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季節性ワクチンの新型免疫への増強効果についての一考察 [新型インフルエンザA]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日事務仕事の予定です。

それでは今日の話題です。

新型インフルエンザ関連で、
年末にこんなニュースがありました。

【「季節性」+「新型」でワクチン効果増強】季節性インフルエンザのワクチンを打っていると、新型インフルエンザのワクチンの効果が高まるという動物実験の結果を、オランダとイタリアの研究チームが23日付の米医学誌サイエンス・トランスレーショナル・メディシンで発表した。◇研究チームは、イタチの仲間フェレットを使ってワクチンの効果を検証した。新型ワクチン接種の1か月前に季節性のワクチンを接種すると、新型だけを接種した場合より、新型ウイルスに対する免疫の反応が高まった。季節性ワクチンは新型ウイルスには効果がないとされ、当初、新型ワクチンは2回の接種が必要と予想されていた。しかし、各国の臨床実験の結果、健康な成人では1回で効果があることが分かった。詳しい仕組みは不明だが、過去に接種した季節性ワクチンが新型ワクチンの効果を増強する働きをしていると見られる。(2009年12月24日 )

季節性インフルエンザのワクチンを打った後で、
新型インフルエンザのワクチンを打つと、
新型インフルエンザの効果が増強した、
というのです。

こうした話は以前からあるのですが、
情報はかなり錯綜していて、
昨年の春頃には、
季節性ワクチンがある程度新型インフルエンザにも、
効果があるのでは、というような話があり、
その一方で、CDCやWHO関係の方とか、
それとほぼ同じ発言しかされない、
国内の御用研究所の先生などは、
新型インフルエンザはこれまでのインフルエンザとは別物なので、
殆どの人間に免疫はなく、
季節性ワクチンは無効なのだ、
と力説をされたのです。

今から思えば、WHOというのは、
ワクチン推進派の元締めのような組織ですから、
「新型ワクチンをすぐ造れ!」
という大合唱をするためには、
「今までのワクチンも効くかもよ」
みたいな紛らわしい話は、
認める訳には絶対にいかなかった訳です。
ですからこの発言は多分に政治的なもので、
科学的事実とは言い切れない、
という気がします。

更にはカナダ発で、
季節性ワクチンを打つと、
却って新型インフルエンザに罹り易くなるのでは、
という調査結果などもあり、
事態は非常にややこしいことになったのです。

それでは、今回の記事にある論文は、
一体どのような内容なのでしょうか?

ちょっと興味があったので、原文をダウンロードして、
読んでみました。(非常に高額の料金を課金されました)

これは「Science Translational Medicine 」という雑誌に載った、
「Seasonal Influenza Vaccine Provides Priming for A/H1N1 Immunization 」
と題する論文です。

以下、かいつまんでその内容をご説明します。

これはイタチを使った、動物実験です。

人間に感染するインフルエンザウイルスで、
人間のような気道感染を起こすのは、
動物では豚とイタチだけなのですね。
従って、こうした研究には、
豚かイタチが使われることが多いのです。

イタチを6匹ずつの、8つのグループに分けます。
それぞれ、オスとメスが3匹ずつです。
都合48匹のイタチが実験台にされました。

これを全く何も打たないグループと、
季節性ワクチンを2回打ったグループ、
最初に季節性ワクチンを打って、
その1ヶ月後に新型ワクチンを打ったグループ、
というように分類します。
ワクチンはノバルティス社のものを使用しているため、
アジュバント(免疫増強剤)の入ったものと、
入っていないものとの効果の比較も、
同時に行なわれています。
アジュバントはお馴染みのMF59です。

効果判定は接種の1ヶ月後に、
血液のHI抗体と中和抗体の両者を測定し、
更に免疫の出来たタイミングを図って、
新型インフルエンザウイルスに、
実際に感染させます。
その気道に無理矢理ウイルスを送り込むのです。
その後イタチの粘膜でウイルスが増殖しているかどうかを、
鼻の粘膜を定時的に取って調べ、
4日後には全て殺して、
その肺の組織で、
ウイルスが増殖しているかどうかを確認します。

