SSブログ

ホジキンリンパ腫治療後の二次発癌リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは今日からいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ホジキンリンパ腫の二次ガン発症リスク.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
ホジキンリンパ腫という悪性リンパ腫の一種の、
治療後に発生する二次癌のリスクを、
長期間検証した論文です。

ホジキンリンパ腫は悪性リンパ腫と言われる病気の1つで、
日本では比較的少ない血液の癌ですが、
最近増加傾向にある、という統計もあります。

ホジキンリンパ腫の治療は、
放射線治療と抗癌剤による化学療法との併用がその柱で、
1960年代の後半にこうした併用療法が導入されて以降、
その生命予後は格段に改善しました。

ところが…

このホジキンリンパ腫の今では古典的な治療法は、
広範囲に大量の放射線を浴びせ、
アルキル化剤と呼ばれる毒性の強い抗癌剤を使用するため、
その治療の影響による二次癌が高率に発症することが、
その後大きな問題となりました。

この場合の二次癌というのは、
ホジキンリンパ腫の治療を行なわなければ、
発症はしなかったと想定される癌のことです。

この二次癌には、
白血病や非ホジキンリンパ腫という血液の癌や、
肺癌や乳癌、大腸癌などの固形癌の両方が含まれています。
二次癌の発症はホジキンリンパ腫の治療後、
5から10年で明確になり、
その影響は25年を超えて継続するとされています。

通常癌の治療成績というのは、
治療後5年間の成績で評価されますから、
その後に発症する二次癌の問題は、
これまであまり顧みられることがなかったのです。

それでは、
ホジキンリンパ腫の治療の、
何が二次癌の発症に繋がっているのでしょうか?

一番考えられるのはかなり広範囲で、
全身に及ぶこともある放射線照射です。
リンパ節をターゲットにしている訳ですが、
周囲の組織にも少なからず影響を与えるので、
その部位の癌の発症に繋がることは、
当然想定が可能です。

それから古典的な抗癌剤であるアルキル化剤も、
白血病などの発癌促進に結び付く可能性が指摘されています。

このため、
ホジキンリンパ腫の治療は、
アルキル化剤を減らして複数の抗癌剤を併用し、
放射線治療は、
化学療法の効果を見た上で、
ターゲットを絞って行なうように変更が加えられました。

それでは、
こうした治療法の変更により、
本当に二次癌は減少したのでしょうか?

今回の研究はオランダにおいて、
ホジキンリンパ腫に対する治療を開始してから、
5年以上の生存が確認されている3905例を登録し、
その後平均で19.1年の経過観察を行なって、
治療開始後5年後以降に発症した、
ホジキンリンパ腫以外の癌の発症を、
二次癌と定義して、
そのリスクを一般住民の発癌リスクと比較して検証しています。
患者さんの登録時の年齢は15から50歳で、
治療は1965年から2000年に掛けて行われています。
仮に治療法の改善により二次癌が減少したとすれば、
そのリスクは当然最近では少なくなっている筈です。

その結果…

全観察期間中に、
908例で1055個の二次癌が診断され、
その発症リスクは、
一般人口の4.6倍という高値になっていました。
治療後35年以降でもそのリスクは3.9倍と高値で、
治療後30年の時点までに、
登録された患者さんの33.2%に二次癌が発症し、
治療後40年の時点までに、
48.5%の患者さんに二次癌が発症していました。
比較した一般人口においては、
30年の累積癌発症率が9.6%で、
40年の累積癌発症率は19.0%ですから、
明らかに過剰な癌が発症し続けていることが分かります。
過剰リスクの要因となっている癌は、
肺癌、乳癌、消化器癌と非ホジキンリンパ腫が多く、
白血病はそれほどの比率ではありませんでした。

ホジキンリンパ腫の治療が行われた期間を、
1965年から76年と、
1977年から88年、
そして1989年から2000年の、
3つに区分して比較した結果では、
トータルの二次癌のリスクには差はありませんでした。

要するに、
ホジキンリンパ腫の治療を行なうことにより、
その治療には成功しても、
患者さんにはその後40年以上に渡り、
二次癌の発症リスクの増加が起こり、
それはトータルには治療の方法の進歩には影響されていない、
という、ややショッキングな結果です。

ただ、細かく見ると、
乳癌のリスクは広範囲の放射線照射により増加していて、
より限局的な放射線治療により低下しています。
ただ、乳癌以外のリスクの増加は、
そうしたこととは無関係に生じているのです。

こうした統計は日本にはありませんし、
ホジキンリンパ腫の治療方針も、
全く同じではありませんから、
この結果がそのまま日本で当て嵌まるとは言えませんが、
ホジキンリンパ腫の治療により、
その後長期に渡る二次癌のリスクが増加することは、
間違いのない事実で、
その原因となるメカニズムが、
完全に解明されていないことも事実であるので、
患者さんへの充分な説明と、
治療終了後長期に渡る適切な癌のチェックは、
不可欠なものであることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(31)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 31

コメント 1

いっぷく

非ホジキンリンパ腫についても興味がありますね
by いっぷく (2016-01-06 01:23) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0