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ドーピングとうつ病とステロイドの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に、
都内の2箇所を廻ります。

それでは今日の話題です。

ステロイドの話を幾つか補足します。

運動選手がドーピングで、
ステロイドを使って筋力を増強させた、
という話がありますよね。

でも、この間お話したように、
ステロイドは筋肉を壊して、
そこから生じたアミノ酸で、
糖を肝臓に作らせる働きがある筈です。
要するにステロイドを使うと、
筋肉は弱くなるのです。
それなのにどうして、
ドーピングのステロイドは筋肉を強くするのでしょうか?

皆さんは分かりますか?

これは勿論、
昨日までお話したステロイドと、
ドーピングのステロイドとは、物が違うからですね。
筋肉を弱めるステロイドは、
「糖質コルチコイド」のことで、
ドーピングに使っているのは、
「蛋白同化ステロイド」です。
この言葉は、
「普通のステロイドは蛋白を壊すんだけど、
このステロイドは蛋白を増やすんだぜ」、
という意味合いです。
その実体は、男性ホルモンの誘導体ですね。
主に精巣で作られて、
精子を作ります。
その代表がテストステロン。
大量に投与すると、
一定の筋肉増強効果があります。
元々はホルモンの働きの悪い方への薬だったのですが、
今はもっぱらドーピングに使われているのです。
両方とも省略して「ステロイド」と呼ぶので、
分かり難くなるのですね。
確かにステロイドの仲間ではありますが、
その性質はかなり違うのです。

それでは次の話題を…

最近注目されているのが、
脳の中での「糖質コルチコイド」の働きです。
1968年に脳の海馬にステロイドの受容体があることが判明。
その後脳の中でのステロイドの作用に注目が集まりました。

うつ病やその他の気分障害では、
血液のステロイドの濃度が上がっていて、
これは脳の中のステロイドの受容体の、
機能低下によるものではないか、
と言われています。

ステロイドが過剰な状態では、
人はうつ状態になることがあります。

ステロイドの多い状態を、
脳はストレスと感知します。
その状態が長く続くと、
脳の中でのホルモンの調節系が崩れ、
ステロイドの多いにも関わらず、
脳の中の刺激ホルモンも出続ける状態になります。
この悪循環が、
ストレスへの心の弱さを作り出しているのではないか、
というのが現在考えられている1つの仮説です。

よく「キレ易い」性格の話がありますよね。
その本態は、CRHという脳の中のステロイド刺激ホルモンだ、
という説があります。
脳の中のステロイドの調節のシステムがバカになって、
受容体の数が減り、
その働きも弱くなると、
抑制が効かずにステロイドがじゃんじゃん出、
身体は自分がストレス状態と思い込んで、
常に切迫した状態になり、
いらいらし易くなるのでは、
という仮説です。

ただ、そのこととセロトニンとの関係など、
まだ分かっていないことも多いのです。

メタボリックシンドロームの原因が、
ステロイドじゃないか、という説もあります。
たまった内臓脂肪の細胞の中で、
「ステロイド活性化酵素」が増えていて、
それが細胞の中のステロイド作用を強くするので、
その影響で血糖があがるのじゃないのか、というのです。
血液のステロイドの量自体は高くないのに、
実際にはステロイドの過剰状態になっている、
という理屈です。
何か、「風が吹けば…」的な感じもしますが、
面白い仮説ではあります。

今日はステロイドの小ネタ色々、
といった感じでお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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