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高血圧の治療タイミングについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高血圧の治療のタイミング.jpg
今月のBritish Medical Journal誌にウェブ掲載された、
高血圧の治療のタイミングと、
その予後に与える影響についての論文です。

高血圧を適切に治療することが、
心筋梗塞や脳卒中などの予防の意味で、
特にそうした病気のリスクの高い患者さんにおいては、
意味のある治療行為であることは間違いありません。

ただ、どのレベル以上の血圧が、
すぐに薬による治療の適応となるのかについては、
ガイドラインによっても差があり、
新たな知見も続々と発表されているので、
必ずしも明確に規定されるような事項ではありません。

診療所で健康診断を行ない、
上の血圧が150代であったような場合、
どのような指導を行ない、
どのようなタイミングで薬物治療を開始するべきでしょうか?

日本の「高血圧治療ガイドライン2014」によれば、
150代の血圧で特に他のリスク因子がなければ、
3か月以内の指導で、
まず経過を見る、という方針が示されています。

これが160を超えると、
1か月以内の指導により140未満に低下しなければ、
薬物治療を考慮する、
という方針になっています。

それでは、
上の血圧が150代の方に、
3か月以内に治療を開始するのと、
それをより長く、
たとえば半年や一年は延ばして経過を見るのとで、
具体的に果たしてどれだけ、
その方の予後に差が生じるのでしょうか?

また、降圧剤を開始した場合、
一般臨床において、
初回の血圧のチェックと薬剤変更の判断は、
どのくらいの期間内に行なうべきでしょうか?

患者さんによっては最初から長期の処方を希望しますし、
むしろ心配なので頻回の診察や検査を、
希望される方もいます。

頻回にチェックして血圧のコントロールを行なった方が、
患者さんの予後に良い影響を与えるのでしょうか?
それとも、2週間に一度の診察でも、
2ヶ月に一度の診察でも、
大した差はないのでしょうか?

ガイドラインを読んでも、
そうした実地診療の具体的な事項については、
あまり明確なことが書かれていません。

それは要するに裏付けになるデータが、
あまり存在していないことを示しています。

今回の文献はそうした実地臨床において重要なポイントを、
実際の実地臨床のデータを、
解析することによって明らかにしようとしたものです。

こういう研究が、
臨床においては非常に重要なのです。

イギリスのプライマリケアの医療データベースを元にして、
10年間以上の経過観察が行われていて、
その間に高血圧を指摘され、
一度は降圧剤による治療を施行された、
18歳以上の88756名の患者さんを対象として、
基礎となる収縮期血圧の数値と、
その測定から降圧剤治療の開始までの期間、
治療開始から次の血圧チェックまでの期間、
そうした臨床上のデータと、
観察期間中の脳卒中や心筋梗塞の発症率や、
死亡リスクとの関連を検証しています。

心筋梗塞や脳卒中などの発症には、
当然血圧以外に、
年齢や糖尿病の有無、
喫煙の有無などが関連しますから、
そうした因子を平均化して、
解析は行われています。
ただ、動脈硬化に関わる全ての因子が考慮されている訳ではなく、
たとえばコレステロール値などはデータに入っていませんから、
万全のものとは言えません。

その結果…

平均の治療期間は37.4ヶ月で、
その間に全体の11.3%に当たる9985名が、
心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を発症するか、
何らかの理由で死亡されています。

これを基礎となる治療前の血圧値毎に解析すると、
収縮期血圧が130から150未満までの範囲では、
血圧と心血管疾患の発症もしくは死亡のリスク、
また総死亡のリスクとの間に、
明確な関連は認められませんが、
150を超えると心血管疾患のリスクも、
総死亡のリスクも増加する傾向を示し、
そのリスクの上昇は160以上で有意なものになります。
具体的には心血管疾患リスクについては150代で1.03倍(0.97から1.10)で、
これは有意ではありませんが、
160代で1.21倍(1.13から1.30)となります。
総死亡リスクについては150代で1.05倍(0.97から1.14)で、
160代で1.26倍(1.15から1.37)となっています。

