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Q熱の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は第4土曜日で、
心療内科の専門外来と、
管理栄養士による栄養指導の日です。
朝からカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

Q熱という病気のことが、
先週の某新聞に記事になっていました。
それが例によって、
いささか正確性を欠く、
怪しげなものだったので、
今日はQ熱の話をします。

Q熱とは英語の不明熱という意味合いの略称です。
最も現在も原因が不明だという意味ではなく、
当初原因が不明だったので、
その名で呼ばれ、
原因が判明した後も、
その名前だけが残った訳です。

最初の報告は1935年です。
オーストラリアで屠畜場の作業員に、
原因不明の発熱が流行。
その原因として、
Q熱コクシエラ(coxiella burnetii)が、
検出されたのです。

Q熱コクシエラは、
グラム陰性かん菌というタイプの細菌です。
ただ、通常の細菌よりは小さく、
生きた細胞の中でしか増殖しません。
通常の細菌と区別する意味で、
リケッチアと呼ばれます。
Q熱以外に、
ツツガムシ病の病原体も、
このリケッチアの仲間です。

Q熱コクシエラは人獣共通感染症です。
要するに、動物と同じように、
人間に感染するのです。
人に感染するのは、
主に牛や羊、ヤギ、などからですが、
ペットの犬や猫から感染することもあります。
子宮、乳腺、胎盤で繁殖することが多く、
このため猫の分娩に立ち会ったりすると、
その猫が感染していれば、
人にも高率に感染が起こります。

病原体を含む埃を、
吸い込むことで体内にQ熱コクシエラが入り、
増殖して感染を起こすのです。

Q熱の急性感染の症状は、
通常インフルエンザのような、
高熱と関節の痛みや頭痛です。
症状からインフルエンザとの見分けは付きませんが、
通常治るまでに1~3週間と、
インフルエンザより時間が掛かります。
肝炎と肺炎を起こすことが多く、
原因不明の急性肝炎や肺炎には、
実は結構このQ熱が隠れているのでは、
と言われています。
通常自然に治りますが、
特に免疫が低下した方では、
稀に重症化することがあります。

通常のQ熱は急性の病気ですが、
中には慢性Q熱といって、
Q熱コクシエラの感染が、
半年以上持続し、
心内膜炎という心臓の合併症を起こすことが、
稀にあることが報告されています。
この場合、実に治療は3年以上掛かると言われています。

Q熱の一番の問題点は、
健康保険で可能なような、
簡単な診断法がないことと、
初期症状では他の風邪などと、
見分けが付かないことです。

白血球はそれほど上がらず、
血小板はやや下がることが多いのですが、
それだけでは風邪と見分けは付きません。
血液の抗体の測定が、
有効な方法ではあるのですが、
これは健康保険では出来ない検査なのです。

一部の医療機関や研究機関の調査では、
通常の風邪や気管支炎、
気管支喘息の悪化、
と診断されている患者さんの中に、
結構Q熱が隠れているのだ、
と報告されています。

ただ、その割には、
最近のQ熱の届出数は、
年間数例です。

もし本当に隠れたQ熱の患者さんが多いのなら、
こうした研究施設は、
もっと積極的に診断し、
患者さんの届出を行なうべきです。
これがたとえば年間100例以上の患者さんがいるとなれば、
行政の対応も変わってくる筈だからです。

でも、今のところ、
「俺の施設の診断だと、
Q熱はもっと沢山あるんだぜ」
と言う一種の自慢の発表に終わっていて、
確定診断の積み重ねに至っていないのは、
研究者の了見の狭さが現われていると、
僕は思います。

いつも思うことですが、
こうした日常の診療で、
見逃されがちな病気の診断については、
研究機関に届出をすれば、
患者さんの負担なく、
簡単に検査の出来るような体勢が、
整えられるべきです。
たとえば、保健所を窓口にしてもいいでしょう。
でも、現状では、
ノロウイルスの検査にしても、
診療所で行なうとすれば、
自費でやらざるを得ない訳です。
感染力が強く、
診断の難しい感染症に関しては、
検査を税金で全て賄うようにしても、
少しもおかしくないし、
税金の無駄な使い方ではない、
と考えるのですが、
皆さんはどう思われますか?

話をQ熱に戻しましょう。

Q熱の治療は、抗生物質ですが、
通常多く使われるセフェム系の薬は効かず、
ドキシサイクリンやテトラサイクリン、
ニューキノロンというタイプの薬を、
通常2週間は使用しないと効果がありません。

急性Q熱の後で、
5年以上も微熱とだるさが続く例がある、
という報告があります。
これは主に海外のデータで、
日本にも同様の報告があり、
慢性疲労症候群の原因の1つではないか、
という意見を言われる先生もいます。
ただ、そう思って治療しても良くならず、
結局摂食障害だったとの逆の例もあり、
僕は現時点ではあまり信用性は薄い、
と考えています。

いずれにしても、
犬や猫を飼っていて、
特に分娩後に急な発熱があれば、
要注意ではあるのです。

皆さんもご注意下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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カナダより

7年前のブログにコメントを書くのもどうかと思ったのですが、Googleで検索してきました。私は2002年に池袋病院というQ熱に詳しい先生の所で、慢性Q熱と診断されました。飼っていた犬に事故的に噛まれてしまい、2週ほどの潜伏期間の後に高熱を出し、そのまま熱がひかず、半年後にやっと診断されました。時遅しで、1年間抗生物質を飲みましたが治らず、どうにか生きてくださいと言われ今に至ります。微熱は少しは下がりましたが、14年経ったいまでもあります。首のリンパはいつも腫れていて、なかなかシンドイです。それでもジムで運動したり、仕事もこなしながら、体調が悪い時はひたすらに寝てどうにか生きています。脂肪肝になるのと、横隔膜やら、のどの器官にちょっと問題が出るのと、熱があるのでシンドイのですが、前向きに明るく生きてます。治療法が早く見つかる事を切に願います。
by カナダより (2016-08-15 16:11) 

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