降圧治療の方法とその効果について(2015年のメタ解析) [医療のトピック]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックの年内の診察は今日までになります。
本日は午前午後とも通常通りの診療で、
年明けは1月5日からになります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌にウェブ掲載された、
降圧療法の心血管疾患予防効果を検証した論文です。
これは今までの臨床試験のデータなどを、
まとめて解析したメタ解析の論文ですが、
収縮期血圧が130を切るような目標を設定した降圧治療が、
実際に有効であることを確認する内容になっています。
大規模な疫学データを解析した結果としては、
血圧が115/75を超えると、
それより高ければ高いほど、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患は増加する、
という明確な傾向があることが確認されています。
このデータは年齢は40から89歳の範囲において、
男女差や人種差はなく成立しているとされています。
つまり、血圧が高いことは心血管疾患のリスクになるのです。
しかし、それでは目標を定めて、
薬剤により血圧を下降させることより、
心血管疾患が予防出来るのか、
ということになると、
そこまで明確なことが実証されている訳ではありません。
ある時点で治療をせずに血圧が120であるということと、
薬剤を使用して低下した血圧が120である状態とは、
同一ではないからです。
概ね収縮期血圧が150を超えるレベルでは、
その方の背景や持病に関わらず、
血圧を薬で低下させることにより、
一定の心血管疾患の予防効果のあることはほぼ明らかです。
しかし、140を下回るくらいの収縮期血圧になると、
データはどのような集団に対して、
どのような方法を用いて治療を行なうのかによっても、
導かれる結論には大きな相違があります。
以前もご紹介したように、
2型糖尿病の患者さんを対象とした、
ACCORDと呼ばれる大規模臨床試験では、
収縮期血圧を120未満に低下させることの有用性は、
確認をされませんでした。
その一方で今年発表されて大きな話題となった、
SPRINT試験という大規模臨床試験では、
糖尿病以外の心血管リスクのある患者さんを対象として、
収縮期血圧を120未満とする降圧が、
140を目標とする降圧治療と比較して、
心血管疾患のリスクを25%有意に低下させる、
というデータが得られています。
今回のデータはこれまでのデータをまとめて解析したメタ解析で、
上記のACCORDとSPRINT試験も勿論含まれています。
トータルで125の研究の613815人のデータを解析した結果として、
上の血圧が130を切るような降圧治療により、
10mmHg血圧を降下させることにより、
心血管疾患のリスクを20%、
虚血性心疾患のリスクを17%、
脳卒中のリスクを27%、
心不全のリスクを28%、
それぞれ有意に低下させていました。
更に住民研究のみにおいては、
総死亡のリスクも13%有意に低下させていました。
ただ、腎不全のリスクについては、
有意な低下は認められませんでした。
この降圧による心血管疾患予防効果は、
糖尿病の患者さんと腎臓病の患者さんにおいては、
そうでない患者さんと比較して、
やや弱まる傾向が認められました。
降圧剤の種類と効果との関連については、
βブロッカーの心血管疾患、脳卒中、腎不全への予防効果は、
他の薬剤より劣っていて、
脳卒中の予防効果はカルシウム拮抗剤が最も優れていました。
また、心不全の予防に関しては、
利尿剤が最も優れ、
カルシウム拮抗薬は他の薬剤より劣っていました。
トータルに見ると、
130を切る降圧目標を設定することにより、
心血管疾患の予防効果は全ての患者さんにおいて確認されていますが、
糖尿病の患者さんでは有効性はあるものの、
糖尿病でない患者さんと比較すると効果は低く、
腎不全の予防効果は確認されていません。
βブロッカーは降圧のみの目的として使用する薬剤としては、
あまり適切とは言えず、
心不全のリスクが高いケースでは利尿剤を優先して降圧を行ない、
脳卒中のリスクが高いと想定されれば、
カルシウム拮抗薬を優先して使用することが、
より高い予防効果につながると考えられます。
SPRINT試験がNew England…誌に載り、
Lancet誌にこのメタ解析が掲載されたことで、
降圧治療の世界的な考え方は、
どうやらこの方向にシフトすると考えて良さそうです。
全てを鵜呑みにする必要は勿論ないと思いますが、
臨床医の端くれとしては、
「あいまいな降圧」
「何となく血圧の薬」ではなく、
どのような予防効果を期待して、
どのような薬剤を用い、
どのレベルの降圧目標を設定するのかを、
患者さんとともに考えて、
共通の方向性を個別に設定することを、
日々の診療の中で心がけたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
