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コレステロールの代謝物と動脈硬化との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

11月22日に放映された、
「リーガルハイ」のスペシャルは、
医療訴訟を扱ったものでしたが、
台本が非常に巧みに出来ていて、
それでいて気骨があり、感心しました。

最初は明らかにシドニー・ルメットが監督して、
ポール・ニューマンが主演した、
「評決」という映画を元にしていて、
これは「評決」じゃん、と思うのですが、
途中からそうではなくなり、
「科学による犠牲」の問題にシフトします。
通常こうしたことを正々堂々と言うのは、
ドラマでは問題視されることもあるのですが、
それを「問題弁護士」に言わせておいて、
かつ声なき声も同時に拾い上げるところが、
際めてクレヴァーな作劇なのです。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
27水酸化コレステロールと動脈硬化.jpg
今年のCell Metabolism誌の論文ですが、
27水酸化コレステロールという、
コレステロールの代謝産物が、
動脈硬化を進行させるような作用を持つのではないか、
という内容です。

先日同じコレステロールの代謝産物である、
25水酸化コレステロールに、
免疫の過剰な反応を調整する作用があるのではないか、
というような論文を紹介したところ、
コメント欄で教えて頂いたものです。

コレステロール、
特に悪玉コレステロールと通称される、
LDLコレステロールが高値であると、
動脈硬化性の病気である、
心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが増加し、
スタチンという薬でコレステロールを低下させると、
その再発予防になることは、
多くの臨床データから実証された事実です。

ただ、LDLコレステロールが高いと、
何故動脈硬化が進展するのかについては、
色々と仮説はありますが、
まだ立証されたと言うのにはほど遠いものがあります。

コレステロールの数値を下げれば下げるほど、
動脈硬化の進展は抑制されるという推測が、
当初はなされたのですが、
スタチンの治療の臨床試験においては、
必ずしもそうした明確な関連が得られていません。

むしろスタチンの抗炎症作用が、
動脈硬化の進行を抑制しているのでは、
というような考え方もあるのです。

最近注目されている知見の1つは、
コレステロールそのものではなく、
その代謝産物が、
動脈硬化や免疫を含めて、
身体の機能に大きな影響を持っているのではないか、
というものです。

先日ご紹介したScience誌の論文では、
コレステロールの代謝産物の1つである、
25水酸化コレステロールが、
主に免疫細胞に発現していて、
過剰な免疫反応を調節している、
という内容でした。

今回の文献で扱われているのは、
血液中に最も多く存在している、
27水酸化コレステロールの身体への影響です。

上記文献の著者らは、
27水酸化コレステロールが、
女性ホルモンであるエストロゲンの受容体に結合して、
その作用を調節している、
という知見を最近明らかにしています。

エストロゲンはステロイドホルモンの仲間で、
コレステロールはその材料なので、
互いにこうした関連はあっておかしくはないのです。

それでは、
27水酸化コレステロールと動脈硬化との関連はどうなのでしょうか?

エストロゲンに抗動脈硬化作用のあることは、
良く知られている事実ですから、
27水酸化コレステロールにも、
動脈硬化への作用があってもおかしくはありません。

今回の研究においては、
動脈硬化のモデル動物を使用して、
27水酸化コレステロールと、
その血管に対する作用を詳細に検証しています。

その結果…

血液中の27水酸化コレステロールを、
その分解酵素の欠損した、
動脈硬化が病的に進行するネズミを使用して検証すると、
酵素の欠損したネズミでは、
27水酸化コレステロールの血液濃度は数倍に上昇しますが、
コレステロール自体には殆ど変化はありません。

このように27水酸化コレステロールのみが上昇したネズミでは、
動脈硬化巣への脂肪の沈着が増加する、
という変化が認められました。
更に別個の実験により、
27水酸化コレステロールの上昇により、
血管における炎症反応が惹起されることも確認されました。

つまり、27水酸化コレステロールが上昇すると、
動脈硬化が進行することが示唆されます。

27水酸化コレステロールは、
エストロゲンの受容体に結合するので、
今度はエストロゲンの抗動脈作用効果と、
27水酸化コレステロールとの関連を検証する目的で、
動脈硬化モデルネズミと更に27水酸化コレステロール分解酵素の欠損したネズミで、
高濃度のエストロゲンを使用すると、
27水酸化コレステロールの増加による、
動脈硬化の進行は抑制されました。

つまり、27水酸化コレステロールの動脈硬化促進作用は、
エストロゲンの受容体を介していることが示唆されます。

この結果を、
前回の25水酸化コレステロールのデータと併せて考えると、
コレステロールが肝臓で代謝されて、
27水酸化コレステロールになると、
それがエストロゲンの受容体を介して、
その作用を阻害することによって、
動脈硬化を進行させます。
(必ずしも阻害作用のみではないようです)
そして、免疫細胞においてコレステロールが代謝されて、
25コレステロールになると、
それは動脈硬化には関与せず、
免疫系の調節に関わるのです。

これはまだ敢くまでネズミの実験なので、
人間でも同様のことが言えるとは限りませんが、
コレステロールの代謝物が、
コレステロールと動脈硬化と免疫の謎を、
意外に解き明かすカギになるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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よろしくお願いします。

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みゆ

こんにちは!
リーガルハイ非常におもしろかったですよね。
私も下垂体機能低下症と言う難病を患っているのと、犬を飼っているので動物実験についてもいろいろ考えた結果、コミカド氏と同じように、医学の発展はいろんな人の死によってもたらされるもの。と思っております。
医学だけでなく、生きると言う行為自体、さまざまな生命体から命をいただいてるので、それをきちんと自覚して生きていくと言う事が大事ですよね。

TSHの日中変動の記事でこちらにお邪魔させてもらいました。
生理時の変動はあるのか気になってネットで記載を探してたのですが、日内変動あるのですね!全然知らなかったです。
by みゆ (2014-11-26 14:07) 

fujiki

みゆさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2014-11-27 08:12) 

まな

初めまして、以前から妊娠中の体重増加が戻らず脂肪肝があり1月の健康診断で胃カメラついでの血液検査でコレステロールなどが高かったです。
総コレステロールが230くらい
LDL144
HDL74

他にオーバーしている項目はLDHが基準値から+5くらい?
だった気がします。

先生はLDLが高めだけどHDLも高いので比はいいからとりあえず生活習慣気をつけて〜という感じでした。

薬はいやですが飲まなくても大丈夫なのでしょうか?

食事は玄米や野菜沢山のお味噌汁など心掛けていますが育児に仕事でなかなか運動をする時間がとれません。
160センチ63キロ30代前半で軽度肥満はわかっています。泣

2015年人間ドック新基準案では30〜44歳女性は61〜152とありました、このような設定になるのでしょうか?

現在は119まで、でも血液検査結果表は基準値139まででした素人だとこのあたりもよくわかりません。

これから妊娠を希望しているので本当に投薬なしで様子見でいいのか不安です、ゆっくり病院に行く暇がなくご質問させて頂きました。
by まな (2016-04-29 05:27) 

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