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急性膵炎における早期経腸栄養の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
膵炎の早期栄養療法の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
急性膵炎における早期の経腸栄養の効果についての論文です。

急性膵炎は、
その名の通り膵臓の急性炎症で、
通常突然の腹痛や嘔吐で発症します。

原因はアルコールと胆石によるものが、
明確なものでは多いのですが、
原因不明も3分の1程度は存在しています。

2010年の急性膵炎ガイドラインの記載によれば、
治療の進歩により予後は改善しているものの、
トータルでの死亡率は2.9%で、
最重症例の死亡率は30%を越えるとされていますから、
未だ侮れない怖い病気であることは間違いがありません。

重症の膵炎では、
膵臓の組織自体が壊死し、
そこに細菌感染が合併すると、
34から40%が死亡するというデータがあります。

つまり、
早期の細菌感染を防ぐことが、
膵炎の重症化を防ぐための、
1つのポイントなのです。

2010年に発表されたメタ解析の論文によると、
348例の重症急性膵炎の解析において、
発症早期に経腸栄養を施行することにより、
中心静脈栄養と比較して、
感染の合併率が低下し、
生命予後も改善したとされています。

別個のメタ解析の報告においては、
急性膵炎の入院もしくは手術後、
36時間以内に経腸栄養を開始した方が、
それ以降に開始するより、
感染合併のリスクを減少させた、
という結果になっています。

経腸栄養というのは、
鼻から細い管を胃の先の十二指腸まで挿入し、
そこから栄養剤を注入することです。

中心静脈栄養は患者さんを絶食にして、
太い静脈に点滴針を挿入し、
そこから栄養を注入するものです。

重症膵炎においてはエネルギーの必要量が増加しているため、
早期に充分な栄養を補給する必要があります。

膵臓は消化酵素を産生する臓器ですから、
そこに栄養を注入するのは、
却って病状を悪化させるのでは、
というように思えます。

お腹を絶食にして休ませ、
静脈から栄養を直接注入した方が、
より感染のリスクは少ないように思えます。

それが何故早期に栄養剤を小腸に注入した方が、
感染を予防出来るのかと言うと、
栄養剤が経腸的に注入されることにより、
胃腸の動きが正常に保たれ、
腸管の細菌叢も保たれるので、
それが腸管の悪玉菌による感染を、
防御するのではないかと考えられるのです。

中心静脈栄養を行なうと、
胃腸は栄養が入らない状態が続くので、
その動きは落ち、
それに伴って腸内細菌叢が変化して、
悪玉菌の増殖が起こる共に、
カテーテルによる感染も生じ易くなるのです。

しかし、個々の臨床研究の事例数は少なく、
これまでの知見は、
精度の高いデータは、
メタ解析によるものしかありません。

そこで今回の研究においては、
オランダの19の専門施設において、
重症の急性膵炎で入院となった患者さん208例を、
くじ引きで2つの群に分け、
一方では入院後24時間以内に経腸栄養を開始し、
もう一方では入院後中心静脈栄養をすぐに開始し、
72時間後に可能であれば経口摂取を開始し、
それが無理であれば経腸栄養を行ないます。

そして、登録後半年以内の、
感染の合併と死亡との差を検証します。

その結果…

早期経腸栄養開始群の感染症発症率は25%であるのに対して、
中心静脈栄養後に経口摂取群では26%、
早期経腸栄養開始群の死亡率は11%であるのに対して、
中心静脈栄養後に経口摂取群では7%と、
統計上両群に有意な差はありませんでした。

つまり、今回のデータにおいては、
これまでのメタ解析とは異なり、
早期に経腸栄養を開始しても、
中心静脈栄養を優先させても、
明確な予後の差は認められませんでした。

従って、
可能な限り速やかに、
経口摂取を開始出来た方が予後が良い、
ということは間違いがないのですが、
画一的に経腸栄養をすぐに開始した方が、
患者さんの予後が改善する、
と言う考えは、
まだ事実と言えるものではないように思われます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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