肺炎における急性期のステロイド使用の効果 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のLancet誌にウェブ掲載された、
市中肺炎に対して急性期にステロイドを使用した場合の、
患者さんの予後への影響を見た文献です。
肺炎は非常に一般的な感染症ですが、
高齢者の死因の上位に常に顔を出す、
怖い病気でもあります。
肺炎が重症化する要因の1つとして、
身体の免疫細胞などから産生される、
サイトカインと呼ばれる炎症物質が、
過剰に産生されることが指摘されています。
サイトカインはウイルスや細菌などを退治する、
一種の武器のようなものですが、
身体の軍備が暴走することにより、
却って身体を攻撃し、
肺炎の重症化に結び付く可能性があるのです。
ステロイド(糖質コルチコイド)には、
強力な抗炎症作用があります。
このため重症の肺炎などのケースで、
通常の抗生物質などの治療に加えて、
ステロイドを使用する試みが、
1950年代から既に行われていました。
しかし、その一方でステロイドは免疫自体を低下させますから、
身体の抵抗力が落ちることにより、
ウイルスや細菌への攻撃力も低下して、
却って逆効果になる可能性も否定は出来ません。
また、
ステロイドには胃潰瘍や別個の感染症の誘発、
血糖の上昇など、
多くの副作用がありますから、
そのリスクも想定する必要があります。
2010年と2011年に、
200から300人の患者さんを対象とした、
比較的規模の大きな臨床試験が発表されています。
その一方では入院期間を1日短縮する有効性が認められましたが、
もう一方では肺炎の再発率を上げ、
むしろ予後に悪い影響を与えています。
このように、
この問題については、
まだ明確な結論が得られていません。
そこで今回の文献では、
スイスの複数の救急病院において、
入院治療を要した18歳以上の市中肺炎の患者さん、
トータル785名をくじ引きで2つの群に分け、
患者さんにも主治医にも分からないような形で、
一方はプレドニゾロンというステロイドを、
1日50ミリグラムで7日間使用し、
もう一方には偽薬を使用して、
その後の経過を観察しています。
その結果…
症状が改善するまでの期間は、
偽薬群では平均で4.4日であったのに対して、
ステロイド群では3.0日となっていて、
これは有意に改善までの期間が短縮されていました。
退院までの期間も1日程度、
抗生物質の注射での使用期間も、
矢張り1日程度有意にステロイドの使用により、
短縮されていました。
より肺炎の重症の病態である、
膿胸やARDSなどの発症は、
ステロイド群で少ない傾向はありましたが、
これは有意ではなく、
肺炎の再発や死亡リスクを含めた予後についても、
両群で有意な差は認められませんでした。
ステロイド使用の有害事象については、
インスリンの治療を新たに必要とするような、
血糖の上昇がステロイド群で19%、
偽薬群では11%認められ、
これは有意にステロイド使用群が多い、
という結果でした。
かなり高率に感じますが、
実際には両群とも、
患者さんの2割は糖尿病を持っている方なので、
ある意味当然と言えるように思います。
それ以外の有害事象については、
両群で明確な差は付いていません。
今回の結果は、
患者さんの背景に関わらず、
ほぼ自動的にステロイドを使用しているので、
それでこの結果はかなりステロイドの有効性を、
示唆するもののように思います。
ただ、勿論リスクの高い患者さんは除外していますし、
亡くなった患者さんも含まれているので、
オートマチックにこうした治療を行なうことが、
患者さんにとってメリットになる、
という意味ではない点には注意が必要です。
個人的には、
感染症時のステロイドの使用は、
2つに分けて考える必要があり、
その1つはストレス時の副腎の反応に個人差があるので、
急性のストレス時には、
ステロイドの補充は合理的なのではないか、
という観点で、
この場合の使用は、
ハイドロコルチゾンでせいぜい100ミリグラムで充分です。
もう1つは実際にサイトカインの過剰な産生が起こったことが、
病態から想定されるようなケースで、
この場合はハイドロコルチゾン換算であれば、
500ミリグラムくらいは最低でも使用しないと、
その抑え込みには使えないように思います。
今回の使用量は、
経口で1日50ミリグラムのプレドニゾロンですから、
炎症そのものの抑え込みには充分ですが、
その量でサイトカインストームを、
本当に抑え込めるのかは、
やや疑問にも思います。
実際これまでの臨床試験でステロイドの効果が確認されなかったものは、
より重症の患者さんを対象としていて、
今回の研究では最初から集中治療を要するような患者さんは、
除外されていますから、
そのことが結果に影響した可能性もあります。
いずれにしても、
重症化の恐れのある感染症に対して、
治療開始時からステロイドを使用するべきかどうかについては、
まだ結論が出ている事項ではなく、
患者さんの予後に良い影響を与える事例のあることは事実ですが、
その使用には個別の事例に即した、
慎重な判断が必要なように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のLancet誌にウェブ掲載された、
