SSブログ

井上ひさし「藪原検校」(2015年上演版) [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。

休みの日は趣味の話題ですが、
今日はまず演劇の感想が1本、
それからオペラの感想が1本、
そして最後にいつもの日曜日の「日本のアングラ」に、
続きます。

それでは最初はこちら。
藪原検校.jpg
1973年に木村光一演出で初演された、
井上ひさしの「藪原検校」が、
2012年に栗山民也演出で完全リニューアルされ、
非常に素晴らしい舞台で感銘を受けました。
その感想はこちら。
http://blog.so-net.ne.jp/rokushin/2012-06-16
今回はその3年ぶりの再演で、
演出は同じですが。
主役の野村萬斎以外のキャストはほぼ一新されています。

前回の公演は、
かつてのアングラ藪原検校の復活、
という感じの素晴らしいものでしたが、
小劇場の演技派集結、という感じの、
非常に豪華なキャストでした。

それが今回は大分地味な感じになっています。

これで大丈夫なのかしら、
とちょっと危惧する思いがあったのですが、
むしろこの座組の方が落ち着きのある感じで、
そう悪くはありませんでした。

中越典子はなかなか雰囲気のある芝居でしたし、
辻萬長の塙保己市が非常に良く、
この役に関しては、
僕がこれまでに観た5種類の座組の中で、
最も良かったと思います。

ただ、狂言回しの盲太夫は、
かつての金内喜久夫の当たり役で、
前回の浅野和之も、
あれだけ器用な人が、
まだ自分の役にしている、という感じではありませんでした。

今回の山西淳は、
井上ひさしのコントの公演での、
井上本人役の芝居がなかなか良かったので、
それでの抜擢のように思います。
ただ、この役は講談などの芸能の1人語りの呼吸でやらないと、
その風情が出ないので、
そうした技量のない、
小劇場語りの山西さんでは、
駄目なように思いました。

たとえば、最初に藪原検校のテーマ曲が流れ、
それが終わった瞬間に、
「さて、この藪原検校…」
という台詞になるのですが、
この「さて」が、
芸能の1人語りの呼吸ではなく、
普通の朗読の呼吸で少し低めに入るので、
それだけでテンポが作れず、
聞いていると舞台に隙間風が吹くような感じになるのです。

これでは駄目です。

井上ひさしの台本自体が、
その意味では芝居の呼吸で書けていないので、
それを役者が修正しながら演技しないといけないのです。

この作品はそもそもアングラ演劇のパロディ的色彩の強いもので、
初演の演出家の木村光一さんは、
当時最盛期のアングラ芝居に憧れ、
この作品で自分なりのアングラ演出を試みたのです。

一番近いと思われれるのは、
黒色テントの「鼠小僧次郎吉」のシリーズです。

これはブレヒトをお手本にした歌芝居で、
それを新劇的に咀嚼したのが木村演出。
それをリスペクトしながら再構成したのが、
今回の栗山演出です。

今回の演出はトータルには初演を更にブラッシュアップしたものですが、
盲太夫の語りの処理と藪原検校の早物語の部分、
つまり芸能物的な部分については、
あまり上手く咀嚼がされていないように思います。

今回の上演でもう1つ問題があったのは、
主役の野村萬斎さんの演技です。

これはどうなのでしょうか?

初演では周りも怪優揃いだったので、
それほど気にならなかったのですが、
萬斎さんの演技は意図的なものなのかどうか、
かなり荒れていて、
狂言のエキスパートである筈なのに、
滑舌が悪くて台詞が良く聞き取れません。
更には盲目の設定なのに、
まるでそうは見えず、
普通に目を開いて芝居をしていて、
視線の移動が感じられるような部分が多くありました。

別に目を閉じないといけない、
ということではないのですが、
これだけ盲目であることを演技で表現しない藪原検校を、
僕は今回初めて観ました。

早物語の語りは、
萬斎さんの独壇場の筈ですが、
語りは単調で面白みがなく、
台詞も多くは聞き取れません。
何故こうした杜撰な芝居で良しとしているのか、
僕には全く理解が出来ませんでした。

意図的に崩しているとすれば、
それは絶対に誤りで、
少なくとも台詞はそのまま客席に届けるような演技が、
必須ではないかと考えます。
藪原検校の怪物性を表現するには、
他の部分で十分可能であり、
それこそ萬斎さんが専門の筈の、
古典芸能の方法論である筈だからです。

そうした訳で、
演出と復活した初演時の井上ひさしの実兄による音楽には、
前回と同じくとても楽しい時間を過ごした観劇でしたが、
萬斎さんの芝居にはとても納得することが出来ず、
やや当惑した思いで会場を後にすることになったのでした。

最後に1つ補足したいのですが、
上演パンフレットの記載では、
初演のみが井上滋さんの音楽のように書かれていますが、
実際には僕が観た1979年版でも、
井上滋さんの音楽で自身がギター演奏をされていて、
音楽が完全に別物になったのは、
1980年以降のことだと思います。
また当時の楽譜がないように書かれていますが、
1979年のパンフレットにも、
2曲の楽譜がそのまま載せられていて、
そうしたことはなかったように思います。

証拠として、
その楽譜を載せておきたいと思います。
藪原検校の歌.jpg
それでは次はオペラの感想に移ります。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0