クリニックの年内の診察は今日までになります。
本日は午前午後とも通常通りの診療で、
年明けは1月5日からになります。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のLancet誌にウェブ掲載された、
降圧療法の心血管疾患予防効果を検証した論文です。
これは今までの臨床試験のデータなどを、
まとめて解析したメタ解析の論文ですが、
収縮期血圧が130を切るような目標を設定した降圧治療が、
実際に有効であることを確認する内容になっています。
大規模な疫学データを解析した結果としては、
血圧が115/75を超えると、
それより高ければ高いほど、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患は増加する、
という明確な傾向があることが確認されています。
このデータは年齢は40から89歳の範囲において、
男女差や人種差はなく成立しているとされています。
つまり、血圧が高いことは心血管疾患のリスクになるのです。
しかし、それでは目標を定めて、
薬剤により血圧を下降させることより、
心血管疾患が予防出来るのか、
ということになると、
そこまで明確なことが実証されている訳ではありません。
ある時点で治療をせずに血圧が120であるということと、
薬剤を使用して低下した血圧が120である状態とは、
同一ではないからです。
概ね収縮期血圧が150を超えるレベルでは、
その方の背景や持病に関わらず、
血圧を薬で低下させることにより、
一定の心血管疾患の予防効果のあることはほぼ明らかです。
しかし、140を下回るくらいの収縮期血圧になると、
データはどのような集団に対して、
どのような方法を用いて治療を行なうのかによっても、
導かれる結論には大きな相違があります。
以前もご紹介したように、
2型糖尿病の患者さんを対象とした、
ACCORDと呼ばれる大規模臨床試験では、
収縮期血圧を120未満に低下させることの有用性は、
確認をされませんでした。
その一方で今年発表されて大きな話題となった、
SPRINT試験という大規模臨床試験では、
糖尿病以外の心血管リスクのある患者さんを対象として、
収縮期血圧を120未満とする降圧が、
140を目標とする降圧治療と比較して、
心血管疾患のリスクを25%有意に低下させる、
というデータが得られています。
今回のデータはこれまでのデータをまとめて解析したメタ解析で、
上記のACCORDとSPRINT試験も勿論含まれています。
トータルで125の研究の613815人のデータを解析した結果として、
上の血圧が130を切るような降圧治療により、
10mmHg血圧を降下させることにより、
心血管疾患のリスクを20%、
虚血性心疾患のリスクを17%、
脳卒中のリスクを27%、
心不全のリスクを28%、
それぞれ有意に低下させていました。
更に住民研究のみにおいては、
総死亡のリスクも13%有意に低下させていました。
ただ、腎不全のリスクについては、
有意な低下は認められませんでした。
この降圧による心血管疾患予防効果は、
糖尿病の患者さんと腎臓病の患者さんにおいては、
そうでない患者さんと比較して、
やや弱まる傾向が認められました。
降圧剤の種類と効果との関連については、
βブロッカーの心血管疾患、脳卒中、腎不全への予防効果は、
他の薬剤より劣っていて、
脳卒中の予防効果はカルシウム拮抗剤が最も優れていました。
また、心不全の予防に関しては、
利尿剤が最も優れ、
カルシウム拮抗薬は他の薬剤より劣っていました。
トータルに見ると、
130を切る降圧目標を設定することにより、
心血管疾患の予防効果は全ての患者さんにおいて確認されていますが、
糖尿病の患者さんでは有効性はあるものの、
糖尿病でない患者さんと比較すると効果は低く、
腎不全の予防効果は確認されていません。
βブロッカーは降圧のみの目的として使用する薬剤としては、
あまり適切とは言えず、
心不全のリスクが高いケースでは利尿剤を優先して降圧を行ない、
脳卒中のリスクが高いと想定されれば、
カルシウム拮抗薬を優先して使用することが、
より高い予防効果につながると考えられます。
SPRINT試験がNew England…誌に載り、
Lancet誌にこのメタ解析が掲載されたことで、
降圧治療の世界的な考え方は、
どうやらこの方向にシフトすると考えて良さそうです。
全てを鵜呑みにする必要は勿論ないと思いますが、
臨床医の端くれとしては、
「あいまいな降圧」
「何となく血圧の薬」ではなく、
どのような予防効果を期待して、
どのような薬剤を用い、
どのレベルの降圧目標を設定するのかを、
患者さんとともに考えて、
共通の方向性を個別に設定することを、
日々の診療の中で心がけたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2015-12-28 07:38
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