確かに意義はありますが、
残酷至極の実験ではありますね。

その結果次のようなことが分かりました。

季節性インフルエンザワクチンだけを打ったイタチでは、
当然血液の新型インフルエンザの抗体は上昇せず、
実際に新型インフルエンザにも感染してしまいました。

新型インフルエンザワクチンを1回注射した群では、
抗体はまずまずの上昇を示し、
新型インフルエンザに感染はしたものの、
肺での増殖はある程度抑制されました。

面白いのはここからで、
最初に季節性インフルエンザワクチンを注射して、
それから新型ワクチンをその1ヶ月後に注射すると、
そのイタチは鼻の粘膜では感染が認められたものの、
肺でのウイルスの増殖は阻止されていました。

最も強力に効果があったのは、
アジュバント入りの季節性ワクチンを打ってから、
その1ヵ月後にこれもアジュバント入りの新型ワクチンを打った群で、
この群のイタチは肺でのウイルスの増殖は、
1匹も認められず、
鼻の粘膜でのウイルスの増殖も抑制されていたのです。

ここから、どういうことが分かるでしょうか?

まず、ノバルティス社のアジュバント入りワクチンに関して言えば、
その効果はアジュバント無しのワクチンより、
明らかに強力で、
新型インフルエンザによる肺炎を、
ある程度予防する効果が期待出来ます。

イタチの実験のレベルではありますが、
新型インフルエンザワクチンの、
実際の感染予防と重症化予防(勿論肺炎に限ったものです)
を今回の実験は立証しています。

更には季節性ワクチンには、
一種のプライミング効果があることが、
今回の結果から想定されます。

新型ワクチンの抗体を、
単独で上昇させることはないのですが、
その前段階の何かを、
季節性ワクチンが誘導しているのでは、
と考えられるのです。

論文の著者の推論は、
細胞性免疫の担い手である、
CD4+というタイプのリンパ球を、
交差免疫として活性化させ、
B細胞による抗体の産生を、
後押しするような作用があるのではないか、
というものです。

ただ、この論文の弱点は、
たかだか6匹のイタチを、
1つのグループとしていることです。
生データを見てみると、
結構な抗体価やウイルス量のばらつきがあり、
これで本当にクリアな結果と言えるのかな、
という疑問は湧きます。

また、この文献は、
明らかにノバルティス社のワクチンの、
宣伝的な臭いがあることも問題点の1つです。
論文の考察では、
アジュバントのMF59に、
リンパ球の誘導作用があるのでは、
という推測がされており、
これは他のメーカーのワクチンとの差別化を図る、
格好の宣伝でもあるからです。

どうやら、ちょっと眉に唾を付ける必要がありそうです。

ただ、ワクチンの効果が実際の感染成立のレベルで、
確認された内容は、
非常に示唆的なものだと僕は思います。

今日は新型ワクチンの効果に迫る、
海外データを考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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あひるん

先生、遅くなりましたが明けましておめでとうございます。

毎日拝見しておりますが、なんせ傍らに怪獣(1歳1ヶ月)がおりますので、なかなかコメントできずにおりました。

今年も宜しくお願い致します。

こちらの記事、私もへぇ〜と思って見ましたが、その後にこういった内容もありました。

豪メルボルン大などの研究チームは、免疫がつきにくい小児も1回で十分な免疫が得られるとの結果をまとめ、米医師会誌に発表した。

 研究チームは、生後6カ月から9歳までの健康な子供を2群に分け、15マイクログラムと30マイクログラムのワクチンを接種し、抗体価を調べた。この結果、1回の投与後、15マイクログラムでは92・5%、30マイクログラムでは97・7%で十分な抗体価の上昇がみられた。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091224-00000026-san-soci

とありましたが、これは接種量や、ワクチンの成分が違うので、日本では当てはまらない内容でしょうか?
もう副反応のリスクは取りたくありませんので、当てはまると期待したいです!
by あひるん (2010-01-08 00:15) 

fujiki

あひるんさんへ
明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

この論文は元を読んでいないので、
ちょっと読んでみます。
ただ、おそらく記事のニュアンスでは、
大人と同じ量を打っているのだと思います。
by fujiki (2010-01-08 06:19) 

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