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フッ素(フッ化物)による甲状腺機能低下症 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
フッ素による甲状腺機能低下症.jpg
今月のJ Epidemiol Community Health誌に掲載された、
フッ素(フッ化物)による甲状腺機能低下症のリスクを検証した文献です。

この雑誌は、
British Medical Journal誌の姉妹誌で、
疫学の専門誌です。

フッ素は通常フッ化物という形で、
土壌に広く分布する微量元素で、
食品や水を介して人間の身体に入ります。

フッ素は身体では骨と歯に取り込まれ、
それ以外は速やかに排泄されます。

この骨と歯におけるフッ素の役割は、
完全には解明されていません。
歯においてはフッ素が歯の再石灰化を促し、
虫歯を予防する働きがあることは広く知られていて、
フッ素を歯に塗布したり、
フッ素入りの歯磨きを使用したりする予防法は、
今でも広く行なわれています。

骨に対する作用は歯の場合ほど明確には分かっていません。
フッ化物濃度が高い地域の高齢者では、
骨折の頻度が低かった、というような報告はありますが、
そうした差はなかったとする報告もあります。

1つ明確なことは、
多量のフッ素が体内に持続的に入ると、
一種のフッ素中毒症状が出現し、
その1つの表れとして、
骨へのフッ化物の沈着が、
フッ素骨症と呼ばれる骨や周辺組織の変化を起こす、
ということです。
フッ素は骨に取り込まれると共に、
骨の周辺組織に沈着し、
骨とその周囲の強い痛みの原因となります。

ウーロン茶などのお茶は、
その種類によってはかなり多くのフッ素を含んでいて、
その多飲によりフッ素骨症を来した事例を、
以前ご紹介したことがあります。

概ね今の考えとしては、
1日に8ミリグラムを超えるフッ素の摂取は、
フッ素骨症になるリスクがあります。
その一方で飲料水中に1ppm(1mg/L)程度のフッ化物が含有していると、
虫歯の予防となり、
骨折などの予防効果も期待される、
という考え方があります。

こうした考えに立ち、
アメリカやイギリスなどでは、
水道水のフッ化物濃度を、
1mg/L程度とするような措置が、
一部で行われています。

さて、1mg/L程度の飲水中のフッ化物であれば、
中毒のリスクが生じるのは、
1日8から10リットル以上を飲み続けた場合ですから、
基本的には問題はないと考えて良いと思うのですが、
1つ問題となる可能性があるのは、
甲状腺機能に与える影響です。

これはあまり知られていませんが、
フッ素には甲状腺機能を抑制するような働きがあります。

現在使用されている抗甲状腺剤も、
キャベツの成分がその元ですが、
微量元素には甲状腺機能に影響を与える物質が、
多く存在しています。

フッ素もその1つで、
まだ有効な抗甲状腺剤が開発されていなかった、
1950年代頃には、
フッ化物が甲状腺機能亢進症の治療薬として、
使用されていました。

その後抗甲状腺剤が広く使用されるようになったので、
フッ化物による治療という知識は、
忘れ去られることになったのです。

この時に使用されていたフッ化物の量は、
1日2から5ミリグラム程度ですから、
所謂フッ素骨症になるような中毒域より、
少ない量で甲状腺機能は抑えられる、
ということが分かります。

1日2ミリグラムのフッ素で甲状腺機能が抑制されるとすれば、
フッ素を強化した水道水で1日2リットルですから、
影響の出る可能性が充分に考えられます。

フッ化物がどのようなメカニズムで、
甲状腺機能を抑制するのかについては、
明確なことは分かっていません。

おそらくは甲状腺ホルモンの合成に必要な、
ヨード(ヨウ素)の取り込みを阻害したり、
甲状腺ホルモンの合成の過程を、
甲状腺に取り込まれたフッ素が、
阻害するのではないかと想定されますが、
それを実証するようなデータはありません。

フッ化物治療の行なわれていた当時は、
それを解明する技術自体がありませんでしたし、
現在であれば解明は容易いと思いますが、
興味を示すような研究者がいないので、
研究自体が行われていません。

ヨードの不足地域においては、
1日0.01mg/kg、
つまり50キロの人で1日0.5ミリグラムという少量であっても、
甲状腺機能の抑制効果がある、
というデータは存在していて、
このことはヨード欠乏とフッ素による甲状腺機能の抑制との間には、
一定の関連のあることを示しています。

つまり、
安全と言われる量のフッ素でも、
甲状腺機能低下症の原因となる可能性はあり、
ヨード欠乏があると、
よりその危険は高まる、
ということになります。

それでは、
実際にフッ化物を多く摂取しているような地域で、
甲状腺機能低下症が多く発症しているのでしょうか?

今回のデータはイギリスのもので、
イギリスでは人口の10%に当たる住民は、
水道水のフッ化物濃度が、
1.0mg/L程度に強化された地域で生活しています。
そこでその地域の水道水のフッ化物濃度と、
診断された甲状腺機能低下症の頻度とを、
比較検証しています。

飲料水中のフッ化物濃度が、
最大でも0.3mg/L未満の地域を基準とすると、
40歳以上の女性住民に限った解析として、
フッ化物濃度が0.3から0.7までの地域では、
その1.371倍(1.120から1.679)、
0.7を超える地域では1.621倍(1.379から1.904)、
甲状腺機能低下症の発症頻度が有意に増加していました。
これはあくまで病気として診断された機能低下症の頻度です。

もう1つの検討としては、
気象的な条件などが一致していて、
一方では水道水にフッ化物が入れられ、
もう一方では添加されていない地域を比較すると、
フッ化物の添加された地域は、
そうでない地域の1.935倍、
甲状腺機能低下症の発症リスクが有意に増加していました。

つまり、現状容認されているレベルの、
フッ素の摂取においても、
甲状腺機能低下症の発症リスクは、
最大で2倍程度は高まる可能性がある、
という推測になります。

本来は例数は少なくても、
実際にフッ化物の摂取を増やした場合の、
甲状腺機能の長期的な変化のデータや、
水道水にフッ素を添加した地域での、
その添加する前後の甲状腺機能低下症の発症率がどうであったか、
またヨードの摂取量との関連はどうなのか、
といった点についてのデータもないと、
不充分であることは否めませんが、
今では忘れられた感のある、
フッ素の甲状腺リスクに、
新たな光が当てられたことは間違いがなく、
今後の検証の積み重ねを注視したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 2

dumbo

fujikiさま、こんばんは。
フッ素もいろいろあるようですね。
歯を強くするどころか、多く使用すると歯が悪くなるといった報告もあるようですし。
わたしも注意するようにします。
by dumbo (2015-02-28 00:20) 

fujiki

dumboさんへ
コメントありがとうございます。
フッ素は色々と問題はあるように思います。
歯の局所の利用には、
問題はないと思いますが、
全身的に使用することは、
慎重に考えた方が良いかも知れません。
by fujiki (2015-02-28 08:09) 

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