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生体吸収スキャフォールドはステントより優れているのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血管スキャフォールドとステントの比較.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
生体吸収性スキャフォールドという、
心臓の血管のカテーテル治療に用いる、
新しい器具の効果と安全性とを検証した臨床試験の論文です。

ステントという器具があります。
これは金属製の細い管のようなもので、
急性心筋梗塞などで、
心臓を栄養している冠動脈という血管が、
閉塞したり高度に狭窄しているような場合に、
そこに挿入され留置されます。

金属の筒で強引に血管を広げるのですから、
少なくとも一時的には狭窄は解除され血流は再開します。

しかし、その場所に傷を付けて異物を挿入するので、
ただの金属の筒では、
しばらくすると高頻度に血栓が出来たり、
ステントの内側に細胞が増殖して、
ステントが閉塞する、という事態が生じました。

そのために、
細胞の増殖を防ぐような特殊な薬剤が、
ジワジワと染み出すような、
薬剤溶出性ステントと呼ばれる器具がその後開発されます。

この薬剤溶出性ステントの使用により、
ステント挿入早期に生じる血栓や再狭窄は、
かなり減少しました。

しかし、それでもゼロに出来ないのは、
より長期的な合併症の発症です。

かなり時間が経ってから、
ステントの内部に再び血栓が形成されることがありますし、
ステント挿入1年以内に、
20から30%の患者さんは狭心症を再発している、
というような統計もあります。

こうしたことが起こる要因はおそらく、
ステントという金属が、
血管に留置されたままになっている、
という状態にあるように想定されます。

異物が血管内にあることにより、
その周囲では慢性的な炎症が起こっています。
それが、血栓を形成し易くしたり、
動脈硬化を進行させる要因になっているのです。

つまり、急性心筋梗塞を来たした時には、
応急避難的に金属で無理矢理に血管を広げても良いのですが、
そうした状態が長く続いていることは適切とは言えないのです。

それでは、
挿入時には金属と同じように血管を広げるけれど、
徐々に身体に吸収されるような成分で、
ステントを作ることが出来れば、
この問題は極めてスマートに、
解決するのではないでしょうか?

その目的のために開発されたのが、
生体吸収性スキャフォールドという器具です。

これはステントと同様に一時的に血管を広げることが出来ますが、
生物組織と同じ材料で作られていて、
徐々に吸収される性質を持っています。
更にはエベロリムスというステントにも使用されている、
細胞増殖を阻害する薬剤が、
ジワジワと溶出するような機能も持っています。

こうしたステントの代用としての、
血管スキャフォールドには、
2011年に開発されたAbbott Vascular社の製品と、
2013年に開発されたElixie Medical社の製品があります。

今回の臨床研究は、
このうちのAbbott Vascular社のシステムを、
従来の薬剤溶出性ステント(Xienceという製品です)と比較して、
挿入後1年の時点での成績を見たものです。

対象となっているのは、
アメリカとオーストラリアの複数施設で登録された、
2008名の安定もしくは不安定狭心症の患者で、
くじ引きで血管スキャフォールドを挿入する1322例と、
薬剤溶出性ステントを挿入する686例に分け、
挿入後の予後を比較しています。
観察期間は5年間ですが、
今回は1年の時点での結果が報告されています。
試験はまだ続行中です。

その結果…

留置後1年の時点までの、
留置部位の心筋梗塞や虚血による再治療、
そして心疾患による死亡を併せた頻度は、
血管スキャフォールド群が7.8%に対して、
薬剤溶出性ステント群では6.1%に発生していました。
また1年以内の器具内の血栓症は、
血管スキャフォールド群で1.5%に対して、
薬剤溶出性ステント群では0.7%に発症していました。

いずれの比率も、
血管スキャフォールド群の方が高いのですが、
その差は事前に設定された基準以内のものであったので、
血管スキャフォールドの安全性と効果は、
薬剤溶出性ステントより劣ってはいない、
「非劣性」と判断されています。

これはちょっと微妙な結果です。

シンプルに考えると、
金属よりも生体由来の成分で作られた器具の方が、
血栓などの合併症は少なくても良い筈ですが、
実際にはそうはなっていません。
どちらかと言えば頻度的には多いのです。

論文と同じ雑誌の解説記事では、
この試験が通常より血管スキャフォールドの非劣性が生じ易いように、
基準や方法が甘く設定されているのではないか、
という批判的な内容が記載されています。

今後まだより長期の成績を見ないと何とも言えませんが、
施行以前の期待と比較すると、
現行の改良版のステントと比較して、
より優れた効果が血管スキャフォールドにあるとは、
今のところは言えない成績であるようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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