい加減な検査なのではないか、
という話でした。

今日はコレステロールの測定について、
もう少し細かい話をします。

コレステロールというのは、
細胞の膜に存在する脂ですが、
常にある程度の量が、
血液の中を流れています。

ただ、血液は水ですから、
そのままでは「水と油」で、
コレステロールは安定して存在することが出来ません。
従って、通常アポ蛋白という蛋白質にくっついて、
一種の複合体となって血液の中に存在しています。
これをリポ蛋白と言います。

リポ蛋白の働きは、
身体に必要な脂を運ぶことです。
従って、このリポ蛋白には、
コレステロールや中性脂肪が、
その中に含まれています。
言ってみれば、リポ蛋白とは、
中性脂肪やコレステロールを運ぶ、
トラックのようなものなのです。

よろしいでしょうか。

リポ蛋白はその密度(比重)によって、
幾つかの種類に分類されています。
分析用の超遠心機を使用して、
比重の軽いリポ蛋白と重いリポ蛋白とを分離することが、
1960年代に確立された手法となったためです。

そうした分類のサンプルを、
次に見て頂きましょう。



比重によってリポ蛋白を区分けすると、
この図のようになります。
右側に行くほど、比重は重くなります。
一番左の小さな山がカイロミクロンと呼ばれるリポ蛋白で、
その次の山がVLDL(very low density lipoprotein )、
次の赤い矢印の部分が、
お馴染みのLDL(low density lipoprotein )、
一番右の青い矢印の部分が、
これもお馴染みのHDL(high density lipoprotein )です。

ここでのポイントは、
これはただの比重による分類に過ぎない、
ということです。
LDL-コレステロールが悪玉コレステロールだと言うと、
如何にもそれは明確に区分されているもののように、
言われた人は思いますが、
実はただの山に過ぎず、その隣には、
すぐに善玉コレステロールの山があります。
つまり善と悪とは隣合わせにある訳で、
それは明確に「違う」ものではないのです。

もっとややこしいのは、
中性脂肪やコレステロールが多い場合です。
この時、LDLとVLDLの山の境は消失し、
2つの山がほぼ一体となることが、
しばしばあるのです。
この場合、何処までがLDLで何処からがVLDLかは、
区分する人間のさじ加減で、
結構変わってしまうことになるのです。

ここに、LDLの測定というものの持つ、
基本的な限界が存在しています。

ここで、LDL-コレステロールとは何なのか、
という点を考えてみましょう。
LDLはリポ蛋白のことです。
これはコレステロールや中性脂肪、
アポ蛋白を全部含む塊です。
その塊に重い軽いがあり、
そのやや軽い塊のことをそう呼んでいるだけの話です。

従って、LDL-コレステロールとは、
LDLに含まれているコレステロールの量のことです。
コレステロールそのものには別に種類はなく、
そもそも良いも悪いもないのですが、
LDLに含まれているコレステロールの量が、
全体の中で多いと、
それが動脈硬化を進める要因になるのでは、
と言う風に考えられているからです。

HDL-コレステロールというのも同じ意味合いで、
HDLという塊に含まれているコレステロールの量が、
多いか少ないか、という意味に過ぎません。

従って、そもそもLDL-コレステロールを、
正確に測定する方法などというものは存在しないのです。
それはLDLという区分自体が、
人間が重さで勝手に分けただけのものであり、
独立した物質ではないからです。

でもそれは何処かおかしいですよね。

この間取り上げた、L/H比という指標があります。
これはLDL-コレステロールの値を、
HDL-コレステロールの値で、
割り算して求められ、
それが1.5を切るのが、脂質異常症の、
治療の目標だと偉い先生の本には書かれています。

しかし、この数値は本来、
両方とも正確には測れないものなのです。
わざわざ割り算の数値を指標にするのは、
その分母と分子とが共に正確な数値で、
その微妙な変化を大きく捉えるためである筈です。
正確ではない数値同士を割り算して、
一体何が分かるのでしょうか?
そんないい加減なものが、
何かの指標になるのかしら。
却ってお互いの誤差が拡大して、
不正確さが増すばかりではないでしょうか?

