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インフルエンザ集団感染の事例を検証する [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

調布の高齢者が主体の病院で、
今年初めから患者さんと職員を合わせて、
100人以上のインフルエンザの集団感染の事例が、
報道されています。

院長先生の会見によれば、
患者さんの大多数の方は、
インフルエンザのワクチンを打っていました。
要するにワクチンの効果がなかった訳です。

今のところ、感染が確認されたのは、
A香港型のウイルスでした。
これは、例年最も流行しているタイプのウイルスです。
別に新型インフルエンザなどではなく、
現時点では通常の流行だったと考えられます。

では何故、これほどまでに感染が拡大したのでしょうか。

今出ている情報からの、
僕の考えはこうです。

ワクチンの効果は、
小さいお子さんやご高齢の方では、
実際にはかなり低いものです。
ワクチンそれ自体が感染を防ぐ訳ではなく、
ワクチン接種に反応して、
身体が抗体を作り、
免疫を高めることによって効果があるのですから、
それはある意味当然のことです。
ご高齢の方では、免疫の力が弱いことが多く、
ワクチンを打っても、
身体の方が十分に反応してくれないことがあるのです。

ただ、それでは高齢者へのワクチン接種が無効か、
というとそんなことはありません。

僕自身の経験から、そのことをちょっとご説明しましょう。

現在のご高齢の方への予防接種が、
広く行なわれるようになってから、
まだ1年後くらいの時期だったと思います。
(本当は日付ははっきりしているのですが、
守秘義務および、事実の不用意な特定を避ける立場から、
敢えて曖昧に書くことをご了承下さい)

僕の関わっている高齢者施設で、
インフルエンザの集団感染がありました。

最初に80代の女性のAさんが、
ある夜寒気と共に39度台に熱発。
1月27日の夜のことでした。

その施設は全室個室でしたので、
取り敢えず連絡を受けた僕は、
Aさんを部屋から外へは出さないように指示。
翌日診察時にインフルエンザの迅速診断を行ない、
インフルエンザと診断しました。
その頃はまだ、A型とB型とを判定するキットは、
流通していなかったので、
患者さんのご家族の許可を得て、
採血をし、インフルエンザの抗体の検査も、
同時に行ないました。

Aさんはその2年前から、
毎年インフルエンザのワクチンは、
打っていました。
その当時から「新型インフルエンザ」の、
流行の可能性は言われていたので、
型の判別の必要性がある、
と判断したのです。

結果を見て、僕は驚きました。

毎年ワクチンを打っていたにも関わらず、
Aさんのインフルエンザの抗体は、
A香港型、Aソ連型、B型の、
いずれも10倍と陰性でした。
要するに、インフルエンザの免疫は、
全然ない状態だったのです。

まあ、ワクチンが効かない人というのは、
こんなものなのですね。

Aさんの胸はゼーゼーと音を立てていて、
肺炎の併発が疑われました。
こうしたケースで、最も危険なのが食事です。
具合の悪い状態で食事をすると、
高率にむせこんで、
肺炎を悪化させたり、
元はなかった肺炎を、
新たに発生されたりするからです。
僕はAさんの食事を一端ストップし、
点滴で水分の補給を行ないました。
薬はタミフル(リン酸オセルタミビル)と、
抗生物質を使いました。

その翌日、今度はAさんのそばで食事をしていた、
2人のお年寄りが、
揃って夕方から高熱を出しました。
検査をするまでもなく、
Aさんから感染したのです。
そのお二人にも同様の対応を取りました。

その翌日には新たな熱発はありませんでしたが、
これで終わる訳はない、
という予測はありました。
当然Aさんから感染したお年寄りが、
その周辺に感染を拡大している可能性が考えられたからです。