その血圧値が測定されてから、
実際に降圧剤による治療が開始されるまでの期間を、
全体を5分割して比較すると、
期間が1.4ヶ月を超えると、
その期間が延びるに連れて、
心血管疾患の発症と死亡のリスクも、
総死亡のリスクも増加する傾向を示しました。
具体的には心血管疾患リスクが1.4か月を超えると1.12倍(1.05から1.20)、
最も長い15か月超では1.25倍(1.17から1.35)となっていました。
総死亡については1.4か月を超えると1.11倍(1.03から1.20)、
最も長い15か月超では1.30倍(1.19から1.42)となりました。

更には、
降圧剤治療を開始してから初回の診察までの期間も、
同様に5分割して比較したところ、
それが2.7ヶ月を超えると、
心血管疾患の発症もしくは死亡リスクも、
総死亡のリスクも有意に増加していました。
具体的には心血管疾患リスクが1.18倍(1.11から1.25)、
総死亡リスクが1.21倍(1.13から1.30)の上昇を認めています。

つまり、今回のデータからは、
収縮期血圧が150を超えたケースでは、
生活指導により1か月程度経過を見て、
それで改善がなければ速やかに降圧剤治療を開始し、
初回の血圧のチェックは2ヶ月程度のうちには、
行なうことが望ましい、ということになります。
これは単純に血圧測定を行なう、ということではなく、
2ヶ月で目標に向けた改善が認められなければ、
薬の増量や変更など、
適切な措置を取る、ということを意味しています。

通常の診療で降圧剤を開始して、
血圧の再評価が3か月後以降になる、
ということはあまりないと思いますが、
収縮期150代程度の高血圧は、
患者さんが薬物治療に消極的であれば、
半年なり1年経過を見ることは、
しばしばあることでもあり、
今回のデータのみでそれが誤りとは言い切れませんが、
降圧治療の目的である心血管疾患の予防や生命予後の改善は、
そうした治療の遅れによっても、
影響される可能性があるということは、
医療者と患者の双方の知識として、
共有するべきもののように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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コメント 5

soujirou-3

血圧に関心があるのでしっかり読ませて頂きました。予後の意味が分からず辞書を引きました。
by soujirou-3 (2015-02-26 12:23) 

taniyan

石原先生、何時も有意義な記事、分かり易く解説下さり感謝しています。

さて本題、自分は40歳前から社内検診で、連続150/100が続き産業医から服役指導、高脂血症薬も同時。

アダラートL10mg×2回とメバロチン10mgからスタート、リタイヤまでこれで、でも不安定で良く診療所に飛び込み、頓服。

リタイヤ後は徐々に変薬、増量、というとう昨年末からノルバスク倍増10mgへ、他にブロブレス12mg、テノーミン25mg、夜間高血圧頓用バイミカード。

もうこれが限界、逝くまでこのままでしょうね、減薬トライするもやはり上昇、不安定。

飲み始めtら最後、止めれません。
by taniyan (2015-02-26 16:30) 

taniyan

石原先生、今晩は、コメント、誤字多く御免なさい。

確認が慎重でない証拠、加齢起因は言い訳になりますかね。

高脂血症治療もクレストール&ゼチーア、ゼチーアは自分には特効でした。


by taniyan (2015-02-26 20:02) 

fujiki

soujirou-3さんへ
コメントありがとうございます。
全ては難しいのですが、
極力分かりにくい専門用語のない、
記事を心がけたいと思います。
by fujiki (2015-02-27 07:56) 

fujiki

taniyanさんへ
コメントありがとうございます。
ゼチーアの併用で、
コレステロールの安定する方は多いですね。
降圧剤は減薬のタイミングはあることが多いので、
安定することが勿論優先ですが、
粘り強くタイミングを見て頂くのが良いかも知れません。
by fujiki (2015-02-27 08:03) 

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