何かどうも怪しげです。

それではこれまで、
どのようにしてLDL-コレステロールは、
測定されてきたのでしょうか?

現在最も厳密な測定と言われるものは、
ある比重の分画を遠心分離によって取り出して、
その比重の分画の中にある、
コレステロールの量を測定する方法です。
これは比重の1.006から1.063の間に存在するリポ蛋白が、
ほぼLDLに一致するだろう、
という仮定のもとに算定が行なわれています。

またFriedewald の式というものがあって、
これは LDL-C=総コレステロール-(血清中性脂肪/ 5 +HDL-C )
という換算式によって計算するものです。
つまり、全体のコレステロールの値と、
中性脂肪の値は、正確に測定が可能であり、
HDLの測定も比較的安定しているので、
そこから換算した数値を使う方が、
中途半端な直接測定を行なうより、
より有益な指標に成り得る、という考え方なのです。

この遠心分離による方法と、
換算式による方法とが、
現在世界的に認められている、
LDL-コレステロールの測定法です。

ただ、日本では10年ほど前に、
国内メーカーが相次いで、
特殊な試薬によるLDL-コレステロールの直接測定法を開発。
これが急速に普及し、
悪玉コレステロール測定のスタンダードとなりました。
これは特殊な界面活性剤を用いて、
遠心分離することなく、
ある特定のリポ蛋白に含まれるコレステロールのみを、
直接測定する、という方法です。
これが1998年に保険適応され、
2007年には動脈硬化疾患の予防ガイドラインから、
総コレステロールの数値が外されます。
そしてそれを元にして、
2008年からメタボ健診が始まり、
その項目からも、
総コレステロールは外されたのです。

ところが…

この測定法はあくまで簡易測定なのです。
総コレステロールの測定自体は正確なものですが、
LDL-コレステロールというのは、
あくまで人為的に遠心分離した時に、
概ね比重が1.006~1.063の間に出来る山、
というものに過ぎません。
それを直接測る、という発想自体が、
そもそもちょっとおかしいのです。
特に病的な状態では、
この山の出来方自体が、
変化するのですから、
よりその測定はその意味を失うのです。

2008年にこの直接測定を評価するための、
日米共同研究が行なわれたのですが、
その結果、アメリカではこの測定は、
その精度に問題があり、
現状では推奨出来ない、
という結論でした。

今回の騒動から、分かることは何でしょうか?

総コレステロールの数値自体は正確なものですが、
悪玉コレステロールの数値については、
それを厳密に測定する方法は、
現時点では存在しません。
悪玉コレステロールの数値が高いと、
動脈硬化が進行し易くなること自体は事実ですが、
悪玉コレステロールの数値そのものが、
それほど精度の高いものではない以上、
細かい数値で治療目標を云々することに、
あまり厳密な意味があるとは僕には思えません。

海外の論文で、悪玉コレステロールがこのくらいだと、
動脈硬化が進み易く、
これこれの治療でそれが改善した、
というような報告が沢山ありますよね。
しかし、そこに書かれている悪玉コレステロールの数値と、
皆さんが健診で測っている数値とは、
実は別物なのです。

専門家と称するからには、
その測定の厳密性にこそ拘り、
その精度が守られているかどうかに、
もっと神経を使うべきではないかと僕は思います。

しかし、現実には表立って問題になるまでは、
そのことには敢えて触れず、
悪玉コレステロールの数値を100以下にしろ、とか、
L/H 比を1.5以下にしろ、とかと、
一種の数値目標のみを、
声高に発言されるのは、
あまり科学的な態度とは僕には思えません。

それに洗脳された僕のような末端の馬鹿医者が、
それを鵜呑みにして、
じゃんじゃん薬を出す訳です。

無知で馬鹿な末端の医者が多いことは、
僕も含めて事実だと思いますが、
そうした医者を生み出した責任は、
専門の偉い先生にもあるのではないでしょうか?

これまで、どれだけ多くの鳴り物入りの治療が、
実は科学的根拠がないものだったり、
どれだけの数の、じゃんじゃん使われ推奨された薬が、
実は日本以外ではゴミのような扱いの物だったり、
どれだけの種類の、素晴らしい検査と説明された物が、
実は精度の低いインチキ検査だったりしたことでしょうか?

