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スタチン関連自己免疫性ミオパチーの話 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スタチンによる自己免疫性筋炎.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
スタチンというコレステロール降下剤の、
稀な有害事象についての総説です。

スタチンというのは、
コレステロールの合成酵素を阻害する薬で、
その作用によって、
血液中のコレステロールを強力に低下させる作用があります。

それに併せて、
抗炎症作用などの副次的な作用もあるとされ、
動脈硬化性疾患、
特に心筋梗塞の予防薬として、
その有用性は確立しています。

スタチンは基本的には安全性の高い薬ですが、
その広範な使用に伴い、
多くの有害事象や副作用も報告されています。

その中でも多いと考えられているのが、
筋肉の細胞を不安定にして、
筋肉痛や筋炎、筋脱力などの症状を来すという、
筋肉に関する有害事象です。

その判定のためには、
血液のCPK(もしくはCK)
という検査値を使用します。

スタチンの使用後に、
CPKが基準値を超えて上昇すれば、
筋肉の細胞が壊れている可能性を疑います。

正常上限の2倍程度までの上昇であったり、
一時的で改善するような上昇である場合には、
筋脱力や筋肉痛などの症状がなければ、
スタチンの使用は続行されるのが一般的です。
それを超えるような上昇が持続したり、
症状を伴う場合には、
一旦スタチンの使用を中止して慎重に経過をみます。

多くのケースではそれだけで、
速やかにCPKは正常化します。

ところが…

稀に重篤なケースもあることが報告されています。

年間1万人に1人くらいの頻度で、
横紋筋融解症と呼ばれるような、
重篤な筋肉の破壊が起こることがあります。
ただ、その多くのケースにおいては、
スタチンの中止のみで症状は改善に向かいます。

更に稀なケースとして、
自己免疫性の筋炎(ミオパチー)が、
スタチンの使用により起こる事例のあることが、
近年明らかになりました。

スタチンを使用する患者さんのうち、
10万人に2から3例くらいの頻度で、
この自己免疫性ミオパチーは発症します。

この病気は、
どのスタチンでも起こる可能性があり、
使用後すぐに症状が出現することもある一方、
数年間何の異常もなく服用を継続していたのに、
突然に発症することもあります。

両側の太ももなどに筋肉の痛みがあり、
筋力は低下して、
椅子から立ち上がったり、
階段を昇ったり、
物を持ち上げることなどが困難になります。
筋脱力は概ね軽度ですが、
重症の事例も報告されていて、
湿疹や関節痛を伴うこともあります。

血液検査を行なうと、
正常上限の10倍以上にCPKは上昇しています。
(90%の患者さんでは2000 IU/L以上になると記載されています)
両側で太ももなど身体の中心に近い部分の筋脱力が起こります。
そして、この症状はスタチンを中止しても、
持続したり悪化することが多いのです。

MRIの検査では筋肉の浮腫が認められ、
筋生検では、
筋細胞の壊死とマクロファージという炎症細胞の浸潤が認められます。
他に少数ながらリンパ球の浸潤も認められ、
これは自己免疫性壊死性筋炎の所見として合致しています。

コレステロールの合成酵素である、
HMG-CoAリダクターセに対する抗体が、
この生検組織において高頻度で検出されています。

HMG-CoAリダクターセに対する抗体は、
スタチンの使用により誘導されることが示唆されています。
ある報告ではこの病気の50歳以上の26名中24名において、
この抗体が検出されています。
更にはこの病気のないスタチン使用患者においては、
抗体の陽性が確認されていません。

ただ、HMG-CoAリダクターセは、
筋肉細胞の表面には存在していないので、
抗体がどのようなメカニズムで細胞の壊死に結び付くかについては、
まだ、明らかではないようです。

上記文献にあるアルゴリズムでは、
スタチンを使用中の患者さんで筋肉の症状があった場合には、
まずCPKを測定し、
その数値が2000を超えている時には、
まずスタチンを中止して8週間後に、
症状の改善の有無とCPKの低下の有無を確認。
CPKが再度2000を超えていれば、
筋生検を行なってHMG-CoAリダクターセ抗体の有無を、
検査する必要があると記載されています。

この病気においては、
スタチンを中止しても症状は改善しないことが多いので、
免疫抑制療法が施行されます。
筋脱力は軽症のことが多いで、
通常は体重1キロ当たり1ミリグラムの、
プレドニンが使用されることが多く、
その治療により8から12週間で症状の改善が認められない場合には、
免疫グロブリンやリツキシマブなどの使用が考慮されます。
糖尿病のあるケースなどでは、
最初から免疫グロブリンが選択されることもあります。
その予後は概ね良好とされていますが、
実際には精度の高い臨床試験は行われていないので、
正確な治癒率のようなデータは、
存在していないのが実状です。

それでは今日のまとめです。

極めて稀ですが、
コレステロール降下剤の使用後に、
コレステロールの合成酵素に関連する自己抗体が産生され、
それが筋肉を破壊してミオパチーの症状を出すことがあります。
スタチンを使用開始していて数年後に起こることもあるので、
初期でないからスタチンと無関係、
というような判断は出来ません。
階段が昇り難いなどの軽度の症状が多く、
血液のCPKは通常2000を超えて上昇し、
スタチンを中止して8週間が経っても、
CPKは低下することがありません。
こうしたケースでは速やかに筋生検を施行し、
診断を確定する必要があります。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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かぶひろ

石原先生、ご無沙汰しております。
先生は覚えていらっしゃらないと思いますが、5年前、胃カルチノイドと診断され、どのような手術を選択しようか迷った時に、六号通り診療所様のHPに出会い、質問させていただき、アドバイスをいただいたものです。腹腔鏡手術の部分切除で、転移・再発もなく元気になりました。が、半年前より、右首に腫瘍のようなものができ、痛みもあり・・・地元のお医者様→大学病院と検査をしましたが、診断が付かず、痛みも治らず、腫瘍もあるまま・・・。その間には、突然の右側頭痛で意識を失い、救急車で搬送されたりしてしまいました。喉にも違和感があり、違うお医者様に行き、いちを首の腫瘍のことを話したところ、そのもの自体が脈を打っているみたいだから、しっかり調べたほうがいいと言われました。
今までは、リンパ腺じゃないか?とか、耳下腺じゃないか?と言われておりましたが、そのお医者様には、頚動脈では?と。
頚動脈の腫瘍でいろんなサイトを見ていたところ、石原先生のブログに行き着き、胃カルチノイドの時を思い出し、驚いてしまいました。
明日、埼玉の大学付属の病院に行きますが、石原先生に読んでいただきたくて、コメントしてしまいました。
いろいろなお話を継続されていて、本当に驚きました。
by かぶひろ (2016-02-25 17:51) 

fujiki

かぶひろさんへ
首の腫瘍は色々な科にまたがるので、
その実態がはっきりしないと、
たらい回しになりやすくて難しいですね。
確かに循環器に関わるようなものの、
あるかもしれません。
by fujiki (2016-02-26 07:05) 

かぶひろ

石原先生
コメントありがとうございます。
違う大学病院での検査が続くことになりました。
まだまだ子供も学生なので、きちんと治療したいと思います。

by かぶひろ (2016-02-27 10:45) 

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