案の定…

その2日後に同じフロアの3人が熱発しました。
感染者はこれで6人になったのです。

感染者が3人になった時点で、
保健所には一報を入れました。
手洗い、マスクなどの一般的な指示が出され、
スタッフに周知徹底を図りました。

この時点で僕の考えたことは、
まだ掛かってはいないけれど、
掛かると重症化が予想されるような入所者を、
逆にお部屋から出さないようにする、
ということです。
今までに何度も肺炎を繰り返していたり、
具合が悪くなると食事を取らず入院が必要になるような方が、
何人かいましたので、
そうした方にお部屋から数日出ないで頂き、
予防的にタミフルを数日飲んでもらいました。
インフルエンザの潜伏期は、
長くても3日です。
3日後の感染の拡大に備えたのです。

それともう1つ、
感染した方が合併症で悪化しないための対策です。
熱が出て2日の間は、
原則絶食にして、
点滴で水分を補いました。
先にも書きましたように、
具合の悪い時に食事を取って、
むせて肺炎になることが、
重症化のきっかけになることが多いからです。

実際調布の病院の事例でも、
亡くなられた3名の方は、
いずれも肺炎を起こしています。
これは僕の推測ですが、
インフルエンザ自体の肺炎の可能性は低く、
おそらくはむせこみなどによる、
二次的な細菌の肺炎の可能性が高いと思います。

お年寄りの感染症の場合には、
こうした合併症がその後の経過を分けるのです。

幸いその後3日を経過しても、
熱を出す方は、それ以上は出ませんでした。
集団感染は、何とか6名で終息したのです。

最初に感染したAさんが、
結果的には一番重症だったのですが、
2月1日(発病6日目)には微熱になり、
2月3日にはほぼ改善されました。
一時は入院も考えたのですが、
その必要はなく回復されたのです。

問題として残ったのは、最初のウイルスが、
何処から持ち込まれたかということです。
実はAさんが熱を出す数日前から、
同じフロアの介護職員が、
体調を崩していたことが後から分かりました。
この職員がインフルエンザに感染し、
Aさんの介護をしたことで、
Aさんはインフルエンザに感染したのです。
この職員は、インフルエンザのワクチンは打っていませんでした。

発熱から3週間後にAさんの血液の抗体を測定。
A香港型の抗体価が640倍に上昇しており、
A香港型の感染と診断しました。

この事例のあった翌年からは、
ほぼ全員の入所者と職員に、
インフルエンザの予防接種を行ないました。
その翌年には感染はありましたが、
入所者は2名のみで済みました。
その翌年からしばらくは、
はっきりした入所者の感染は殆ど出ていません。

僕の言いたいことはこうです。
ある閉ざされた集団では、
何年かワクチン接種を繰り返せば、
抗体の上がり易い方は免疫が出来ますし、
免疫の出来ない方は、
周囲の方に守られて、
少なくとも集団感染は起こし難い状況になります。
この意味で、確実にワクチンは効果があります。
しかし、個別の方を抽出すれば、
ワクチンを幾ら打っても、
Aさんのように無効の方はいるのです。
従って、濃厚に接触する介護の職員が、
絶対にウイルスを持ち込まないことが重要です。

調布の事例では、
ワクチンを打っているとは言っても、
患者さんも職員も全員ではなく、
希望者のみの接種であったようでした。
しかし、特に職員を希望者のみの接種にすると、
感染防御意識の低い職員に限って、
ワクチンも打たない、
という悪いパターンになり易いのです。
勿論ワクチンは副作用もあるものですから、
全員に強制するのは正しい方法ではありません。
しかし、ワクチンを打たない職員には、
より感染対策の教育を強化するなど、
注意深い取り組みが必要です。

また、患者さんは病院なので、
当然入れ替わりがあり、
ワクチンを打っている、という情報だけで、
どの程度の免疫状態にあるかの判断は困難です。
治療の効率を考えて病室を割り振ると、
結果として、
免疫状態の低い患者さんを同じ場所に集めてしまい、
感染の広がり易い環境を、
作ってしまう可能性がある訳です。
おそらくはそうした幾つかの悪条件が重なって、
今回の事例は起こったものと考えられます。

今日は調布の集団感染の事例に、
僕自身の経験した事例を加えて、
インフルエンザの集団感染についての検証をお届けしました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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