こんなことをいつまで繰り返せば良いのでしょうか?

ちょっと絶望的な思いを感じつつ、
僕自身と患者さんの身を守るには、
正しい情報を広範に得る努力を、
常に続ける以外にはないのかも知れません。

最後に、僕が現時点で考えている、
脂質異常症の評価法についてですが、
基本的には総コレステロールと中性脂肪と、
HDL-コレステロール
(これも直接測定なので、やや問題はあります)
を測定し、悪玉コレステロールは換算式で計算します。
リポ蛋白の遠心分離の検査は、
健康保険でも可能なので、
患者さんのご同意があれば、
それも測定して脂質の異常のパターンを掴みます。
これはただ、定量的な検査ではありません。
しかし、いずれにしても、
中性脂肪が400を超えるような数値の場合には、
悪玉コレステロールの評価は、
現時点では良い指標が存在しないのです。

今日はコレステロールの測定についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 17

はらへった

はじめまして、秋田の山奥の診療所で僻地医療をしている者です。
いつも良質な記事をありがとうございます。

今回の記事、大変勉強になりました。
高脂血症治療は以前から企業の利益誘導のために編み出されたような、ガイドラインばかりが立派で、何千人治療をしてやっと一人心筋梗塞にならない、というような意味不明なものでした。
LDLの検査法自体があやふやなものであるのなら、我々末端の医者は何を指標に治療したらよいのでしょうね。

そもそも、高脂血症自体がどこまで治療して良いのか、以前から疑問に思っていましたが、いよいよそれが深まってしまいました。
by はらへった (2010-01-05 12:03) 

けろきち

(遅くなりましたが)
明けましておめでとうございます。今年も勉強させて
いただきたいと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。

さて、この内容はショッキングです。
高脂血症薬は製薬会社にとっては大事な薬であり、
副作用も多い薬と思いますので、(個人的には)
できれば飲みたくないなと思っておりました。

指標があやふやだとすると、治療不要な患者さん
までが、高脂血症の治療を行っていた可能性があ
るのでしょうか。

気になります。



by けろきち (2010-01-05 14:31) 

iyashi

高脂血症の指標がTC→LDL-Cになったのはそれ程昔の話ではないですよね。

L/H比は動脈硬化指数でしたっけ?

私はHDL-Cが高いタイプだったのですが、HDL-Cが1上がればLDL-Cを2下げることに等しいという噂を耳にしたことがあったのですが眉つばということですね。

スタチン剤は薬価が高いですからね。
利権がからんだ匂いがプンプンしますね。
しかも日本にこれほどのスタチン剤が必要か疑問に思います。

同様にARBにも色々な利権がからんでいるような感じがして仕方ありません。
by iyashi (2010-01-05 19:17) 

fujiki

はらへったさんへ
コメントありがとうございます。

アポ蛋白の精密測定でも何でも良いのですが、
悪玉コレステロールに変わる、
もっと精度の高い指標が必要なのではないか、
と思います。


by fujiki (2010-01-05 21:03) 

fujiki

けろきちさんへ
明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

コレステロール低下療法の効果とその意義は、
心疾患の予防に関しては、
確立されたものだと思います。

ただ、精度に問題のある、
悪玉コレステロールの直接測定を、
安易に導入して、
それを絶対的な価値とするような姿勢は、
問題だったのではないかと思います。
by fujiki (2010-01-05 21:09) 

fujiki

iyashi さんへ
コメントありがとうございます。

血糖も悪玉コレステロールも血圧も、
必ずしも再現性のある、
精度の高い数値ではないにも関わらず、
その僅かな上昇や低下を重要視し過ぎるのは、
問題ではないかと思います。

基本的に今の健診レベルの計測では、
それほど厳密な議論は出来ない筈なのです。

利権も…多分あるのだとは思いますね。
by fujiki (2010-01-05 21:15) 

koba

>基本的には総コレステロールと中性脂肪と、
HDL-コレステロール
(これも直接測定なので、やや問題はあります)
を測定し、悪玉コレステロールは換算式で計算します。

すみません。これは素人個人でもできるものなのでしょうか?