市中肺炎に対して急性期にステロイドを使用した場合の、
患者さんの予後への影響を見た文献です。
肺炎は非常に一般的な感染症ですが、
高齢者の死因の上位に常に顔を出す、
怖い病気でもあります。
肺炎が重症化する要因の1つとして、
身体の免疫細胞などから産生される、
サイトカインと呼ばれる炎症物質が、
過剰に産生されることが指摘されています。
サイトカインはウイルスや細菌などを退治する、
一種の武器のようなものですが、
身体の軍備が暴走することにより、
却って身体を攻撃し、
肺炎の重症化に結び付く可能性があるのです。
ステロイド(糖質コルチコイド)には、
強力な抗炎症作用があります。
このため重症の肺炎などのケースで、
通常の抗生物質などの治療に加えて、
ステロイドを使用する試みが、
1950年代から既に行われていました。
しかし、その一方でステロイドは免疫自体を低下させますから、
身体の抵抗力が落ちることにより、
ウイルスや細菌への攻撃力も低下して、
却って逆効果になる可能性も否定は出来ません。
また、
ステロイドには胃潰瘍や別個の感染症の誘発、
血糖の上昇など、
多くの副作用がありますから、
そのリスクも想定する必要があります。
2010年と2011年に、
200から300人の患者さんを対象とした、
比較的規模の大きな臨床試験が発表されています。
その一方では入院期間を1日短縮する有効性が認められましたが、
もう一方では肺炎の再発率を上げ、
むしろ予後に悪い影響を与えています。
このように、
この問題については、
まだ明確な結論が得られていません。
そこで今回の文献では、
スイスの複数の救急病院において、
入院治療を要した18歳以上の市中肺炎の患者さん、
トータル785名をくじ引きで2つの群に分け、
患者さんにも主治医にも分からないような形で、
一方はプレドニゾロンというステロイドを、
1日50ミリグラムで7日間使用し、
もう一方には偽薬を使用して、
その後の経過を観察しています。
その結果…
症状が改善するまでの期間は、
偽薬群では平均で4.4日であったのに対して、
ステロイド群では3.0日となっていて、
これは有意に改善までの期間が短縮されていました。
退院までの期間も1日程度、
抗生物質の注射での使用期間も、
矢張り1日程度有意にステロイドの使用により、
短縮されていました。
より肺炎の重症の病態である、
膿胸やARDSなどの発症は、
ステロイド群で少ない傾向はありましたが、
これは有意ではなく、
肺炎の再発や死亡リスクを含めた予後についても、
両群で有意な差は認められませんでした。
ステロイド使用の有害事象については、
インスリンの治療を新たに必要とするような、
血糖の上昇がステロイド群で19%、
偽薬群では11%認められ、
これは有意にステロイド使用群が多い、
という結果でした。
かなり高率に感じますが、
実際には両群とも、
患者さんの2割は糖尿病を持っている方なので、
ある意味当然と言えるように思います。
それ以外の有害事象については、
両群で明確な差は付いていません。
今回の結果は、
患者さんの背景に関わらず、
ほぼ自動的にステロイドを使用しているので、
それでこの結果はかなりステロイドの有効性を、
示唆するもののように思います。
ただ、勿論リスクの高い患者さんは除外していますし、
亡くなった患者さんも含まれているので、
オートマチックにこうした治療を行なうことが、
患者さんにとってメリットになる、
という意味ではない点には注意が必要です。
個人的には、
感染症時のステロイドの使用は、
2つに分けて考える必要があり、
その1つはストレス時の副腎の反応に個人差があるので、
急性のストレス時には、
ステロイドの補充は合理的なのではないか、
という観点で、
この場合の使用は、
ハイドロコルチゾンでせいぜい100ミリグラムで充分です。
もう1つは実際にサイトカインの過剰な産生が起こったことが、
病態から想定されるようなケースで、
この場合はハイドロコルチゾン換算であれば、
500ミリグラムくらいは最低でも使用しないと、
その抑え込みには使えないように思います。
今回の使用量は、
経口で1日50ミリグラムのプレドニゾロンですから、
炎症そのものの抑え込みには充分ですが、
その量でサイトカインストームを、
本当に抑え込めるのかは、
やや疑問にも思います。
実際これまでの臨床試験でステロイドの効果が確認されなかったものは、
より重症の患者さんを対象としていて、
今回の研究では最初から集中治療を要するような患者さんは、
除外されていますから、
そのことが結果に影響した可能性もあります。
いずれにしても、
重症化の恐れのある感染症に対して、
治療開始時からステロイドを使用するべきかどうかについては、
まだ結論が出ている事項ではなく、
患者さんの予後に良い影響を与える事例のあることは事実ですが、
その使用には個別の事例に即した、
慎重な判断が必要なように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
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2015-02-13 08:09
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