今回の健康診断で、タバコも酒も肉もそれほどでもないのに
D判定となり、悪玉コレステロールが本当にどれくらいいるのか
気になっていまして。。。

総コレステロール値は高かったです。。。

by koba (2010-06-28 14:02) 

fujiki

koba さんへ
そう面倒な式ではないのですが、
もしよろしければ、
総コレステロールと中性脂肪とHDLコレステロールの、
3つの数値を教えて頂ければ、
計算してまたお知らせします。
by fujiki (2010-06-28 14:28) 

koba

おおお、、即レスですね。。。

総コレステロール 230H
中性脂肪 85
HDL 54
LDL 166H

とかいてあります
by koba (2010-06-28 14:47) 

fujiki

koba さんへ
計算上のLDLコレステロールは、
159です。
つまり直接法の166とそれほど隔たってはいないので、
概ね160程度、と考えて頂ければ良いと思います。
この数値にはそもそも1や2の違いを重要視するような、
厳密性はないのです。

160はたとえば高血圧や糖尿病などのご病気があったり、
他に動脈硬化の進行を疑わせる検査所見があれば、
(眼底の血管の異常や頚の超音波検査の異常、
レントゲンの血管の石灰化などです)
治療域だと思いますが、
他のリスクがなければ、
ご様子を見ても問題のないレベルではないか、
と僕は思います。
ただ、これは僕の個人的な考えで、
発表されているガイドラインそのままではありません。

丁度今患者さんが途切れているので、
即レスさせて頂きました。
by fujiki (2010-06-28 14:57) 

koba

ありがとうございます!

ちなみに個人で改善のための食事療法などを行うとして
数値をさらに測定するにはやはり病院で採血をしてもらって
比較するのが一番でしょうか?(血圧計のように個人で
測る、とかはできませんよね?・・・)


by koba (2010-06-28 15:12) 

fujiki

koba さんへ
少量の血液で測る器械や、
郵送健診なども一部にありますが、
明らかに金儲け目的の商売ですし、
精度の問題もありますので、
お勧めは出来ません。
いい加減な数値で一喜一憂したら、
却って馬鹿馬鹿しいと思います。
出来れば半年後くらいに、
もう一度医療機関でチェックされるのが、
良いのではないかと思います。
by fujiki (2010-06-28 15:19) 

koba

ありがとうございます!!

重ね重ね、お礼申し上げます。
by koba (2010-06-28 15:46) 

takajo

クリニックで血液・尿検査を行いました。

総コレステロール 284H
中性脂肪 209
HDL 45
LDL 229H

糖尿は問題ないとの結果が出ました。
頂いた薬はリバロ錠1mgを1日1回夕食後テノーミン錠25mg1日1回朝食後服用とのことです。
今後 食事・運動療法と併せて改善したいと思いますが、息苦しさなどの症状が出ていたので運動はどの程度、行うか考えています。
お知恵を拝借したく お願い致します。
宜しくお願い申し上げます。

by takajo (2011-01-18 09:47) 

fujiki

takajo さんへ
コメントありがとうございます。
息苦しさがおありとのことですので、
その原因が何かによっても、
運動の強度とその安全性は、
変わってくると思います。
まずは主治医の先生にその点をうかがってから、
運動は始めるようにして下さい。
by fujiki (2011-01-19 08:35) 

klosongs

LDLコレステロールは、家族性高コレステロール血症かどうかの
判断には使用できますが、LDL-Cが180程度以下の場合は、
動脈硬化のリスクの指標にはならないと思います。LDL-C が
高めの160程度と低めの80程度では、せいぜい2倍程度の差に
過ぎません。
しかし、動脈硬化の進展の差は2倍では済まないと思います。
つまり、家族性高コレステロール血症でない人にとっては、
LDL-C の値よりも、その他の危険因子の方が影響が大きいと
考えるのが合理的ではないでしょうか。
by klosongs (2012-11-23 21:53) 

fujiki

klosongsさんへ
貴重なご指摘ありがとうございます。
by fujiki (2012-11-24 08:44) 

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